どの業界でもリアル店舗と同様にECに力を入れているが、特にファッション分野では、試着ができない点をいかに解決するかが長年の課題となってきた。スポーツ用品ブランドである「アンダーアーマー(UNDER ARMOUR)」は4月、シューズのオンライン試着の導入に踏み切った。フィット感を求められるスポーツシューズを主力商材とする「アンダーアーマー」は、なぜシューズのオンライン試着を導入したのか?またその成果は?同サービスを提供したのは、服のオンライン試着サービスを、日本だけでなく世界中のアパレル企業に提供してきたバーチャサイズ(Virtusize)だ。同社にとってもシューズのオンライン試着サービスの提供は世界初。ドームでECを担当する伊藤直樹Eコマース部 開発・運用チーム Head of Teamと、バーチャサイズでヘッドオブウエストを務める野村奈緒バーチャサイズ シニアカスタマーサクセスマネージャーに聞いた。
ECではリアル店舗の
接客に代わる施策を重視
WWDJAPAN(以下、WWD):「アンダーアーマー」のECに対する考え方、運営方針は。
伊藤直樹 ドームEコマース部 開発・運用チーム Head of Team(以下、伊藤):現在「アンダーアーマー」は国内で直営店が4店舗、アウトレットを含めると35店舗です。専門店への卸が中心となっており、自社ECサイトは顧客とのダイレクトな接点という面で非常に重要です。ECは年間2000万セッションほどあり、より顧客とのエンゲージを高めるため、4月にアプリのリニューアルを実施しています。さらに新たな会員制プログラム「UAリワード」を作り、今後は会員限定のアイテム販売やイベントを強化する方針です。豪華なアスリートによる「ハウツー動画」などアプリ限定のコンテンツなども充実させており、アプリやECの強化を図っている真っ最中です。
アンダーアーマーが
バーチャサイズと組んだワケ
WWD:バーチャサイズにとっては世界初となるシューズのオンライン試着サービスを「アンダーアーマー」に導入した経緯は。
野村奈緒バーチャサイズ ヘッドオブウエスト/シニアカスタマーサクセスマネージャー(以下、野村):当社側からシューズサービスの開発のご相談をさせていただいたことがきっかけです。日本で「アンダーアーマー」を展開するドームには、昨年の秋にウエア版の「バーチャサイズ」をすでに導入してもらっており、実績も出ていたので、提案自体には非常に前向きに受け止めてもらえました。ただ、当社にとってもシューズ版のオンライン試着は世界でも実績がない初めての取り組みになります。多くの面でドーム側の協力を受ける必要がありました。その面でウエア版の導入時に、スポーツに対して本気度の高い顧客が多い「アンダーアーマー」のために細かなサイズデータと弊社のノウハウをかけあわせ、かなりのカスタマイズを実施し、成功していたことが評価されました。
WWD:ドーム側は、シューズのオンライン試着をどう考えていたのか?
伊藤:シューズはウエアよりサイズのレンジが細かく、加えて「アンダーアーマー」の顧客はフィット感によりシビアになります。これまでは店舗での試着なしにEC単体ではなかなか買ってもらえないという悩みがありました。また、4月に販売を開始した“UAフロー ベロシティ エリート”というレーシングシューズが少し独特なサイズ感の商品で、店頭で接客していると1サイズか2サイズ下げて買われる方が多くいらっしゃいます。そういった商品ごとのフィット感の違いに対しても、「いつも履いているサイズ」ではなく、きちんとロジックを立てて、ユーザー一人ひとりに合ったサイズを提案できる仕組みが欲しいと考えていました。「バーチャサイズ」はウエアでの取り組みでCVR(コンバージョンレート)の向上や返品率の低下が実際に数字として出ていたので、シューズについても前向きに検討しました。
野村:シューズのオンライン試着サービスは、2021年5月にパートナー企業と共同開発を発表するなど、ずっと事業化の道を探ってきました。シューズの形をAIに読み込ませたり、UI/UXの改善、導入後のサービスのあり方などは、当社も長い間研究開発に取り組んでいました。ただ、最終的にはやはり導入企業の協力が不可欠でした。これは企業文化だと思いますが、ドーム側の「まずはやってみましょう」という姿勢に大変助けられました。
返品率が11%削減!?
