「WWDJAPAN」は、11のトピックスから2023年を大胆予測する。トピックスは、デザイナーの就任・退任劇、国内トレンド、国内アパレル、海外ニュース、次世代富裕層、メタバース、スポーツ、サステナビリティ、Z世代、ビューティ業界のM&A、そしてヘアカラー。次世代富裕層以降のキーワードは、いずれも22年までに急速に広がり、ビジネスを語る上で欠かせないトピックスとなった(この記事は「WWDJAPAN」2023年1月2&9日合併号の抜粋です)。
井口恭子編集部記者(以下、井口):2022年は米ギャップ(GAP)、アディダス(ADIDAS)、アンダーアーマー(UNDER ARMOUR)などスポーツやカジュアルブランドでトップ交代が相次いだ。一方、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「ディオール(DIOR)」などを擁するLVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON 以下、LVMH)やプラダ(PRADA)などのラグジュアリー企業では、代替わりの時期に差し掛かっているからか、一族経営をさらに盤石にする動きが活発化している。
ソーン・マヤ編集部記者(以下、ソーン):一族経営と聞くと、外部の意見を取り入れなさそうなどの閉鎖的な印象がある。でも23年以降、代替わりの準備に伴う刷新も見られるかもしれない。
勢いのあった米国市場も後半はインフレなどで失速
ソーン:22年はアメリカが、自国で発展した文化に今一度目を向けた印象だ。メトロポリタン美術館で行われる「メットガラ」のテーマは21年に続いてアメリカのファッションを探求するものだったし、ニューヨーク市のソーホーエリアには新店舗オープンが多い。勢いを感じる。
井口:前半はロシアによるウクライナへの軍事侵攻や中国での厳しい外出規制などの影響で、欧州やアジア市場のビジネスは失速していたが、観光客が戻ってきたこともあって米国は好況を維持。ラグジュアリーブランドの決算を見ても、北米がけん引して全体の売り上げを伸ばしたというリポートが多かった。
ソーン:要因はなんだと思う?
井口:前半は間違いなくリベンジ消費だろう。後半はサプライチェーンの混乱や原料の高騰、インフレの加速などで、米国もカジュアルなブランドを中心に苦戦した。例えば、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」「ヴァンズ(VANS)」「ティンバーランド(TIMBERLAND)」「シュプリーム(SUPREME)」などを擁するVFコーポレーション(VF CORPORATION)の22年7〜9月期の売上高は、前年同期比3.7%減の30億8060万ドル(約4066億円)だった。同社によると、やはり北米市場での消費者需要が弱かったことが主な要因で、これに基づいて通期の業績見通しを下方修正している。なお、昨年12月には同社を5年にわたって率いてきたスティーブ・レンドル(Steve Rendle)前会長兼社長兼CEOが退任した。
ソーン:ウクライナ侵攻は、商品価格の上昇や流通など、世界経済にも大きな影響を与えた。
井口:「H&M」や「ナイキ(NIKE)」はロシアの店舗を閉鎖するなどした。ロシアで利益を得ていることが批判の対象になることへの恐れや、物流やサプライチェーンの問題で閉鎖せざるを得なかったなどの事情もあるはず。売り上げ全体に占めるロシア市場の割合によっても対応が分かれた。
社会的ふるまいがビジネスに与える影響は一層強く
井口:米国で妊娠中絶を禁止する動きがあったことを受けて、「グッチ(GUCCI)」や「リーバイス(LEVI’S)」を筆頭に女性の権利保護を訴える声が高まった。社会問題といえば、カニエ・ウェスト改めイェも、差別的な発言によって「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「アディダス」との関係が解消されるに至った。
ソーン:米国の調査会社GWIによれば、消費者は政治家に対するよりも厳しい目で企業の動向を見ているという。デザイナーもより厳しい目で見られているだろう。「バレンシアガ」はボンデージギアを着けたテディベア形のハンドバッグを持った幼児が登場したキャンペーンが不適切だと厳しく批判された。これを受けて、欧米ではアイテムのブランドロゴを隠すようテープを貼ったり、売却したりする人が現れた。
井口:「購入済みの商品に対して何かをしたところでブランド側に損害はない」とその行為を批判する声もあったそうだが、デザインの好き嫌いよりも、支持をしていると思われたくないという気持ちが上回った結果の行動だろう。
ソーン:そのブランドのものを持っている=共感して購入したという価値観が成り立っている22年ならではの動きだ。一方、イランでヒジャブ指導を受けた女性の死亡に対する抗議活動に業界は連帯しきれていなかったと思う。個人的にこの件に関連した記事を出していないことを反省しているし、ヒジャブを着用したままスポーツができるウエアなどを販売しているブランドらも動きが鈍かった印象だ。23年以降は、発信するだけでなく、それに伴うアクションの有無が見られていくだろう。
2023年はここに注目!
【1】“ラグジュアリー御三家”の後継者問題
LVMHが着々と一族支配を強化しているが、競合のケリングとコンパニー フィナンシエール リシュモンも内々で準備を進めているはず。今年あたり何か報じられるのではと興味津々。
【2】ラグジュアリーブランドは依然強し!値上げもどこ吹く風
原材料の高騰を主な理由に「ルイ・ヴィトン」や「シャネル」などで値上げが続いているが、人気が衰える気配はない。代替できないブランド価値の重要性は今後さらに高まるだろう。
【3】「選択の機会」充実で消費者行動はどう変わる?
発信するメッセージに共感してモノを買うという購買習慣が、22年には欧米ですっかり定着した。社会的責任を果たしていることは大前提に、改めて商材で差別化していけるかが鍵となるのでは?
語ったのは、この2人
井口恭子/編集部記者
PROFILE:外資系証券から翻訳の道に入って早幾年。ビジネス関係を中心にファッションやセレブネタなども手掛ける。夢はロンドンか南の島で隠居
ソーン・マヤ/編集部記者
PROFILE:記事翻訳に加えて、海外ブランドのCEOインタビューなども行う。米「WWD」の最新ニュースから、社会問題や芸能、ビジネスネタなどを訳す
【WWDJAPAN Educations】
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講義日時
2023年1月27日(金)13:30~15:00
2023年2月3日(金)13:30~15:00
2023年2月10日(金)13:30~15:00
2023年2月17日(金)13:30~15:00
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