近未来のテクノロジーとファッションを掛け合わせ、瞬く間に世界を席巻した新進気鋭のベンチャー企業、RTFKT(アーティファクト)。一昨年ナイキによる買収を受け、その勢いはさらに増している。
2022年12月20日に、RTFKTのプロジェクト「クローン X(CLONE X)」のホルダー向けイベントについての記事を公開した。ツイッターの「クローン X」コミュニティーからは想像以上の反響が見られ、驚くことにRTFKTのコミュニティー責任者、YC(ワイシー)とつながり、直接話を聞くことができた。多くの人がまだ知らないRTFKTやNFTの魅力、そして親会社であるナイキとの関係性について話を聞いた。
■NFTの概念について
WWD:NFTの魅力について、どのように考えますか?
YC:まだまだ初期段階ですが、私たちがWeb3.0を信じる大きな理由の一つはデジタルアセットの所有権という考え方があるからです。Web2.0では、私たちはデータや資産を所有せず、所有権はすべて中央集権的な企業のサーバーに置かれています。インターネット上のソーシャルメディアであなたがすることは、すべて誰かのもので、自分でコントロールすることはできません。
ブロックチェーンを使えば、インターネット上で所有しているものを調べ、伝達することができます。例えば私が「クローン X」を持っていて、ブロックチェーンが私が所有していることを示せば、誰も異論することはありません。平たく言えば、現実の世界で家を所有するとき、その家を所有していることを示す紙の証明書があるのと同じ考え方です。これらの証明書が、Web3.0ではブロックチェーン上にあります。このように、デジタル資産をオンラインで所有することが、Web3.0の大きなビジョンであり、コンセプトです。
では、このデジタル資産とはどのようなものなのか、というのが問題です。デジタル資産には、現実世界と同じようにさまざまな種類があります。現実の世界と同じで、お金を持っている人が集めることができるという点や、人によっては投資を目的に所有する人もいるでしょう。
でも、NFTは“実用性”“経験”のために所有する側面もあります。「クローン X」の場合は“デジタル・アイデンティティー““経験”のほか、“コミュニティーへの入り口”と考えていたり、“グローバル・ネットワーク・コミュニティーの構築”を目的にする人もいます。
WWD:NFT所有者が得られる具体的な経験について教えてください
YC:NFTを購入したり、所有したりすることで、私が強調したい経験は3つあります。1つ目は「フォージング(Forging)」。この言葉はゲームからインスピレーションを受けており、RTFKTに関しては、NFTのオーナーがデジタルアイテムをフィジカルアイテムに変換し、両方のバージョンを持つことを意味します。例えば、“RTFKT x ナイキ スペースドリップ エア フォース 1”では、NFT所有者がフィジカルなシューズを手に入れました。
これらはいわゆる“ワールド・マージング NFC”で、フィジカルスニーカーにもNFC(=Near Field Communication)タグが搭載されているため、アイテムを受け取った後、フィジカルとデジタルの世界をつなげることができます。NFCタグとは、アプリの起動やWebページのURLなどの情報を登録しておくことで、スマートフォンをかざすだけで通信や動作を実行できます。
そして、私たちが常に心がけているのが「AR体験」です。これは、私たちの「ARパーカ」のフィジカルで示されています。パーカの表と裏の両方にARコードがあり、誰かがスナップチャットでコードをスキャンすると、ARの羽が出現する仕組みです。
最後に挙げられる例として「3Dファイルの所有」があります。「クローン X」のNFTを所有することで、完全な3Dファイルをダウンロードすることができます。そして、それをスナップチャットにインポートしたり、ブレンダーなどの3Dソフトウェアで使用して、独自の画像やアニメーションを作成することができます。
YC:Web3.0やNFTの世界には、「NFA=Not Financial Advice」という言葉があります。いち従業員として人々の経済的な生活に影響を与えることはできないため、金銭的な意味でのアドバイスはできません。ただ経済的な側面以外で楽しむことを考えるなら「クローンX」の NFTはおすすめです。最もユニークかつRTFKTへの入り口でもあり、コミュニティーの中であなたのデジタル・アイデンティティーを形成できると思います。私たちのコミュニティーでは、誰もが自分のクローンでお互いを認識し、自分のブランドやコンテンツを構築するようになりました。
WWD:先日開催した「クローン X トーキョー(Clone X Tokyo)」の盛り上がりをどう受け止めていますか?
