スニーカーにまつわる噂話のあれやこれやをアトモスの本明秀文CEOに聞く連載。9月に発売した本明さんの初著書「シューライフ『400億円』のスニーカーショップを作った男」(光文社)は、おかげ様で発売からわずか1週間で重版が決まり、累計発行部数は1万2000部。本屋にはすでに3刷目が並んでおり、春頃には中国語版も販売される予定だ。今回は、聞き手と文を担当した僕との裏話。フットロッカーに売却した際に手に入れた400億円は何に使う?(この記事はWWDジャパン2022年11月28日号からの抜粋です)
――本明さんの人生を一冊の本にまとめましたが、これまでウェブ上に出ていた本明さんの情報が誤植だらけなのはなぜですか?誕生日すら違っていたし……。
本明秀文CEO(以下、本明):商売と僕の誕生日は関係ないからね。商売は商売、僕の誕生日は誕生日。取材中、商売に繋がることしか真面目に答えてないんだと思う。先日出演したラジオ番組の番宣で、店名が“atomos”とか名前が“本名”とかになっていると知り合いから指摘されたんだけど、そういうのが大切だとは思っていない。
――本明さんの半生をまとめた“とあるウェブ記事”では、「チャプター(CHAPTER)」(1996年に開いたスニーカーの並行輸入店)が2003年に閉店したことになっています(正しくは2018年5月27日閉店)。
本明:まぁ結局過去の話だから、きちんとまとめようと思うと今回みたいに何カ月もかかる。誠意を持って書いてくれるライターさんのことは信用しているから原稿は任せているし、それ以上に、自分の言ったことには責任を持ちたい。だから僕の伝え方が悪かったのかな、と。
—でも多くの人は校正確認をしたがりますよ。大体きれいな内容になるから、最終的には良いことしか書かれていないことがほとんどです。その古いメディア文化を暴いていったのがSNSじゃないですか?
本明:でも書かれたくないことも出さないと。そもそも僕の人生が正しいとは全く思っていない。僕がユーチューブに出始めたこの5〜6年で、「アトモス」への批判が本当に減った。それ以前は転売ヤーを中心に「アトモス死ね」とか、散々言われていたから。だから、いくらきれい事をまとめても感じ方は人それぞれ。それに泥水をすするようなところから始まった人生だから多少のことではくじけないよ。
――「シューライフ」の反響はありましたか?
本明:本を読んだ人から僕のところに感想文みたいなものが届くんだけど、本を書いて良かったことは、多くの人が「自分にもチャンスがある」と気付いてくれたことだね。人生、どんなにカッコつけていても常に不安は付きまとう。特に若者の中には、その不安をどうしたらいいか分からない人がたくさんいる。そういう人がこの本を読んで、何か気付いてくれたらうれしいね。
――他人の人生に少なからず影響を与えられたと思うとうれしいですよね。だけど、過去に縛られない本明さんが、過去を振り返ろうと思ったのはなぜですか?
本明:本なんてなかなか出版できないじゃん。お金を払えば書いてもらえるかもしれないけど、自分では流通させることが難しいからいい機会だと思って。
――ちなみに、本では“死との遭遇”もターニングポイントの一つです。400億円は最後どうするんですか?
本明:税金だよ。死んだらお金なんて価値が無いんだから。そもそも、400億って言っても20%は最初に税金で取られているし、うちのガキに渡したら相続税で55%も取られる。だから、みんなシンガポールとか税金の無い国に行くけど、小さい国で毎日ゴルフする生活は僕の性に合っていない。商売は未来学。僕が投資したものが数年後に花開いたとき、僕が読んだ未来が正しかった証明になる。「チャプター」時代にアメリカで100ドル(当時約1万円)で買ったスニーカーが、日本で1万9800円で飛ぶように売れた。それを見た母ちゃんが「この値段はどこから来るの?」とよく言っていたんだけど、それが未来学。お金があってもなくても、僕はそれが楽しくて商売をやっている。