「オーラリー(AURALEE)」は、2023-24年秋冬コレクションをパリ・メンズ・ファッション・ウイークの公式スケジュールで現地時間1月18日に発表した。今季は、18世紀初頭に建てられた、ヴァンドーム広場に面する歴史的建築物オテル・デヴルー(Hotel d’Evreux)の一室を会場に選んだ。ショー開始前に現場に到着すると、最終リハーサルを始める直前。音響やプロダクションのスタッフがナーバスな面持ちで準備を進める中、こちらに気づいた岩井良太デザイナーが、「早く来ていただいてありがとうございます」と一礼。優しい眼差しで口元を緩め、ショー前とは思えないほどリラックスした様子のままリハーサルを終えた。
本番では、ミニショーを計3回にわたって披露した。この日のスケジュールはぎっしりと詰まっており、公式スケジュールで5ブランドのショーとプレゼンテーションが同時間に行われたものの、最初の回はゲストが座席に座りきれないほど賑わっていた。石造りのオフホワイトの壁に真っ白のランウエイを構え、パリの真冬の澄んだ空気が漂う中を、「オーラリー」が得意とするニュートラルカラーのスタイリングが、心地よい空気感を生み出す。大きなストールがブランケットのように体を包み込み、アルパカやカシミアを用いたアウターとニットウエアもふんわりと膨らみ、まとうというよりも着用者を優しく抱擁するようだ。
重厚だが軽やかで
上質で親しみやすい服
「起き抜けにそのまま自宅から出たような、“無造作”な雰囲気をイメージした」という岩井デザイナー。シルクにシワを寄せ、起毛感たっぷりの上質素材にあえて毛玉を作り、着込むほどに味が出る洋服が今季のコレクションを特徴づける。リラックスシルエットのニットのボトムスが、トレンチコートやステンカラーコートといったフォーマルにも適用するアウターを、ほどよくカジュアルダウンさせた。かかとを畳んでスリッパ風にしたローファーには、モヘアのエアリーなソックスを合わせた。
さらに、2019年から継続している「ニューバランス(NEW BALANCE)」とのコラボレーションスニーカーも、シューレースを結ばずに、足を固定する新たなデザインと機能性を取り入れた。岩井デザイナーは「急ぐわけではないけれど、自然体のままラフに自宅を出る。例えづらいけれど、そんなムード」と言葉を探す。しかしコレクションではそのイメージを十分に具現化しており、重厚だが軽やかで、上質だが親しみ深い。素材とディテールには、新作なのに愛着のあるパーソナルな洋服が持つ親密感が伝わってきた。快適な洋服に身を包むからこそ、ありのままの個性が引き立つ。
次シーズンの発表で、パリのファッション・ウイーク公式スケジュールに参加して10回目を迎える。大舞台で発表を続けたことで、国外の販路を広げるという大きな成果を得たが、口にしたのは「なかなかうまくはいきません」と意外な言葉。「ブランドを愛し、協力してくれるスタッフの存在が励みになっています。でも、売り上げ以外のところで納得できていません。毎シーズン、パリに来るのが嫌になるんです。クオリティーを高め、認知度を上げて、コミュニティを広げていくことが常に課題なので」と続けた。このようにデザイナーがどん欲になればなるほど、コレクションは優しく、しなやかに進化していく。「オーラリー」は不思議なブランドだ。