ファッション

パリコレデザイナー「ロク」が語るモノづくりの変化 メンズウエア挑戦や「コンバース」コラボなど

ロク・ファン/「ロク」デザイナー

PROFILE:韓国・ソウル生まれ、米テキサス・オースティン育ち。ロンドンのセント・マーチン美術大学でメンズウエアとウィメンズウエアを学ぶ。2010年にフィービー・ファイロによる「セリーヌ」で3年間アシスタントデザイナーを経験後、フリーランスデザイナーとして「ルイ・ヴィトン」や「クロエ」のデザインを手掛ける。16年に自身のブランド「ロク」を立ち上げ、18年度の「LVMHプライズ」で特別賞を受賞。19-20年秋冬に初のランウエイショーをパリで発表。19年に「ビジネス・オブ・ファッション(The Business of Fashion)」の“世界を代表するファッション業界人500人”「BoF500」に選ばれる。PHOTO : KO TSUCHIYA

 「ロク(ROKH)」は、ファッション好きに定評のあるブランドだ。エレガントでありながら、エッジの効いたデザインを強みに、BLACKPINK(ブラックピンク)やハリウッドセレブにも愛されている。デザイナーのロク・ファン(Rok Hwang)は、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)が手掛ける「セリーヌ(CELINE)」で経験を積み、2016年に自身のブランドを設立。18年度「LVMHプライズ」特別賞を受賞し、同年からパリ・ファッション・ウイークでコレクションを発表し続けている。

 12月には「コンバース(CONVERSE)」のトップライン“コンバース アディクト(CONVERSE ADDICT)”との初のコラボレーションを発表し、ドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA以下、DSMG)限定のカプセルコレクションを披露。同コレクションはユニセックスで、メンズウエアをローンチする構想の布石となった。3年ぶりに来日を果たしたロク・ファン(Rok Hwang)が、モノづくりやパリへのアトリエ移転計画などを語った。

「コンバース」は憧れ
1990年代のバッシュにように

――「コンバース」とのコラボレーションについて教えてください。

ロク・ファン(以下、ロク):「コンバース」は子どもの頃から好きなシューズブランドだ。特に“チャックテイラー”はアイコニックなので、「ロク」のモデルで作ってみたいと思っていた。「コンバース」がバスケットボールシューズの製造から始まったという歴史もあり、今回のインスピレーションは、僕が子どものときに触れていた1990年代のバッシュだ。さらにアメリカのビンテージへと着想を広げて、レゴや積み木などアメリカの古き良きおもちゃをイメージし、ダブルソールのデザインにした。

――白を基調とした理由は?

ロク:ビンテージから着想を得ながらも、フレッシュな印象を与えたかったので、アイボリーやベージュ、グレーなどを合わせている。特にベージュは「ロク」で多用している色でもあり、ブランドらしさをこのコラボレーションで表現するのにぴったりでした。

――DSMG限定アイテムとして、ユニセックスのウエアも登場しました。

ロク:ウエアは、「コンバース」コラボレーションで用いた90年代のアメリカンビンテージのアイデアを拡張させた。レトロなグラフィックやパッチを付けて、遊び心を加えている。ユニセックスにしたことで、僕自身も着用できるようになった。90年代にアメリカで過ごした、僕のパーソナルでノスタルジックな記憶に結びついる。

――過去のインタビューで「メンズウエアにも挑戦したい」と語っていました。実現の予定は?

ロク:今、実現に向けて動いているところ。正確な時期は教えられないが、もうすぐだ。

――コラボレーションの相手を選ぶときの基準は?

ロク:「ロク」は派手ではなく、控えめなブランド。だからその世界観にマッチして、お互いにとって有意義な協業にしたい。過去には「アシックス(ASICS)」ともシューズを作ったし、京都の川島織物セルコンというテキスタイルメーカーとチェアを製作した。今も他社とのコラボレーションを企画中なので、楽しみにしていて。

――「ダブレット(DOUBLET)」ともTシャツを共同制作していましたね。

ロク:そう!「ダブレット」の井野(将之)さんとは、「LVMHプライズ」で出会ってから仲良くしてもらっている。彼はクリエイティブで、職人技を深く理解していて、ユーモアをうまく取り入れたスタイルにいつも刺激を受けている。また面白いことを一緒にできたらうれしい。

