ベルリンの街を歩いていると、私なら到底思い付かない、常軌を逸した(!?)独創的なスタイルの人と遭遇することがある。ほとんどはビンテージを駆使し、自分に似合うものを熟知したスタイルだ。ベルリンには昔から、オールブラックに身を包んだミニマルなクラブファッションが存在するが、ビンテージにおいても世界的なファッションシティーとは異なる独自の文化がある。
「アウトオブユーズベルリン(outofuseberlin)」は、良質でハイエンドなビンテージを扱うだけでなく、毎回テーマを設定し、それに合わせた架空の空間をポップアップという形で作り出し、その世界観は期間限定でしか体感できない希少価値を生み出している。実店舗は持たない。洋服やアクセサリーだけでなく、インテリアやアート、食器、菓子など、全てのアイテムで完璧な架空の空間を作り出している。さらには買い付けたアイテム全てをリメイク・手入れし、その価値を上げ、ずっと大事にしたくなる特別な一点モノとして提供している。ベルリンにおける、新しいポップアップのあり方を表現している。
テーマは、世界各地を旅しながら蚤の市で買い付ける時のインスピレーションから浮かぶという。その着眼点は、どう培われたのだろうか?創設者のシシー・ポール(SISSI POHLE)とパット・シェルツァー(PATRICK SCHERZER)をインタビューした。
WWDJAPAN:「アウトオブユーズベルリン」をスタートしたきっかけは?
シシー・ポール&パット・シェルツァー(以下、シシー&パット):私たちは、クローゼットにオリジナリティーを取り入れるため、さまざまな蚤の市でビンテージのお宝を探すことが好きでした。大量に生産されているものでは満足できなかったのです。ストーリー性のある特別なものを常に探し求めていましたが、そういった考えを持っているのは自分たちだけではないことに気付きました。そこでオンラインストアをスタートしました。オープン当初から大成功で、ビンテージコレクションを中心としたクリエイティブなプロジェクトに取り組む機会に恵まれました。
WWD:「サンローラン(SAINT LAURENT)」「バーバリー(BURBERRY)」「プラダ(PRADA)」「マルニ(MARNI)」などのラグジュアリーやデザイナーズブランドのコンディションの良い洋服は、どこでどう買い付ける?
シシー&パット:ヨーロッパ各地のビンテージホールや蚤の市に行き、何時間もかけて、隅から隅まで見て回ります。とても根気のいる作業だし、毎回期待通りの出合いがあるわけではありません。しかし、ここまでして特別なアイテムを探し出すことは、私たちにとっては醍醐味。雑多に積まれた混沌とした商品の中から、宝物を見つけ出すことを楽しんでいます。買い付けで重要なのは、ラグジュアリーやデザイナーズブランドを見つけることではなく、そのアイテムが私たちや顧客にフィットするかどうかです。自分たち自身が着たいもの、家に置きたいものだけを買うようにしています。そこに細かい修理を施し、丁寧に洗濯することで新たな価値を与えるのです。購入したいアイテムが「直接私たちに語りかけてくるかどうか?」「私たちを感動させてくれるかどうか?」を重要視しています。
WWD:ハイエンドとパンクのミックスは、どう生まれた?
シシー&パット:私たちは、音楽やアート、ファッションに興味を持ち、それらとともに成長してきました。「アウトオブユーズベルリン」で表現している世界観は、私たちそのものです。明確なコンセプトはなく、常にインスピレーションを受けながらアーティスティックな一面を全面に打ち出しています。特に、ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)やセックス・ピストルズ(Sex Pistols)などのファッションや美学に大きな影響を受けています。色を使うことは大好きで、日々のルックにも自宅にも必ず色を取り入れています。柄の組み合わせも自由です。チェックのパンツにストライプのシャツを合わせるのは、私たちにとってはごく当たり前です。そういった自由な発想は、育ってきた厳しい規範から自らを解放していると言えます。そして私たちは、どんなことに対しても「イエス!」とは言わない反抗的な子どもたちのスピリットを持っています。それが私たちのパンクの思想に近いのかもしれません。
WWDJAPAN:不定期開催のポップアップストアにした理由は?
シシー&パット:私たちのアイデアやストーリーから生まれた空間で、型破りな体験をしてもらいたいと思っています。短期的で、何も感じない無感動なショッピングは避けたい。だからポップアップは毎回違ったテーマで、品揃えやディスプレイを変えています。昨年11月のポップアップは、パリでフランスのビストロを思わせる素敵なアイテムを見つけたので、架空のビストロに作り上げました。私たちは作業着のエプロンを身に付けてゲストを迎え入れ、フランスのワイングラスや食器、パリ近郊の田園風景を彷彿させるファッションや街そのもののシックさを提供しました。こうして生まれるシチュエーションに深い愛情を持っているし、それを「アウトオブユーズベルリン」でも伝えたいんです。
WWDJAPAN:ベルリンのファッションシーンは?
シシー&パット:私たちの顧客は世界各地にいますが、ベルリンにはとてもクールな顧客が集結しています。ポップアップにはローカルのベルリナーだけでなく、ベルリンに遊びに来た人たちも訪れてくれます。ニューヨークやシドニーから、インスタグラムのフォロワーが尋ねてくれたこともありました。世界中から人が訪れるのは、ベルリンがアートとファッションにおいて重要な街であるということ。エキサイティングな人たちに巡り合える街だと思います。
WWDJAPAN:今後の予定は?
シシー&パット:2022年には夢のひとつが実現しました。自然と静寂がある場所を求め、ベルリンを離れてパットの故郷に戻ったんです。自然があって、静かで、クリエイティブな仕事にも最適な場所を見つけました。今後は、これまで以上に複雑なプロジェクトを実現できるよう、新たにチームを組むなど、多くのプランを考えています。