「アットコスメ」を共同創業した山田メユミと有志はこのほど、「コスメバンクプロジェクト」をスタートした。シングルマザーら経済的困難を抱える女性の世帯に、化粧品メーカーが抱える余剰在庫となったコスメを詰め合わせ、支援団体などを通じて無償提供。今後も「女性と地球にスマイルを」を合言葉に、行き先が決まっていない化粧品を、必要とする人の元に届けることで、余剰品問題に向き合いながらコスメが消費者に提供できる自分への自信や高揚感を届けたい考えだ。今回は、このプロジェクトに参画する化粧品メーカーの理事たちに話を聞いた(この記事は「WWDJAPAN」2022年6月27日号の記事の抜粋です)。
WWDJAPAN(以下、WWD):3人は、どんな経緯や想いで理事に就任した?
北澤恒夫VAHI付加価値人間研究所代表(以下、北澤):私は提供する付加価値の高さから化粧品業界を志し、コーセーに入社しました。一通りを経験し、「化粧品は人の心を明るく、元気に、前向きにするもの」と実感してきました。「コスメバンクプロジェクト」の話を伺い、「素晴らしいですね」と参画を決めました。業界同士を繋げるモデルにして、化粧品を通じて皆さんを元気にしたい。それが、お世話になっている業界への恩返しだと思っています。
檜山敦ロート製薬取締役COO(以下、檜山):「人を幸せにする平和産業」と考えて資生堂に入りました。現在のロート製薬に至るまで一通りを経験しましたが常々、「化粧品は華やかな夢を売る仕事」にも関わらず、一方で「人知れず」「こっそり」廃棄していることが気になっていました。供給方法を考えたり、返品制度を再考したりしてきましたが、廃棄はどうしてもゼロにはならない。大きな矛盾を感じていたんです。この悩みは、あらゆるメーカーにとって共通だと思います。「本当なら廃棄していたものが感動につながれば」と考え、コロナになってすぐに皆さんとのディスカッションを始めました。
山名群ハリウッド取締役(以下、山名):山田メユミさんの志と「コスメバンクプロジェクト」の理念に非常に賛同し、山田さん同様、私も“ワーママ(ワーキングママ)”なので、何かお力になれたらと考えました。
WWD:メーカーとして、やはり廃棄には「やりきれない想い」がある?
檜山:めちゃくちゃあります。良い製品を作っている自負があるからこそ、本当ならまだ使える製品がうず高く積まれ、焼却処分を待っている光景には大きなショックを受けました。「みんながものすごいエネルギーを費やして世の中に送り出しているのに、このまま消えていく現実は、本当に良いのだろうか?」。そんな考えが、日々の仕事から離れることはありません。アウトレットを始めようとすると必ず「ブランド価値の毀損」が心配事として挙がります。でも、そうでもしないと売りさばけないという矛盾を私たちは皆抱えている。「コスメバンクプロジェクト」は、「世の中に渡しきる」システムになり得ると思うんです。
北澤:コーセーの新入社員は入社すると、商品が生まれてから役割を終えるまでの一連を見学します。最初に返品庫を訪れた時は、私も本当にショックでした。業界には、製品を「この子」と呼ぶくらい愛情を注いでいる人が多いですよね?だからこそ役割を全うできて、それが喜ばれるなら素晴らしいことです。
山名:前職の金融とビューティが大きく異なるのは、モノを作っていることです。日本には職人がたくさんいるのに、一方で作っているものを大量に廃棄している。ビューティ業界に飛び込み、最初はその事実に驚きました。ただ海外の人は、「日本人は、物を大事にする」「日本では、物に魂が宿っていると考えられている」と信じています。だからこそ、こんなプロジェクトが日本から生まれたと思うんです。
檜山:(廃棄は)ブランド価値を守るためにはある意味「仕方ない」ことと思っていました。ブランド価値を守るためのトレードオフというか、諦めだったんです。でも隣の業界、例えば食品業界はフードロスに向かって動いています。
北澤:ブランド価値を守ることが「憧れ」や「夢」「元気」につながると思ってきました。でも今は「憧れ」よりも、地に足のついた生活の中で「より良い」を志向する時代に進んでいる気がします。
檜山:デジタルやSNSで、コミュニケーションの環境が変わりました。あらゆる活動と消費者の距離が近づいています。ファッションやビューティは、昔のアイドルのようにバックヤードの姿を見せず今に至りました。でも今は、ドジでかっこ悪いところまで見せられるアイドル、リアルに会えるアイドルが支持されています。社会・経済活動全般が、そんな価値観に応じてシフトしていますよね?
社会課題への解決意識が
強い会社は「2つ返事」
WWD:そんな課題を抱えている企業にとって「コスメバンクプロジェクト」は、ありがたい存在だった?
檜山:廃棄に関して、課題や問題を抱えていると認識していない企業はありません。ロート製薬は社会課題への解決意識が強いので2つ返事でした。ただ他社でも「ウチは、チョット……」というケースは、ほとんどなかったのではないでしょうか?
北澤:メーカーからすると、現在の在庫が生活者に喜んでもらえるなら、尚良しです。
山名:SPAモデルではない限り、「コスメバンクプロジェクト」はありがたい存在です。加えてさまざまなプロボノと連携・連帯できる面白さもあります。恵まれたコラボレーションで進行するプロジェクトに、私自身楽しさややりがいを感じています。
檜山:狭い業界なのに、知らないことがたくさんあることに気づきました。資源には限りがあり、右肩上がりの成長神話なんて崩れている中、一人でも多くの生活者のライフ・タイム・バリューに貢献するには、業界が横に手を広げるべきと感じています。
北澤:私は今、「化粧品のライバルは?」と聞かれたら「携帯電話とディズニーランド」と答えます。いずれも1万円あれば、高い満足度を提供できるでしょう。でも化粧品は一生モノで、元気になれると思っていますけれどね(笑)。こんな考え方含め、ブランドの在り方が大きく変わろうとしています。パーパスの旗の下で、組織がプロジェクトごとに繋がっていく。そして、その過程をコミュニケーションしていく。そんな時代に突入するのではないでしょうか?
山名:私は「女性と地球にスマイルを」という言葉が大好きなんです。より良い世界のためには、やっぱり女性と地球がキーだと思うんです。ハリウッド化粧品の牛山メイ創業者は、「女性が美しい国は、戦争をしない」と説いています。外見だけじゃなくマインドまで、お母さんが美しくなって笑顔になれば、家庭やコミュニティー、会社にポジティブな影響を与えます。
檜山:活動内容をまとめるとき、メーカーに「依存する」関係性にはならないよう配慮しました。廃棄するものでも、商品は商品。そして、ギフトを受け取る女性も消費者であることは変わりません。使ってもらい、いろんな意見を吸収し、フィードバックすることで相互の協力関係を目指しました。今後は、化粧品を受け取った人の自立支援にも取り組みたいですね。
北澤:偏在を是正する、全体最適のプラットフォームとして機能するよう、協力を続けます。