ファッション

日本人モデルの快挙に震えた「フェンディ」や黒に徹した「ドルチェ&ガッバーナ」の真意 2023-24年秋冬メンズコレ取材24時Vol.2

 2023-24年秋冬コレクションサーキットは、メンズからスタート。「WWDJAPAN」は現地で連日ほぼ丸一日取材をし、コレクションの情報はもちろん、現場のリアルな空気感をお伝えします。担当は、前シーズンのメンズと同様に大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリのコンビ。ミラノ・メンズ2日目は、あのブランドが会心のショーを見せてくれました。

9:30 「ブリオーニ」

 今季の「ブリオーニ(BRIONI)」は、イタリア建築が着想源です。プレゼンテーションの会場は、来年開館予定のブレラ絵画館 (Pinacoteca di Brera)の新館。アーチの装飾が特徴的なローマ建築の建物の中に入ると、ミニマルで無機質な空間が広がるコンテンポラリーな雰囲気に一変します。コレクションはこの建築物に呼応するように、古典的なサルトリアルを素材とスタイリングで現代的なアレンジを試みます。
 
 最高品質のウールや稀少性の高いカシミアを用いた、テーラードジャケットやダブルブレストコート、ベルベットのインターシャをあしらった手織りジャガードのスモーキングジャケットで、フォーマルからスポーティー、イブニングウエアを網羅します。肩周りにやや余裕を持たせる脱構築的なアプローチにより、気品漂うテーラリングはリラックスした気軽さを兼ね備え、マネキンでさえも大人の余裕ある懐の深い男性に見えて心掴まれました。トラウザーはゆったりとしたシルエットで、シューズは丸みを帯びたフォルム、さらにビーニーを被ってカジュアルダウンさせるスタイリングが今季の特徴です。あまり関係ないですが、「ブリオーニ」のプレゼンテーションはマネキンの設置の仕方も秀逸。背景にストーリーが見えてきそうな、動きのある“ドラマチック・ディスプレー”がユニークでした。

 そして、朗報です。3シーズン目となるウィメンズのコレクションが、同シーズンから日本でも本格的に販売すること。ブランドが得意とするソフトテーラリングを武器に、メンズのスタイルに柔らかさを加えて洗練された女性像を描きます。日本でも、「ブリオーニ」のソフトテーラリングをさらりと着こなす男女を見かけてみたいものです。

10:30 「MSGM」

 本日のランウエイショーは「MSGM」からスタート。いつも元気いっぱいな服とBGMでアゲアゲな気分にしてくれるショーは、朝一番にぴったりなのです。“DREAMERS UNIVERSITY”というテーマの通り、インビテーションには学生寮でのルールが書かれたユニークな仕掛け。ショーでも、どこか初々しさのあるスクールボーイたちが登場します。カレッジロゴをあしらったフーディーやベースボールキャップに、ペナント付きのナップサックという超ベタなアイテムもあれば、レジメンタルストライプのネクタイは極端に短かったり、ラメ糸を使った生地のニットやセットアップもあり、遊び心たっぷり。

 ジャケットをストリートウエアのように着崩す提案が昨今のメンズで続いていますが、「MSGM」の魅力は、垢抜けすぎない雰囲気を意図的に盛り込んでいるところです。キメッキメなジャケットスタイルは市場にすでに溢れているため、自由に!楽しく!というムードを、トレンドのアイテムなどを組みわせながら上手くまとめてきます。そこに決め手があるかどうかはシーズンによって差はあるものの、マッシモ・ジョルジェッティ(Massimo Giorgetti)=デザイナーはスタイリングのセンスも素晴らしい。今シーズンもやっぱり元気をもらいました。

