「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」は、2023-24年秋冬シーズンのパリ・メンズ・ファッション・ウイークでパリでのショーデビューを飾った。同ブランドは拠点を置くロンドンで発表を続けた後、デジタルでのパリコレ参加を経て、前シーズンは「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」のゲストデザイナーとしてフィレンツェでショーを開催していた。パリでの初舞台に選んだのは、シャンデリアとゴールドの装飾が輝くきらびやかなホテル・デヴルー(Hotel d'Evreux)。ブラックカルチャーにオマージュを捧げる彼女のスタイルにヨーロッパの上流階級の装いを溶け込ませ、会場になじむエレガントなコレクションへと仕上げた。
アフリカ文化をエレガンスに
ファーストルックは、精巧なカットのロングタキシードが飾った。テーラードジャケットやペールブルーのクロコダイルのトレンチコート、ゆったりとしたシルエットのブークレツイードコート、曲線的なアウトラインのピーコートなどは、構築的な作りと素材感でクラシック。そこに、ゆるやかにフレアするスラックスやトラックスーツ、「アディダス オリジナルス(ADIDAS ORIGINALS)」とコラボレーションしたフットボールユニホームやシューズで軽快さを加える。伝統的な装いを、グレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)の自由な精神に根ざしたデザインコードで崩していった。
ボナーはショー後のバックステージで、パリから着想を得た点について語った。「パリで感じるのは、古い慣習と現代的な感性、そしてその間に生じる摩擦だ。国際的な芸術家や作家が、この地でどのようにアイデンティティーを築いていったのかに興味を持った。自己表現の自由を与えられた、知的な黒人のワードローブが今季のイメージである」。
文化的遺産としてクラフトに敬意を込めるボナーは今シーズン、シグネチャーであるシェルの装飾や刺しゅうに加え、ニットウエアをスワロフスキークリスタルで飾り、手作業で作られたバロックパールとガーナビーズのブローチでジャケットの胸元に光を添えた。ジュエリー使いは、フランスで活躍したアメリカ出身の黒人歌手ジョセフィン・ベーカー(Josephine Baker)のスタイルにインスパイアされて、「彼女のようにリアルでオーセンティックなスタイルを作りたかった」という。
ボナーのクリエイションは、シーズンを重ねるごとに肩の力が抜け、アフリカ文化を洗練されたエレガンスへと導いている。フランスの美学に触発された今季は、フォーマルな要素を強調しつつ、格式にとらわれない自由さを軽やかに表現し、彼女の才能の新たな側面を垣間見た。「過去に作られたスタイルの固定観念を壊し、新たなワードローブを構築する。その作業の継続性と洗練さへの探求が、コレクションが生み出す。表現したいものは、一貫して変わらない」。