「アライア(ALAIA)」は1月27日、ベルギー・アントワープで2023年夏秋コレクションを披露した。会場となったのは、現在同ブランドを率いるベルギー出身のピーター・ミュリエ(Pieter Mulier)=クリエイティブ・ディレクターが、パートナーのマチュー・ブレイジー(Matthieu Blazy)「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」クリエイティブ・ディレクターと共に暮らしている自宅。ベルギー人建築家のレオン・スティネン(Leon Stynen)とポール・デ・マイヤー(Paul De Meyer)が1960年代後半から70年代前半にかけて手掛けた、ブルータリズム建築のアパートメント「リバーサイドタワー」の21階にあるメゾネット式のペントハウスだ。そこに友人やエディター、ジャーナリスト、バイヤーなど100人ほどの観客を招き、親密なショーを開いた。
今季はミュリエが就任してから4度目のショーになるが、振り返ると、彼はこれまでメゾンにとって意味のある場所を会場に選んできた。例えば、デビューシーズンは、かつて創業者のアズディン・アライア(Azzedine Alaia)が暮らし、今でも本店を構えるマレ地区のムシー通りを封鎖してストリートでショーを開催。その後も、同じく区画にあるアズディン・アライア財団のギャラリーや、新たな旗艦店とオフィスを構えるために改装中のフォーブール・サントノレ通りのビルが会場となった。そして今回は、ミュリエ自身にとって特別な意味を持つ空間。彼から届いた手書きの招待状には、「私が日々を過ごし、食事をとり、眠り、愛する、最も幸せでいられる場所」と綴られていた。また、アライアはかつて自宅に友人を招いて、料理を振る舞うのが好きだったと聞く。今回の選択は、そういった創業者のホスピタリティーの精神や、家族のように人とのつながりを大切にする姿勢にもつながっているように感じられる。
会場に着くと、まずはキッチンでドリンクが振る舞われ、家の中を自由に見て回ることができた。松の木や植物が植えられた広々としたベランダからは対岸の旧市街や港が一望でき、コンクリートをベースにした無機質な空間にはアート好きで知られるミュリエらしく随所に絵画やオブジェが飾られている。その中には、アライアの生涯のパートナーであった画家クリストフ・フォン・ウェイエ(Christophe von Weyhe)の作品もある。そして、異なるフロアがスロープで結ばれた細長い家のリビングやライブラリーから寝室、ワードローブ、バスルームまですべてがランウエイへと変わり、家中のベンチやデザイナーズチェア、ソファ、ベッドまでが客席として使われた。そんなパーソナルな空間でショーが開かれるのは、極めて異例と言えるだろう。
衣服を通して表現する彫刻のような造形美
創業者に敬意を抱きながら、メゾンを未来につなぐことに取り組み続けるミュリエが今季探求したのは、本質や純粋さ。「アライア」の根本に目を向け、布から造形を生み出したり、クチュリエが”建築家”として身体の周りに服を作り上げたりする、衣服を通して表現する彫刻という概念に焦点を当てた。それは、故郷のチュニジアで彫刻を学び、女性の身体を美しく見せるシルエットにこだわり続けてきたアライアのアプローチに通じる。ファーストルックは、ボディーラインをなぞる黒のノーカラージャケットドレス。その後も序盤は、コンパクトなジャケットとミニスカートのセットアップや、ビスチエデザインのボディスーツ、目の粗いモヘアニットのボディースーツ、レザーのフレアミニドレスなど、黒のミニマルなシルエットを中心に構成した。デザインのポイントになるのは、シームに沿ってあしらわれた無数の針のようなシルバーのピン。美しいフォルムを生むクチュリエたちの仕事を象徴するツールを、装飾として生かした。
もう一つの特徴は、大胆な曲線を描くシルエット。ニットパンツやウォッシュドジーンズは外側が大きくカーブし、オーバーサイズのテーラードコートやミリタリーライクなアウターも肩から袖にかけて丸みを帯びている。ミニ丈もしくはロング丈で提案するボディーコンシャスなドレスは、レザーのハーネスのようなベルトを加えたり、バンデージ(包帯)デザインを取り入れたり。布を身体に巻きつけながら生み出したようなドレープドレスや、トレーンを引くバックコンシャスなマーメードドレスもある。ラストは、第二の皮膚のようなタートルネックやボディースーツを、それらと対極をなすようなボリュームたっぷりのスカートやショールとミックス。派手な色柄や装飾を抑えることで、造形美が際立つコレクションを見せた。そこには「アライア」らしい官能性が漂うが、これまでのドラマチックな強さというより、しっとりと静かな印象だ。
王立美術館での“ファミリー”ディナー
そしてショーの後、ゲストは11年間にわたる大規模な改修を経て22年9月に再オープンしたばかりのアントワープ王立美術館へ移動。ジャン・フーケ(Jean Fouquet)の「ムランの聖母子」をはじめ、宗教画や肖像画から彫刻や現代美術まで多岐にわたる作品が展示された旧館と新館を巡った後、ベルギーを代表する画家ピーテル・パウル・ルーベンス(Peter Paul Rubens)の絵画が飾られた部屋でのディナーを楽しんだ。
その冒頭のスピーチで、ミュリエはアントワープでのショーについて「長年実現を夢見てきたが、今がふさわしい時だと感じた。この混沌とした時代において誰もがつながりを求めている中で、私は自分自身に関する親密な何か、つまり私が幸せを感じる場所を共有したかった」と説明。彼自身の母親やブレイジー、ラフ・シモンズ(Raf Simons)らゲストだけでなく、ショーに関わったクリエイターやモデルも加わったディナー会場は、まさに“ファミリー”の集まりのような暖かな雰囲気に包まれた。