2022年のファッション業界における大ニュースの一つは、間違いなく「グッチ(GUCCI)」のクリエイティブ・ディレクターを7年にわたって務めたアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)の退任だろう。後任の決定まではデザインチームがコレクションの制作を続けるといい、1月13日にミラノ・メンズ・ファッション・ウイークで開催するショーもその体制で挑むが、そこで後任を発表するかもしれないと大きな注目を集めている。
一方で、時間をかけて後任を選ぶため、当面はチーム体制が続くだろうと予測する専門家もいる。情報筋によれば、内部昇格と外部起用のどちらになるとも言い切れないが、前者については最近「グッチ」のスタジオ・デザイン・ディレクターに就任したレモ・マッコ(Remo Macco)、長年「グッチ」のデザイナーを務めているダビデ・レンネ(Davide Renne)、デザインスタジオのメンバーであるマルコ・マリア・ロンバルディー(Marco Maria Lombardi)らが候補として挙げられているという。後者については、昨年9月まで「バーバリー(BURBERRY)」のチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めていたリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)のほか、「ディオール(DIOR)」のマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)=アーティスティック・ディレクターや「スキャパレリ(SCHIAPARELLI)」のダニエル・ローズベリー(Daniel Roseberry)=アーティスティック・ディレクターなど、ありとあらゆるデザイナーの名前が飛び交っているとのこと。
いずれにしても、独自の美的センスとカリスマ性で若年層の顧客を増やし、「グッチ」をスターブランドに返り咲かせたミケーレの後任を探すのは至難の業だろう。退任の理由は明らかにされていないが、マルコ・ビッザーリ(Marco Bizzarri)=グッチ社長兼最高経営責任者(CEO)と親会社ケリング(KERING)のフランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)会長兼CEOが、ここ数年はかつてと比べて勢いが減速していた「グッチ」を“真のラグジュアリーブランド”にするべく、デザインの方向性の変更を求めたことが主な要因ではないかと見る関係者も多い。また、一般的なクリエイティブ・ディレクターより多くの役割を担っていたミケーレの下にいくつかのキーポジションを新設し、責任範囲を分担する案を提示したが、これがクリエイティブの全てを掌握して細かいところまで自身で手掛けたいミケーレとの間に溝を生んでしまったのではという憶測もあるようだ。
米「WWD」によれば、そのビッザーリ社長兼CEOも退任のウワサが流れているという。近々ケリングの要職に就任し、その後任にはやはりケリングが擁する「サンローラン(SAINT LAURANT)」のフランチェスカ・ベレッティーニ(Francesca Bellettini)社長兼CEOが就任するのではないかというものだ。仮にこれが本当であれば、まずベレッティーニ社長兼CEOが「グッチ」のトップとなった後、同ブランドの新たなクリエイティブ・ディレクターを発表する可能性もあるだろう。
なお、ケリングのライバルであるLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)は11日、ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)のマイケル・バーク(Michael Burke)会長兼最高経営責任者(CEO)の退任を発表。同氏はLVMHの要職に就くという。後任には、同じくLVMHが擁するクリスチャン ディオール クチュール(CHRISTIAN DIOR COUTURE)のピエトロ・ベッカーリ(Pietro Beccari)会長兼CEOが就任する。ベッカーリ会長兼CEOの後任には、ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼CEOの長女であるデルフィーヌ・アルノー(Delphine Arnault)=ルイ・ヴィトン エグゼクティブ・バイス・プレジデントが任命され、グループ内での人事シャッフルとなった。ケリングも、さまざまな変革の時期に来ているのかもしれない。