YC:とても刺激だったと思う。この数ヶ月で知り合った日本のコミュニティーに感謝しています。まずクリエイターとして、彼らは非常に芸術的で、美意識が高い作品を制作しています。またコレクターとしては、長期的に作品を所有し、さまざまな方法でプロジェクトをサポートすることに非常に熱心です。そういった理由から、日本のコミュニティーは素晴らしいと心から感じています。
実は、多くのアーティストがNFTの世界に参入している点で、日本は他の多くの国よりもかなり進んでいます。日本のアーティストたちはプロジェクトに文化をもたらしてくれるのです。だから、RTFKTの創業者たちは早い段階で村上隆とコラボしました。彼らにとって、日本のアーティストとコラボして、日本のアートや文化の大きな部分をPFPコレクション(Profile Picture=SNSのアイコンなどに使われるNFTアート)に取り入れることはとても重要なことなのです。技術やIT系の仕事をする人は「アバター」という言葉を知っていると思いますが、最近はほぼPFPに追い越される形で使用されています。
■RTFKTの取り組みや所有者の特徴
WWD:RTFKTがこれほどまでに大きな存在に成長している理由とは?
YC:さまざまな理由で人気があるのだと思います。一つは、多くの人が芸術を好きだから。2Dのプロジェクトが多い中、RTFKTは数少ない3DネイティブのPFPプロジェクトです。2Dももちろん素晴らしいですが、3次元ではより多角的なアイデアを実現してくれるため、アート好きの人々の注目を集めているのでしょう。そしてさまざまな特徴を持つコレクションがあるのも彼らにとって魅力なのだと思います。
WWD:RTFKTとして、これまでに最も成功した取り組みは何だと思いますか?
YC:創業者たちは違う視点を持っているかもしれないですが、もし私が選ぶとしたら、私たちがナイキに買収されたのと同じ時期に生まれた「クローン X」ですね。私たちが行った唯一のPFPコレクションで、最も成功したものであり、PFPコレクションの原型とも言えるでしょう。
「クローン X」がパワフルである理由は2つあると思います。第一に、2万体もののコレクションを持っていて、1万人のホルダーがいます。それらのホルダーがコミュニティーを形成するのはとても強力で、継続力があります。
2つ目は、デジタルアイデンティティーの表現です。「クローン X」のNFTを所有すると、3Dファイルをダウンロードすることができ、3Dファイルをダウンロードして3Dのスキルを学び、自分自身のブランドを構築することができます。
WWD:「クローン X」の始まりについて教えてください。どのように配布されたのでしょうか?
YC:2021年11月時点でのRTFKT保有者に向け、優先的に「ミントバイアル(Mintvial)」を低価格で配布し、一部は一般販売も行いました。それぞれの「ミントバイアル」はその後、ランダム化されたクローンとして生まれます。その後、ホルダーには3Dファイルやクローンの使い方をまとめたユーティリティーも納品しています。
村上隆をはじめとするアーティストとのコラボレーションもあり、「クローン X」に素晴らしいアートとカルチャーを吹き込んでくれました。3Dアートのクオリティーの高さと、3Dアバターの可能性に感動していただけたようで、とても好評でした。
WWD:国籍、世代など、RTFKTのNFTホルダーの特徴は?
