「ディール(DIOR)」は、2023-24年秋冬メンズ・コレクションをパリで現地時間1月20日に発表した。特設会場を設けたコンコルド広場周辺には、来場するBTSのJ-HOPEとJIMINを一目見ようと、道路まで溢れんばかりにファンが詰めかけ大混雑に見舞われた。会場内は実世界の騒々しさをシャットダウンするように、真っ暗闇の別空間が広がっていた。
ショーがスタートすると、壁一面のスクリーンにロバート・パティンソン(Robert Pattinson)とグェンドリン・クリスティー(Gwendoline Christie)の映像を投影し、イギリスの詩人エリオットの長編詩「荒地(The Waste Land)」の一節を読み上げる。キム・ジョーンズ(Kim Jones)=メンズ・アーティスティック・ディレクターは今季、死と再生をテーマにした本作をメゾンの歴史と重ね合わせた。
キムが「ディオール」の長い歴史の中で特に今季着目したのは、創業者クリスチャン・ディオール(Christian Dior)急逝後に、後継者として抜擢されたイヴ・サン=ローラン(Yves Saint Laurent)がメゾンを率いた時代。セーラートップスからネックラインを踏襲したジャケットや、緩やかな曲線のシルエットが浮かび上がるコクーンコートは、イヴ・サン=ローランのアーカイブを引用し、再解釈したもの。ゆったりとしたシャツに重ねたケープやオープンスリーブのケーブルニットセーターも、ルーズなカットで柔らかなシルエット。身頃の高い位置で留めるジャケット“テイラー オブリーク”には、ボリュームのあるトラウザーやスカートのように生地が躍動するハーフパンツを合わせて、キムが一貫して打ち出すテーラリングをフォーマルとカジュアルが融合するスタイルへと進化させた。
漁師の伝統的なワークウエアであるフィッシャーマンスモックやジャケット、バケットハットに取り入れたオイルスキンの素材、長靴を想起させる3Dプリントによるブーツ。これらは、T.S.エリオットの文学的モチーフである、テムズ川とセーヌ川からインスパイアされたアイテムのようだ。国から都市、海へと流れる大河の水は、メゾンにとって、創業時から現在へと伝承される美学の象徴として捉えられる。ジャケットの下から垂れ流れ、空間に浮遊したレースやオーガンジーのディテールが、ロンドンとパリを流れるこの2本の大河を想像させた。
万物がいつも流転し、死と再生、そして若返りを繰り返すのと同様に、「ディオール」の歴史も変化と流動の中で、エレガンスにストリートウエアやワークウエアの要素を取り入れながら新たな物語を紡いでいる。