「ベッドフォード(BED J.W. FORD)」が、2023-24年秋冬コレクションをファッションショーで8日に披露した。舞台は、代官山のレストラン「アソ(ASO)」。ここは山岸慎平デザイナーにとって思い入れのある場所だ。「ブランドを始めたころ、ここの前を通るたび『パリってこんな感じだろうな』と妄想していました。テラス席があって、緑が豊かで、穏やかな空気が流れていて。今日のショーでは、僕が描くパリのムードに浸ってもらえたらうれしいです」。
さらなる飛躍へ向けた
“東京最後”という覚悟
ショー前に山岸デザイナーは「東京は、これで最後のつもりなんです」と語った。「もちろん、何かの機会でやることがあるかもしれないけど、次からはショーも含めて海外で本格的にチャレンジしていく。僕にとっての節目のコレクションです」。
かつて海外でショーを行ったこともあったが、コロナの影響もありここ数年は見送っていた。しかしそれは挫折ではなく、ブランドを前進させるきっかけになった。「自分が今できることを考えて、心境に素直に向き合った結果」、花に着想した布製のアイコンや、少年の純粋さを表現した星のボタンなど、ブランドを象徴する要素が生まれていった。「ロゴに替わるキャッチーな手法で、自分の中でも手応えがあった」。進化するクリエイションを引っ提げて国内で2度のショーを行い、昨年6月にはパリでの展示会を再開。それらの反響も上々で、「自分がやりたいことを、明確に伝えられるタイミングが来たのかもしれない」と思うようになった。
ムードある会場に調和する
ドラマチックなコレクション
会場のキャパは180人。多くの人に見てもらうため、2回に分けてショーを行った。席に着くと好きなドリンクを提供され、来場者は飲み物をすすりながら会話に花を咲かせていた。非日常のファッションショーが、日常の延長に感じられる演出だ。
定刻の19:00を少しすぎたころ、BGMが徐々に大きくなり、ショーが幕を開けた。ファーストルックは、シルクボアの黒のロングコートにラメ糸を使ったタイツを合わせたスタイル。白のロングシャツとのレイヤードやボリュームのあるスクエアブーツとの合わせにより、違和感のないメンズスタイルに仕上げた。その後も、ファーコートやパファージャケットといった大ぶりなアウターとタイトなボトムスを合わせるスタイルを複数回登場させ、今シーズンを象徴するスタイルとして打ち出した。
コレクションの軸となるテーラードやコートには肩パッドが入り、カラーもブラックやネイビーが多くシックな印象だ。そこにフーディーやバラクラバを合わせてカジュアルダウンさせながら、グリーンやオレンジ、赤のアクセントも差し、重すぎない印象に仕上げていく。動きに合わせてなびくひもやフリンジなどの定番のディテールも、コレクションに軽やかさを添えた。
多くのウエアに、星形のボタンや一輪の花もモチーフ、ラメ糸の生地やスパンコールの装飾など、キラキラとしたディテールを散りばめた。スカーフには、“Twinkle Twinkle Little Star(キラキラ光る、夜空の星よ)”の文字もあった。穏やかなムードの会場にゆっくりと溶け込むような、ドラマチックなコレクションだった。
フィナーレで登場した山岸デザイナーの表情は晴れやかで、迷いがないように見えた。さらなる飛躍を誓うデザイナーの新章が楽しみだ。