YC:アメリカではロサンゼルスやニューヨーク、そのほかドイツやフランス、イギリスのほか、日本、中国、韓国、台湾、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなどの国や都市は、強力なホルダーやコミュニティーが存在する主要都市です。共通するのは、経済先進国であるということ。察する通り、NFTは安い買い物ではないので、金銭的に余裕があり、経済システムに参加できるのは、概して先進国の人たちになってしまいます。
パーソナリティーとしては、テクノロジーに熱心な人たちが多いですが、音楽を好む人やファッションに情熱を傾ける人などさまざまで、10代から定年退職した人まで年齢層は幅広いです。
■RTFKTの人員構成について
WWD:RTFKTにおけるあなたの役割とは?
YC:私は、コミュニケーション&エクスペリエンスの責任者として、3つのことを担当しています。1つ目は「コミュニケーション」。Web3.0は、多くの人にとってまだ少し分かりにくいところがあり、簡単に理解できることではありません。私は創業者たちと一緒に、人々が知るべきことを確実に伝えます。
2つ目は「コミュニティーの活性化」。私は「クローン X トーキョー」のオーガナイザーではありませんが、コミュニティーのオーガナイザーとして、資金やコンテンツなど、彼らが必要とするものを全て提供し、サポートしました。ツイッターでバーチャル・コミュニティーを運営したりなど、オンライン上でコミュニティーを形成することも可能ですが、デジタルな関係だけでなく、フィジカルな関係も必要だと私たちは考えています。バーチャルとフィジカルが組み合わさることで、より強力な結束が生まれるのです。それぞれの地域文化、コミュニティーのリーダーやオーガナイザーによって、多様な取り組みが行われています。
最後に「コレクターズ・エクスペリエンス」と言われる、私たちの経験を集約した戦略についての役割があります。「クローン X」だけでなく、RTFKTにはさまざまなNFTプロジェクトがあり、参加している人は誰でもコレクターとみなされます。その上で、私の仕事は「ホルダーの経験とは何か」を考えるサポートをすることです。つまり「クローン X」を所有していることで、単に所有するだけではなくどんな実体験ができるのか、ということです。バーチャルなデジタル体験だけではなく、フィジカルにおける体験でもあります。
WWD:RTFKTのチームはどのような人員構成になっているのでしょうか?
YC:私たちはみんな、Web3.0の精神を強く持っているので、フリーランスや契約人材が多くを占めます。おそらく正社員は35〜40人程度になるでしょう。嘘っぽく聞こえるかもしれませんが、チーム全員が非常に活躍していると思います。皆さんが魅力を感じるようなビジュアルやコンテンツ制作、クリエイティブディレクションを管理しているのはRTFKTの創業者たちです。
私たちの活動はテクノロジー、ファッション、そしてアートの組み合わせなので、それぞれのエキスパートが必要です。そして当然ながら、NFTのデジタル資産はブロックチェーンに大きく依存しているので、技術チームも非常に重要。また、デザインチーム、ビジュアルデザイナー、コンテンツチームと呼ばれる人たちもいます。彼らはビジュアルデザインから、3D、アニメーション、そしてコンテンツに関わるものまで、すべての制作を担います。ファッションを担当するチームは素材やデザイン、制作、配送のことを考えなければなりません。また、Web3.0ではコミュニティー形成が非常に大切なポイントとなるので、私が属するコミュニティーチームも重要だと思いたいですね。
WWD:さまざまなクリエイターが所属したり、コラボしたりしていますが、どのように彼らを選抜しているのでしょうか?
YC:私たちのクリエイティブ・チームはクレイジーなほど、才能に溢れています。その多くは創業メンバーたちが見つけた才能で、非常に厳選されていると思います。そして私たちが人材を見つける方法は手作業で選ぶことが多く、履歴書をチェックすることはあまりありません。
私たちスタッフの何人かは、元々はNFTコミュニティーのメンバーとして活動していました。時間が経つにつれて、私たちがコミュニティーのために多くのことを行っていることをRTFKTチームが知り、採用に至ったケースもあります。面白いことをやっている人、チームのビジョンに合っている人など、ほとんどは創業者によって、過去の関係やこれまでの実績に基づいて選ばれていると思われます。
さまざまなコレクションを作るのは、創業者が選んだ19人のアーティストです。有名なアーティストばかりではありませんが、信じられないほどの才能があふれています。中には16歳や18歳の若者もおり、その若さですでに「ナイキ(NIKE)」の“エア フォース 1”をデザインしています。NFTにはロイヤリティーという概念があるので、アーティストと印税を共有しています。だからこそまだ若い彼らも収入を獲得することができるのです。若くて有望なアーティストに力を与え、才能を発揮してもらいたいという私たちRTFKTの信念と情熱を示す、良い例と言えるでしょう。
■ナイキとの関わりについて
WWD:ナイキによる買収を受け入れた理由とは?
