手のひらをパンッと合わせた後、拳と拳を軽くぶつけるスケーター流の挨拶があちこちで行われている。ここは、どこかの公園でも街中でもない、原宿のど真ん中にあるビル(屋内)の一角だ。1月27〜29日、ユニクロのグラフィックTシャツブランド「UT」でクリエイティブ・ディレクターを務める河村康輔と、スケートボーダーの上野伸平によって開催されたポップアップイベント「UT SKATE PARK」の会場に、30m程の巨大なスケートパークが作られた。それに引き寄せられるかのように、多くのスケートボーダーがフリースケートを楽しんでいる。太いボトムスに色違いのコラボTシャツを着て、キャップを深く被ったスケーターたちは、みんな個性的でかっこいい。時折、わき立つ歓声の中には、一般客の姿も多く、スケーターたちが着ているTシャツを憧れの眼差しで手に取っている。オーバーグラウンドな「UT」とアンダーグラウンドなスケートボードは、ひと昔前であれば交わることはなかったかもしれない。2つは、どのように出合ったか?河村と上野に話を聞いた。
――お二人の出会いは?
上野伸平(以下、上野):コロナ前の2019年だったと思うんですけど、共通の友人であるKILLER-BONG(アーティスト)が、彼と河村君のエキシビションに呼んでくれたのがきっかけです。そこで河村君を紹介してくれました。
河村康輔(以下、河村):そうだ、そうだ。その前から伸平君を紹介したいって言われていたんですけどなかなかタイミングが合わず、1年ぐらい経ってそこでやっと会えたんです。その場で仲良くなって「何か一緒にやりたいね」って、すぐに話が進んでいきました。
上野:こういうのって誰に紹介されるかで、入り方が全然違うんです。KILLER-BONGもすごいアバンギャルドな人で、彼が誰かを紹介したいってあまりないので、それはすごい印象的でしたね。俺は気に入った人とはすぐ「(コラボを一緒に)やりましょう」っていうタイプなんで、河村君ともすぐに意気投合した。それで、俺は河村君っぽいシュレッダーの作品を使いたかったんで、ネタは「USのエロ本にしましょう」ってお願いして、スケートボードとTシャツを作りました。それが最初のコラボですね。
――アーティストやスケーター、デザイナーとそれぞれ活躍の場が違いますが、ウマが合うなと感じた理由は?
上野:河村君はバンドカルチャーとかハードコア周りでしょ?だから、古い言い方かもしれないけど、アンダーグラウンドなシーンは一緒なので、波長はもともと合ったんだと思います。
河村:その感覚は、会って話せばわかるよね。
「スペシャリストに任せた方が絶対いい」(河村)
――今回の「UT」とのコラボで、河村さんから上野さんにリクエストしたことは?
河村:僕は、その分野のスペシャリストに任せた方が100%いいと思っているので、僕からは特に何もリクエストしていません。何かを見たりしてカルチャー的になんとなく分かっていても、自分がそこにいるわけじゃないから現場にいる人たちの方がリアルに決まっている。どれだけ情報を集めて武装しても現場には勝てないんです。だからそのまま好きなものをやってもらった方が一番かっこいいものが出来上がるし、信頼しているからこそお願いしている。普段から伸平君が手がける「タイトブース(TIGHTBOOTH)」の服作りを見せてもらっていて、こだわりが強いのも、細部まで手を抜かないのも分かっていましたし。
上野:ほんとに河村君からは「伸平君の好きにやってくれたらいい」って言われただけでしたね。自分も信頼されているからこそ、「任せてください。いい感じにしますから」って。信頼関係があるとあんまり打ち合わせしなくてもいいんですよ。こうすれば河村君が喜ぶだろうなっていうのはなんとなく分かるし、お互いいいものを作るっていう気持ちは同じだから、波長や感覚が合っているとざっくり話すだけで成立するんです。
――やりとりは河村さんの作品に上野さんがアレンジして進めるんですか?
上野:そうです。河村君のものを俺がいじって、俺のものにするっていう手法ですね。
河村:ほかのプロジェクトは、逆にネタを投げてもらってこちらで手を入れて戻すパターンが多いので、伸平君とのやりとりは新鮮ですね。僕のインスタとかから絵を選んでくれて、そこから絵型をとってアレンジして、「こんな感じでどうですか?」みたいに送ってきてくれます。それでお互いに「いいね」ってなったら「じゃあ大きい元データを送るね」って感じで、それでだいたい終わります。
上野:俺は描き下ろしとか撮り下ろしにあんまりこだわっていないんです。一見そっちの方が付加価値があるように見えるけど、既に世の中にあるものの価値も揺るがないと思っています。それを自分のフィルターを通して全く違うものに見せられるのであれば、それもありかなって。
「コラボは必ずスケートボーダーに還元」(上野)
――スケートパークを屋内に作るアイデアは上野さんが提案したんですか?
上野:そうですね。自分の中でルールがあって、スケートブランド以外の企業やブランドとコラボするときは、必ずスケートボーダーに還元してほしいというのを条件にしています。それ以外はやらない。河村君からオファーをもらったときも、「絶対にスケートでみんなが楽しめるような場所を作りたい」と伝えていました。だから今回作ったセクションは、イベント後にどこかのスケートパークに寄贈して、スケートボードの発展に繋げていく。みんなが豊かになるような方法で動きたいと思っています。「上野伸平って『ユニクロ』とコラボしたんだ……へぇ」みたいに言う奴らはいっぱいいるんですよ。自分もどっちかっていうとそういうサイドにいるんで、そういう奴らも黙らせる行動をとりたいと思っています。だからどんなことを言われても、結果的にそのセクションでみんながグラインドすればかっこいいっていうのが自分の中にはある。それで、最初に「スケートパークを作らせてください」ってお願いしました。
河村:フィールドが違ってもお互いアンダーグラウンドの世界にいるからこそ、そこにどう還元するかがこのカルチャーで一番肝心なのは、自分でもよく分かっています。だから、それ込みじゃないと成立しないのは当たり前のことなんですよね。
上野:ただ実際、こういう話をするとスケートパークを作ってスケートさせることにあまりポジティブじゃない人もいるんですよね。予算もあるし、そもそも作るのが大変でもあるし……。でも河村君にこの話をしたとき、「いいね!」「絶対やろう」って言ってくれた。そういう人が「UT」のクリエイティブ・ディレクターを務めていることがうれしいですね。