先シーズンはローマのスペイン階段を舞台にドラマチックなショーを見せた「ヴァレンティノ(VALENTINO)」が2023年春夏オートクチュールのショー会場に選んだのは、セーヌ川に架かるアレクサンドル3世橋のたもとにあるアンダーグラウンド感漂うナイトクラブ。「ル・クラブ・クチュール」と題し、クチュールとクラブという相容れないような2つの世界の融合を試みた。
ファーストルックは、アイボリーのオーバーサイズジャケットとタイドアップしたシャツに、大きなボウ(リボン)が飾られたネオンレッドのアンダーウエアのようなショーツ。その後も、赤いフェザーで覆われたジャケットに総スパンコールのトップスとマイクロショーツを合わせたり、ラッフルが踊るオーガンジーのブラウスにクリスタルのビキニショーツをドッキングしたようなネオングリーンのタイツを合わせたり。リボンやラッフル、フェザー、スパンコール刺しゅうなど手仕事によるぜいたくな装飾や、たっぷりと生地を使って生み出すクチュールらしいボリュームを、若々しくエッジの効いたスタイルと掛け合わせている。
今季のスタイルのカギとなるのは、大胆な肌見せ。ドレスやスカート、ショーツはマイクロミニ丈での提案が多く、ロング丈のドレスでも胸元や背中を大きく開けたスタイルや深いスリット、カットアウトが目立つ。
メンズは、ゆったりとしたテーラードジャケットやコートが中心。シャツとタイ、テーラードパンツを合わせたスーツルックもあるが、衿ぐりの深いタンクトップやマイクロミニ丈のショートパンツを取り入れたスタイルを押し出す。中にはスパンコールがふんだんにあしらわれたコートもあり、存在感を放つ。
コレクションを通して多様性や包摂性を表現し続けるピエーロパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)=クリエイティブ・ディレクターは、「私にとってクチュールとは、多くの人に語りかけ、大胆な方法でメッセージを伝えることができるもの。そして、この数シーズンは若い世代がクチュールに感動していることを感じた。私が考えていたのは、クラブで若者たちが最高の自分になるようにいざなわれるような、人間性や個性にあふれる新しい意味を持った華やかな祭典というアイデアだ」とコメント。自分のなりたい姿やアイデンティティーを自由に表現するために着飾るというところに、クチュールとクラブウエアの共通点を見出したようだ。
ショー後には、コンコルド広場のすぐ近くにある老舗レストラン、マキシム・ド・パリでアフターパーティーを開催。アール・ヌーヴォーの装飾が美しい店内には、DJブースも用意され、クラシックな空間がダンスフロアと化した。そんなパーティーも、古き良きものの現代における在り方を示すモダンクチュールのアプローチに通じると感じさせるものだった。
1月23日から26日までの4日間、パリで2023年春夏オートクチュール・ファッション・ウイークが開催された。今回の公式スケジュールには、パリ・クチュール組合の正会員である11ブランド、国外メンバーの6ブランド、ゲストメンバーの12ブランド合わせて29組がラインアップ。その中から、現代の富裕層やセレブリティーの期待に応えるモダンクチュールを紹介する。