YC:具体的な理由は創業者たちにしかわかり得ませんが、少なくとも私が言えることは、ナイキとRTFKTのパートナーシップはWin-Winの関係で、とても健康的であるということです。私たちにとって、ナイキのブランド力を活用できるのは明らかです。例えばスニーカーにおいて、彼らの象徴的なアイコンスニーカーである“エア フォース 1”を一緒に作ることができるし、製造や生産から配送までの大きなサプライチェーンも活用できる。これらはナイキが得意とする分野で、彼らが何十年も構築してきた財産です。
逆に私たちがナイキにもたらすものは、Web3.0での概念や具体的なやり方です。RTFKTは、Web3.0を通じたクリエイターコミュニティの運営や構築の手本となることができます。
また、RTFKTにとって本当にありがたい部分は、ナイキがWeb3.0の空間そのものが全く新しいものであることを理解し、RTFKTに多くの自主性を与えてくれたということ。私たちが効率的に動き結果を出すには、活動するための余白が必要です。タッグを組むことで、彼らは自分たちの目標を実現すると同時に、私たちの活動を支援し、スペースを提供してくれます。
■RTFKTの今後について
WWD:RTFKTの今後のビジョンについて教えてください
YC:今年は“ストーリーテリング”に焦点を当て、ホルダーの経験を強化したいと思っています。コミュニティーのために、私たちが行うすべてにおいてストーリーを構築することで、デジタルでもフィジカルでも最高の体験を提供したいです。人々は製品をただ買うだけではなく、製品に付随する経験を得たいと思うようになってきたように感じます。“ストーリーテリング”における例として、「リモワ(RIMOWA)」とのコラボレーションが挙げられます。ブランドの象徴的なスーツケースを作るまでの仮想ストーリーと冒険が、まるで映画のようにダイナミックな動画作品で公開されています。人々が背景を知ることで、自分もそのストーリーの一部であると実感できるのです。
そしてクリエイターを目指す人たちを一層支援し、彼らの作品にスポットライトを当て続けたいと考えています。正直なところ、この2つに尽きます。
来年以降に関しては、正直予測がつきません。なぜならWeb3.0はとても新しい空間で、未来にどのような技術やアイデア、コンセプトが生まれるかを予測することは不可能なんです。来年度の計画を持ちながら広い視野で動いていきたいと考えていますが、長期にわたる厳格な計画を持つことは、イノベーションを止めてしまう可能性があるので避けています。この分野はとても新しいので、常にオープンである必要があると考えています。
WWD:RTFKTの次なる注目ニュースは?
YC:最近公開したものであれば、「アニマスエッグ(ANIMUS EGG)」と呼ばれる新たなNFTで、「クローン X」のクローン保有者に1つずつ与えられるエアドロップ(無料の配布)です。
卵の中に何が入っているのかはもうすぐ知ることになりますが、実は卵の中に何が入っているのか、すでにビジュアル上でヒントを出しているんです。クローンが2万体あるので、2万個の卵を用意しています。すべてのクローンがアニマスと呼ばれる小さなペットを飼っているとします。サトシとピカチュウのように、クローンはアニマスと一緒にさまざまな冒険に行き、クエストに参加することができるのです。それぞれが保有しているクローンがどこから来たのか、そしてどんな生活をしているのかをホルダーが実際に体験し、知ることができます。つまりこれらは、私たちが掲げる2023年の目標“ストーリーテリング”の模範的な例になると言えるでしょう。