11:30 「エンポリオ アルマーニ」

 「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」が素晴らしかった。今シーズンは、1930年代の飛行士をアイデアの出発点に、彼らの「遥か上空の未知なる視点から世界を見てみたい」という野心をブランドの根幹であるスーツに融合してコレクションへと発展させています。序盤はグレートーンのルックが連続し、フライトキャップやボリューム感のある厚底ブーツをモデルたちがそろえて身に着けます。イージーフィットのコートや千鳥格子のクラシックなジャケット、ビンテージ風のボンバージャケットや幾何学柄のブルゾンなど、アウターのバリエーションが多彩だったのが特に印象的でした。

 中盤以降はイブニングの要素も徐々に強くなり、ピンクやパープルといった差し色や、スパンコールをびっしりと敷き詰めたスリーピース、クリスタルが付いたベルベットのタキシードが登場。空の男といえばユニホームにフライトキャップという姿を想像しがちなところを、彼らの思いや人生に想像力を膨らませた表現は、昔を知り、未来を見据える御大だからこそできるクリエイションです。

12:30 「ドルチェ&ガッバーナ」

 「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」は今季のテーマを“本質”と銘打って、イタリアの文化遺産である高品質な生地と職人の手仕事に焦点を当てました。基盤となるのは、コルセットやガードルを備えたウエストを強調するシルエット。構築的で厳格な印象を与えるジャケットと対照的な、クロップド丈のトップスや肌着のセットアップ、ミリタリーウエアを差し込み、古典的な正装をモダンにアップデートする試みです。コレクションの大半を占めた黒色は、異素材のテクスチャーを際立たせ、ユニークなイタリアのテキスタイルの魅力を再認識させてくれました。

 昨シーズンは、アーカイブを再現したピースをメインにし、2023年春夏シーズンのウィメンズでもキム・カーダシアン(Kim Kardashian)がキュレートしたアーカイブを現在の世界観に再解釈。「エンポリオ アルマーニ」と同じく、未来への可能性を示すために過去を探訪する――そんなクリエイションが、最近の「ドルチェ&ガッバーナ」の根幹となっているようです。

14:00 「フェンディ」

 「フェンディ(FENDI)」の会場には、頭上にピンボールマシーンのレールが設置されていました。しかも、メタルにFFロゴが入った特別仕様!イタリア人の作曲家兼プロデューサー、ジョルジオ・モロダー(Giorgio Moroder)がショーのために制作した楽曲と、彼の1977年のヒット曲“I Feel Love”のサウンドトラックにより、会場のムードは70年代のディスコ風です。そしてファーストルックに登場したのは、日本人モデルの源大さん。ショーを象徴するトップバッターとして選ばれるのはすごいことで、本人は「ラッキーでした」と振り返りますが、運だけでこの舞台には立てません。うれしいサプライズでした。

 今季は、伝統的なメンズウエアのシルエットをアシンメトリーとボリュームで崩し、気楽さと遊び心に溢れています。ダブルフェイスのカシミヤのジップアップブルゾンに、アシメントリーとなるよう肩からブランケットを重ねたり、ヘムにフリンジをあしらったポンチョやボリュームのあるロング丈のダブルブレストのコートを合わせたりなど、体を優しく包み込む繭のようなアウターが目を引きました。ドレープスカートをレイヤードしたリラックスシルエットのスラックスも、アウターと同じく滑らかな動きで優雅な雰囲気。さらに、ワンショルダーのニットベストや解体したシャツが素肌の上で直線的なラインを描き、柔軟さと厳格さの境界線を曖昧にしながら色気のあるエレガンスを醸し出します。シアリングにスプレー塗料を吹き付けたようなトロンプルイユのデザインは、さすが「フェンディ」と唸る職人技の賜物!

