フランス発のシューズ&バッグブランド「ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」は1937年の設立当初から、キラキラとワクワクを詰め込んだ幻想的なモノ作りを追求する。2018年にイタリア・トスカーナ出身のゲラルド・フェローニ(Gherardo Felloni)=クリエイティブ・ディレクターが就任し、ヘリテージブランドの伝統を継承しながら女性に寄り添い、現代の空気もつかむ。23年春夏コレクションとともに、ブランドの世界観を体現するような明るさと茶目っ気を持つ同氏のクリエイションの源を探った。
WWD:「ロジェ ヴィヴィエ」がイメージする女性像は?
ゲラルド・フェローニ=クリエイティブ・ディレクター(以下、ゲラルド):実際「みんな」に向けて作っている。多様な女性がいるのに女性像を定めることも難しいし、カテゴリー分けするのもフェアじゃない気がする。ようやく社会の期待から自由になってシューズやバッグを選べるようになった。女性が自由を謳歌できるようになったことは、本当に美しい。それでもイメージするなら、少なくとも自信のある女性かな。このシューズを履きこなすには、自分自身に対する心地よさと、自信があるといい。そんなアティチュードを見るのが大好き。
WWD:自信をくれるようなアイテムでもある。
ゲラルド:モノ作りで一番大切にしている部分。全てのアイテムを手掛けるとき、女性のために作っていることを思い出す。だからヒール一つをとっても、ジーンズからスカート、パンツスタイル、ショートパンツまで、なんでも合わせられるように考える。履き心地ももちろん大事。(着方やふるまいに対して)上から偉そうに押し付けたくもないし、してきたことはない。自分が美しいと感じて、意味があるもの、愛するものを追求しているんだ。
WWD:その原動力は?
ゲラルド:いつだって最後に“勝つ”のは楽しさだと思う。シンプルで暗いトーンを着たい気分の日もあれば、明るくいきたい日もある。それは当たり前のこと。ただ、デザイナーとしては最低限、「ワクワクするもの」を提案し続けないといけないと思う。現実世界の悲しいことやつまらないことから少し離れられるよう、うれしさや楽しさ、ワクワクする気持ちを引き出すことが自分の役割だと思っているし、ファッションにとっても大切なこと。
WWD:ここ数年、社会も変化して暗い気持ちになることも多い。それでも「ワクワク」を保つことに難しさは感じない?
ゲラルド:ファッションは、世の中で起こっていることの“マニフェスト”なんだ。意見を持つことも大事だし、発信も必要。ただ、ファッションで世界は変わらない。ある一日はなんでもうまくいく!と思ったら、次の日には大きな不安に襲われるような日々が続く中でも、どうにか楽しみを見つけて生きることはできる。(創業者の)ロジェ・ヴィヴィエ自身も、ブランドもずっとそうしてきた。歴史的に見ても、暗い時代が続いたときほど、クリエイティブな人、特にデザイナーはハッと輝くものを世に生む。
WWD:そのアティチュードは2023年春夏コレクションでどのように表現した?
ゲラルド: 自分のアプローチは、ロジェそのものなんじゃないかな。彼はファッションや人生に対して、ほどよく“不真面目”だった。いつだって遊び心が溢れている。今シーズンは「フラワー・インベージョン(花の侵略)」をテーマに、カラフルさを全面に出したコレクションを手掛けた。シルクを使ったふわふわのカバンや、やりすぎ!ってくらいカワイイシューズがたくさん登場する。いつだって少し笑顔になるようなものを手掛けたいと思っている。
WWD:それも品質があってのこと。
ゲラルド:間違いない。こんなに真面目に“おふざけ”ができるのも、モノ作りの基礎が備わっているから。サヴォアフェール(受け継がれる職人技術)とその歴史があってこそ、「ロジェ ヴィヴィエ」の個性が輝く。創業者のロジェは、初めてオートクチュールの技法をシューズ作りに持ち込んだ人物と言っても過言ではない。リボンや帽子に使われるような花飾りをシューズにつけるなど、今では当たり前の刺しゅうや装飾づかいをロジェは真っ先に取り入れた。このコレクションではそういったディテールを現代風に再解釈した。サテンを使ったハンドメードの伝統的なシューズも、ビビッドな色使いで目をひくよう仕上げた。派手な色使いや装飾は(繊細な技術を要する)“クチュール”っぽくないと思われやすいが、職人技を追求している。
WWD:日本市場に期待することは?
ゲラルド:日本は特に大好きだが、届けたいメッセージは世界どこに対しても同じ。ただ日本市場は最も難しいマーケットの1つで、洗練されているイメージがある。文化にはストーリーがあり、ファッションには素晴らしいセンスがある。この市場で支持されるのは簡単ではない。それもあって日本市場に最初に受け入れられたときのことは、すごく印象に残っている。日本の市場に改めて届けたいのは「ロジェ ヴィヴィエ」の歴史と、ブランドの魅力、本質。ロジェが生んだ技術は今や当たり前に目にするようになったが、その中でも“本物”を極めるなら「ロジェ ヴィヴィエ」だろう。僕自身もこれまでロジェの手掛けるものにインスピレーションをたくさん受けてきた。(もう就任5年なので)“正式に”ブランドコードを追求できているんだ。