シューズのオンライン試着の可能性
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WWD:実際に導入してみての感触はどうか。
野村:試験導入段階の数字ですが、バーチャサイズのサイズ比較を使用しない場合と比べ、使用した場合のCVRは4~4.5倍程度向上しました。もちろんバーチャサイズに情報を登録している時点で購買意欲が高いユーザーという点もありますが、返品率も約11%低下しています。あくまで試験導入の数字なので、もう少し長期で数字を見ていかないといけないのですが、かなりの手応えを感じています。今後は返品理由のアンケートなども含めてロジックに反映していく予定です。バーチャサイズのレコメンドしたサイズ通りに買って小さかった/大きかったのか、違うサイズを買って小さかったのかなど、データの細かい部分も含めてデータサイエンスチームが精査します。
伊藤:当社としても期待通りの結果です。課題は、レコメンドの精度ですね。まだ、若干のばらつきがあります。ただ、これはデータを蓄積していくことで解決できるメドは立っています。もう一つは顧客により「バーチャサイズ」を信頼してもらう必要がある点です。実は返品データと照らし合わせると、ウエアよりシューズの方が正しいサイズをレコメンドしていることが分かっているのですが、それでもバーチャサイズが提案したものと違うサイズを買ってしまって返品につながる現象が起きています。
WWD:どう解決する?
伊藤:顧客に繰り返し使っていただいて信頼を積み上げつつ、当社側でも機能や、シューズのオンライン試着への説明を丁寧に行っていこうと思っています。
野村:もちろんこれは当社の課題でもあります。精度を上げる点に関してはデータに基づき、データサイエンスチームとディスカッションして改善していくのですが、現在は「あなたにはこのサイズです」といったシンプルな提案しかしていません。例えば「この靴のサイズは少し小さめです」や「こういったロジックで計算してこのサイズを提案しています」など、データはあるので、もう少し信頼をしてもらいやすくなるインターフェースをデザインチームと相談しているところです。顧客とのコミュニケーションについても、「アンダーアーマー」と相談しながらできることはどんどんやっていこうと考えています。
シューズのオンライン試着の今後
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WWD:今後は?
野村:他のパートナー企業も含めたこれまでの実績ですが、バーチャサイズを利用した場合にCVRは約8倍アップ、リピート率は約44%アップという結果が出ています。この実績のあるウエア版では、気になる商品を他の商品とイラスト上で比較したり、どの部分が大きめ、小さめかなどの細かいフィット感を知ることもできるようになっており、シューズ版よりも機能が充実しています。シューズ版では現在、足先の幅や形、よく履いているブランド情報などを活用したシンプルなロジックでサイズをおすすめしています。こちらはデータがたまればたまるほど、精度が上げられますが、これに加え、ユーザーの詳細な身体データ、例えば甲や膝より下の高さなどのデータを取り込むことで、レコメンドのロジックの軸を新たに作れることが分かっています。ウエア版ではユーザー自身が詳細なサイズを入力して精度を上げられる機能がかなり使用されており、シューズ版でも実装すれば活用してもらえるのではと思っています。
伊藤:実は当社でもこれまで店頭などで足形測定ができるイベントを時々やっていましたが、会員データとひもづけられていませんでした。測定したデータをこうしたサービスやEC上での施策に反映することができたら、「アンダーアーマー」ブランドの姿勢である「アスリートに寄り添う」の観点からもとても有効だと考えています。
野村:シューズのオンライン試着も今後は「アンダーアーマー」以外の取り組みを予定していますが、最初に顧客のロイヤルティが高く、かつフィット感などの機能を重視するドーム/「アンダーアーマー」とタッグを組めたことは非常に大きな第一歩になりました。シューズのオンライン試着のポテンシャルはウエアと同等か、それ以上とも考えています。多くのデータを蓄積することで精度を高められるのが、SaaSならではの特徴です。バーチャサイズは4000万のユーザーと1000以上のブランドで利用いただくことができるようになっています。シューズ版のオンライン試着も広げていくことで、ドームをはじめとした導入企業により貢献したいと考えています。
PHOTO:KOHEY KANNO
バーチャサイズ
「アパレル産業をデジタルでアップデートする方法」