 さり気なく、けれどアイキャッチーなジュエリーの取り入れ方も絶妙です。過去数シーズンを通して、「フェンディ」メンズは男性がジュエリーを着用するお手本だと、個人的に思っています。カフスやチェーン、ペンダントといったジュエリーを、見逃すまいと目を凝らしているとあっという間にショーが閉幕してしまいました。もっと見ていたい、と思わせてくれるコレクションって最高だなと余韻に浸りながら、次の会場へと向かいます。

15:00 「ジョーダンルカ」

 「フェンディ」の壮大な世界観の後は、アングラ上等かかって来いな「ジョーダンルカ(JORDANLUCA)」です。ディープな空間に身を置く覚悟をしていたものの、カルチャーに軸足を置いたストリートウエアという根幹はそのままに、今シーズンはその表現がやや軽やかになって好印象でした。ボクシング用品などで知られる「ロンズデール(LONSDALE)」とのコラボレーションが、そう思わせた要因の一つかもしれません。ザ・スポーツ!なフーディーにブルゾンをハイブリッドしたり、ザ・スポーツ!なスエットのセットアップをオフショルダーやスキニーにしてみたり、王道に違和感を加えるという点で相性の良さを感じました。そういえば、インビテーションに真っ白なブリーフが付いてましたっけ。

 ジーンズの打ち出しが前シーズンよりも増えた分、カジュアルな印象が強くなりましたが、クラシックなウエアのアイデアもなかなか。課題は、シグネチャーといえるデザインやモチーフの開発でしょうか。ひと目見てここと分かる何かを見つければ、さらに成長が期待できるかもしれません。ブリーフを履きながら、ブレイクスルーを待っています。

17:00 「フェデリコ チーナ」

 「フェデリコ チーナ(FEDERICO CINA)」は、公式スケジュールに参加して3度目となるランウエイショーを開催しました。今季は、デザイナーが幼少期の頃に多くの時間を過ごした、祖父母の家が着想源です。そこは彼が自分自身に還れる避難所で、その空間を構成するオブジェクトをコレクションに落とし込みました。掛け布団で身を包んだり、カーペットを繋ぎ合わせたようなパッチワークニット、レースのカーテンを使ったシャツを温かみあるニュートラルカラーで提案したり、実家に帰省した時の心温まる感じとノスタルジックな空気を漂わせます。“ほっこり感”はブランドを形容するのにぴったりな言葉。

 テーラリングの技術を磨くか、シルエットに変化を与えるなどして、素朴さの中に洗練さを表現できると、コンテンポラリーブランドとして次のステージへと進めるんじゃないでしょうか。次世代のスターデザイナーがなかなか現れないイタリアで、「フェデリコ チーナ」と明日ショーを行う「マリアーノ(MAGLIANO)」は、引き続き成長を見守りたいブランドです。

18:00 「ケーウェイ」

 この日の最後は仏レインウエアの「ケーウェイ(K-WAY)」です。ファッション・ウイークに参加するスポーツメーカーのショーは、正直ほっとひと息な時間になることも少なくありません。ですが、「ケーウェイ」は正々堂々とファッションしていて、いい意味の驚きでした。

 会場に入ると、そこにはパリの「カフェ ドゥ ラペ(Cafe de la Paix)」を再現した空間が広がります。テーブルには1人に1冊のノート。それを開くと、1ページ目にブランドを代表するウインドブレーカー“ル ブレ(Le Vrai)”が誕生したストーリーが手書き風の文字にて印字されています。手が凝ってますねとテーブル内で談笑していたら、よく見ると筆跡がそれぞれ異なっており……本当に手書きでした。何という手が凝った準備なのでしょう。かつてショーの招待客全員分の似顔絵を、各インビテーションに手描きした強者のデザイナーがいましたが、それに匹敵するほどのスペシャル感。

 ウエアはオレンジやネイビー、ホワイト、グリーンなどワントーンカラーのスタイルが順次登場します。ウインドブレーカーをはじめ、ボンバージャケットやパファージャケット、アノラックといったバリエーション豊かなアウターを中心に、レッグカバーやキルティングのショーツ、スカーフなど、アイテムの幅広さを主張するスタイリングが新鮮で、レインウエアだけではないというアピールも十分。「ケーウェイ」のこれまでのイメージが完全に変わりました。3月のウィメンズのパリ・ファッション・ウイーク期間中に実際の「カフェ ドゥ ラペ」でイベントを開催するそうで、期待が膨らみますね。

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