“アメリカンビューティ”を象徴
テイラー・ヒルをモデルに起用

――23年春夏コレクションのショーについて教えてください。

ロク:僕はいつも現代女性に向けて、美しくエレガントでありながら、エッジの効いた遊び心のある服を提案したいと思っている。23年春夏は“The Irrational View(不合理な見識)”をテーマに、エレガンスと遊び心の対比を楽しんでもらえるようなコレクションだ。例えば、シルエットはマーメードのように華やかでも、部分的にカットアウトしていたり、破けたようなディテールが施されていたり。ちょっとだけひねりを加えている。

――テイラー・ヒル(Taylor Hill)が登場して驚きました。彼女を起用したのはなぜですか?

ロク:テイラーはアメリカを代表するアイコニックなモデルであり、ナチュラルな美しさを象徴しているから。僕がアメリカ育ちというバックグラウンドもあり、“アメリカンビューティ”を表現できるモデルを起用したかった。

――最近はBLACK PINKをはじめとするK-POPアイドルなどの着用も多いですね。反響は?

ロク:素敵な女性たちが着こなしてくれて本当に幸せ。最近はハリウッドスターの着用も増え、ブランドに新しいストーリーが作られていくような感覚。でも、街で「ロク」を着ている人を見かけたときの感動はとても大きく、アイドルやスターたちの着用と同等にうれしい!

ビジネスは好調
パリへのアトリエ移転計画も

――ファンを世界中に拡大していますね。ビジネスも好調でしょうか。

ロク:ありがたいことに好成長を続けている。強力なファンベースが築けているため、コロナ禍でも卸先は減ることがなく、ビジネスを順調に続けることができている。チームメンバーも20人に増えた。

――どの国での人気が高いのでしょうか?

ロク: 特にイギリス・ロンドンと日本が大きな市場だ。

――現在はロンドンを拠点に置いていますが、今後も変わらずロンドンで制作を続けますか?

ロク:実はパリへ拠点を移そうと準備を進めているところ。19年からパリ・ファッション・ウイークでショーを発表しているので、今後はパリにアトリエを構える方が効率的だと考えている。場所は今探しているところだが、順調に進めば23年中にはパリに移りたい。

――パンデミックを経験して、ブランドに変化はありましたか?

ロク:特に変わったのは、働き方ですね。生産チームがポルトガルにいたり、PRオフィスを韓国にオープンさせたりと、他国からでも一緒に働くメンバーが増え、ビジネス基盤も少しずつ固めている。今までは出張が多かったのに、Zoomミーティングで済ませることも増えた。でも、結局最後は直接会って、現物を見ながら話し合うことが大切だ。

ファッション業界を志す人へ
“我慢強くあること”

――「LVMHプライズ」特別賞を獲得してから4年が経ちましたね。同プライズでは毎年、世界中から新しい才能が発掘されています。若い世代のデザイナーたちやファッション業界を志す学生たちにアドバイスを与えるとしたら、どんなことを伝えたいですか?

ロク:僕はまだアドバイスできるようなポジションにはいないと思うけれど……(笑)。ファッションが好きならば、とことん突き進んでほしい。必要なのは我慢強さ。辛いことがあってもすぐに諦めず、根気強くできることを続けるのが成功の秘訣だ。ファッション業界は常に新さが求められているので、僕自身も次世代の新しいクリエイションを見るのが楽しみ。

――23年の抱負は?

ロク:パリで発表した23年春夏コレクションはとても好評だったので、ブランドの世界観により深みを出していきたい。芯の強さを持つ「ロク」の女性像、そのアティチュードをもっと表現できるように努めていく。ビジネスでは、自社ECも強化したいので、コミュニケーションの方法を工夫したい。

――ひさしぶりの来日はいかがですか?

ロク:3年ぶりに戻ってくることができてうれしい。今回は4日間と短い滞在だが、週末には箱根へ行く予定だ。

――最近ハマっていること、関心があることは?

ロク:最近はフランスでアウトドアの楽しさを知ってしまった。ドライブをして、山でキャンプをして、自然の中で過ごすことにハマっています。日本でもキャンプが流行していると聞いたので、いつか日本でも体験したい。

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