「シャネル(CHANEL)」のオートクチュールショーは、2022年春夏からセットや演出において、フランス人現代アーティストのグザヴィエ・ヴェイヤン(Xavier Veilhan)とのコラボレーションしている。その最終章となる23年春夏は、広々とした四角い空間に木や厚紙で作られたラクダと架空の動物“クロコドッグ(ワニと犬を融合したもの)”の巨大なオブジェを飾り、観客を迎えた。そしてショーが始まると、まずライオンや馬、牛、犬、鳥、魚などのオブジェが登場。配置が終わると、それぞれの動物の中に隠れていたモデルが次々に姿を現し、ランウエイを歩いた。
今季の着想源となったのは、パリのカンボン通り31番地にあるガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)のアパルトマン(アパート)。そこにあるライオン、犬、鹿、鳥、ラクダなどのオブジェや彫刻、ドローイングがカギとなった。「3回目のコラボレーションとなる今回、グザヴィエ・ヴェイヤンには、アパルトマンの動物たちの寓話を再解釈し、彼自身の世界に取り入れてもらいたいと依頼した。コレクション全体の装飾も、動物の世界から派生したものだ」とヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)=クリエイティブ・ディレクターは話す。
その言葉通り、動物のモチーフはコレクションの随所に取り入れられている。例えば、スタンドカラーのツイードジャケットの胸元にはクリスタルでコーギーを描き、シルバーラメのドレスの前身頃には白と黒のウサギを並べた柄を刺しゅうで表現。繊細な白いレースのロングドレスには胸元から鹿が顔を覗かせるようなシアードレスを重ね、黒の太いストラップとウエストでコントラストを効かせた白のティアードドレスには身頃に同色で小鹿を忍ばせている。
スタイルとしては、昨年10月に披露した2023年春夏プレタポルテにも通じる若々しさが印象的だ。メゾンを象徴するツイードのスーツやコートドレスは、素肌をあらわにするミニ丈が中心。これはパレードやショーに出演する女性たちのユニフォームからヒントを得たもので、マジシャンのようなシルクハットやボウタイ、バトンガールのような白のレースアップブーツやロンググローブ、ペチコートなどもポイントになった。ドレスは、シルクチュールやタフタ、オーガンジー、レースといった素材使いで軽やかに。すっきりとしたロング丈やふんわりと広がるフレアシルエットのスタイルに、スパンコールやビーズの刺しゅうをたっぷりと施している。
そして、ラストには象のオブジェが会場中央に運び込まれ、その中からツバメの刺しゅうがあしらわれたベアトップデザインとミニ丈が印象的なマリエ(ウエディングドレス)とベールをまとったモデルが登場。ファンタジーと現実の間を漂うようなショーを締めくくった。
1月23日から26日までの4日間、パリで2023年春夏オートクチュール・ファッション・ウイークが開催された。今回の公式スケジュールには、パリ・クチュール組合の正会員である11ブランド、国外メンバーの6ブランド、ゲストメンバーの12ブランド合わせて29組がラインアップ。その中から、現代の富裕層やセレブリティーの期待に応えるモダンクチュールを紹介する。