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東急本店の閉店 電鉄系百貨店「路線変更」の向かう先

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 東急百貨店の渋谷本店(東急本店)が閉店し、55年の営業を終えた。2020年3月には渋谷駅直結の東急東横店も閉店しており、これで本拠地である渋谷から「東急百貨店」の屋号は消えた。老舗の撤退は旧来型の百貨店業態の苦戦の表れであり、電鉄系百貨店の歴史的転換も意味する。百貨店をリテール事業の主軸にしてきた鉄道会社が、線路のポイントを切り替えようとしているのだ。

 店長らスタッフが深々と頭を下げると、芝居の幕のようにシャッターがゆっくり下りた。1月31日夜、東急本店の正面入り口前を数百人の客が埋め尽くし、閉店セレモニーを見届けた。70代の女性は「東横店の次は本店まで…。落ち着いて買い物できる百貨店が渋谷からなくなってしまった」と肩を落とした。

 若者の街・渋谷にあって、東急本店は中高年やシニアから支持を集めていた。大衆的な雰囲気の東急東横店、モードのDNAを持つ西武渋谷店とは異なる風格があった。東急沿線に加えて、足元にある日本屈指の高級住宅地・松濤の富裕層たちに愛され、売上高に占める外商の割合は4割に達した。

 だが、建物の老朽化が進み、建て替え計画が浮上すると、親会社である東急電鉄(現東急)は閉店を決める。創業地の“本店”をなくす決断は、小売関係者に衝撃を与えた。東急百貨店が運営する百貨店業態は、吉祥寺店、たまプラーザ店、札幌店だけになり、都心店舗を持たない会社になった。

鉄道グループの一部門としての百貨店

 百貨店は発祥のルーツから呉服系百貨店と電鉄系百貨店に二分される。電鉄系百貨店は鉄道会社のリテール事業を担う一部門だ。ターミナルに大型の商業施設を構え、鉄道の利用を促し、沿線の価値を高める。阪急の小林一三、東急の五島慶太らが作り出した日本独自のビジネスモデルである。昔は大型の商業施設といえば、百貨店の一択だった。しかし今は違う。小売業の多様化と競争激化によって、商品を仕入れて売る「百貨店業態」の収益性は悪化。コロナ禍ではその脆弱さがあらわになった。テナントを集める「ショッピングセンター(SC)業態」で安定した家賃収入を得た方が得策という気運が高まった。

 新宿駅西口の再開発に伴い、小田急百貨店は昨年10月に新宿店本館を閉めた。親会社の小田急電鉄は29年完成の商業施設に引き続き百貨店が入るかは明らかにしていない。40年代の完成を目指した再開発が予定される京王百貨店新宿店も、親会社の京王電鉄は百貨店以外の商業施設への転換を示唆している。東武百貨店池袋店も池袋駅西口の再開発に伴う建て替え計画が発表され、百貨店の存続が俎上に上がっている。

 東急の場合は、やや事情が異なる。グループのリテール事業は百貨店だけではない。渋谷スクランブルスクエア(19年開業。東急、JR東日本、東京メトロが運営)、東急プラザ(18年建て替え開業)、渋谷ヒカリエ(12年開業)、そして若者を集める渋谷109(1979年開業)。グループ全体として渋谷の商業を盛り上げるのであれば、百貨店業態にこだわる理由はそれほどない。ちなみに屋号が消えた東急百貨店だが、渋谷ヒカリエ内の商業施設であるシンクス(売り場面積1万6000平方メートル)、渋谷スクランブルスクエア内の化粧品・服飾雑貨・食品(5000平方メートル)、渋谷マークシティの東急フードショー(6000平方メートル)は同社の運営である。

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