のどかな街並みが広がる静岡県西部の掛川に、国内の名だたるデザイナーズブランドがこぞって生地を注文する織物工場がある。
正月の朝も、織機の大きな音が響く。カネタ織物(太田稔社長)は、創業70年を超える老舗工場だ。場内には旧式のシャトル織機、レピア織機が計22台。限られた生産能力ながら、熟練の職人技術により、高品質な織物生地を小ロットで生産する。
お家芸は超高密の綿織物だ。職人による巧みな技術から生まれる生地は、落ち感とハリを備えた極上の仕上がり。ただし使う糸が非常に細かったり、限界まで強く撚りをかけていたりするため、綿に最適な環境で織布しなければ生地が破れてしまうこともある。工場内は常に摂氏25度、湿度70%に保たれている。
「生地の価値で選ばれる機屋にならなければ」
戦後の衣料品不足で、織機を動かしただけもうかると言われた「ガチャマン景気」の1950年代、掛川など遠州地域一帯に織物工場が広がった。当時、工場とメーカーとの間で産元商社(アパレルメーカーなどから注文を受け、地元の機屋などに織物生産を依頼する中間業者)が力を持ち、工場は産元商社が要望する生地をひたすらに生産した。しかし00年代には海外の安価な生地が流入し受注が激減。工場は次々に閉鎖した。
産元に頼らず、生地の価値で選ばれる機屋にならなければーー。危機感を持った太田社長は生き残るためにビジネスモデルの転換を進め、デザイナーやメーカーへの直販を強化してきた。
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