ファッション

Z世代を掘り起こせ、「マウジー」「スライ」運営会社の「ゾゾモ」活用術

 ZOZOは2021年11月に「ゾゾタウン」に出店するファッションブランドのOMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの統合)プラットフォームである「ゾゾモ(ZOZOMO)」をスタートした。これにより、「ゾゾタウン」を訪れたユーザーは、サイト上で対応ブランドの実店舗にある在庫有無の確認や、サイト上でそのまま取り置きができるようになった。日々膨大なアクセス数があり、年間購入者数が1000万人を超える「ゾゾタウン」で、リアル店舗へ誘導する道筋を開いた意義は大きい。その一方で、ブランドにとって「ゾゾモ」はどのような効果をもたらしているのか。「マウジー」「スライ」などの有力ブランドを擁するバロックジャパンリミテッドでEC事業を率いる、アパレルECのキーパーソンの一人であるバロックジャパンリミテッド EC事業部長兼OMO推進部 部長 田村英紀氏と、「ゾゾモ」プロジェクトを担当するZOZOのブランドソリューション本部 ブランドソリューション推進部 ディレクションブロック所属 遠矢大介氏に、OMOの最前線を聞いた。

バロックジャパンリミテッド
のOMO戦略

WWD:これまでのOMOの取り組みと考え方は? 

田村英紀バロックジャパンリミテッド EC事業部長(以下、田村):当社は今で言うOMOにはかなり早い段階から取り組んでいて、自社ECサイト「シェルターウェブストア(SHEL’TTER WEBSTORE)」で、2018年から店舗在庫の表示を行い、EC在庫の店舗決済も行っていた。

遠矢大介ZOZO ブランドソリューション推進部(以下、遠矢):それは早い。18年の段階で「ゾゾモ」のような仕組みをやっていたのですね。

田村:ありがとうございます。ただ、そもそもOMO自体、オフラインとオンラインの施策をシームレス、チャネルレスに展開する、みたいな本来の意味を考えると、実はものすごく広義なもの。だから数年前から「OMO」に関して、何をどう実行していくか、について部署横断のタスクフォースを作っていた。21年からはOMO推進部という形になり、CRMをキーワードにお客さまとの接点を増やす取り組みを行っている。

WWD:バロックジャパンリミテッドのようにオフライン発のブランドが強い企業やブランドがOMOに取り組む意義は?

田村:当社の場合「マウジー」「スライ」を筆頭にSNSなどオンラインでの情報発信力も強いが、SNSでの情報発信もその起点はカリスマ販売員たち。顧客化という観点で見ると、やっぱり店頭が起点になる。「店頭を起点に、どうECやSNSなどのデジタルコミュニケーションに広げていけるか」という考え方なので、OMOに関しては一般論にあまり意味がなく、企業規模やブランドのキャラクターなどによって、考え方はかなり変わるだろうな、と思っている。

導入コストはゼロ!?
「ゾゾモ」導入のプロセスとは?

WWD:改めて「ゾゾモ」の仕組みとは? 

遠矢:「ゾゾモ」は「ゾゾタウン」に出店しているファッションブランドを支援しようと、21年11月にスタートしたOMOプラットフォームです。「ゾゾタウン」上でブランドの実店舗の在庫確認と取り置きができるサービスで、「ゾゾタウン」の膨大なアクセス数を生かし、実店舗に「ゾゾタウン」ユーザーを送客することで、ブランド実店舗の売上を支援しています。店頭での取り置きには販売員用のアプリ「ファーンズ(FAANS)」を開発し、販売員の方々に使っていただいています。2021年11月に在庫表示をスタートし、1年で在庫表示店舗数は約3倍にまで増えました。

WWD:導入の発端は?

遠矢:21年10月に「ゾゾモ」を発表後、私からすぐにお声がけをさせてもらいました。

田村:そうですね。途中で当社のシステム関連の入れ替えなどがあった関係で、実際の導入は22年3月になったけど、導入プロセスはスムーズでしたね。

遠矢:その期間を抜かすと、実際に導入にかかった時間は2カ月ほど。現時点ではバロックジャパンリミテッドの全ブランドの店舗在庫をゾゾタウン上に表示、店舗での取り置きサービスもほぼ全店舗にあたる約350店舗で導入していて、導入が決まった後のスピードはものすごく早かったです。

WWD:「ゾゾモ」は、最初の窓口はEC担当者でも、実際には店頭の販売員も巻き込む必要がある。その調整は大変だったのでは?

遠矢:当社にとって、店頭の販売員さんも巻き込んだ本格的なサービスは初めて。だから田村さんが窓口になっていただけたのは本当に大きかった。本来は時間のかかる社内調整や折衝ごと、さらには導入にかかる細かな作業や調整も、田村さんがバリバリと進めていただけた。田村さんはメールの返事がいつも「即決・即レス」(笑)。とにかくスピードが早い。

田村:ありがとうございます。メールは基本、即レスを心がけています(笑)。加えて私はすぐ電話もするので遠矢さんとはかなり話していますが、実はリアルで会うのは今日が初めて(笑)。ぜひ今度飲みに行きましょう!

遠矢:ありがとうございます。当社の本社は西千葉ですが、私は東京在住で、実は田村さんと自宅もけっこう近いんです(笑)。ぜひお願いします!

「ゾゾモ」がもたらす効果とは?

WWD:どのように導入準備を進めたのか? 

遠矢:当社側では運用マニュアルを作成し、各ブランド事業部の担当者の方々へオンラインでの説明会を4~5回実施しました。田村さんには、社内の関係各所と調整していただいたり細かなフォローをしていただきました。

田村:そもそもの話になるのだけど、「ゾゾモ」の導入にあたっては、早い段階で経営陣からの同意も得ていて全社で取り組む下地ができていた。なぜなら全社的な経営課題の一つとして新規顧客の獲得、特にZ世代の獲得に関してかなり優先度が高かったから。「ゾゾモ」なら、ゾゾタウンを利用しているZ世代を含む幅広いユーザーを店舗に送客し、かなりコストパフォーマンスよく新規顧客獲得に繋がる、という点が相当に魅力的だった。

WWD:導入の準備段階で、田村さんを通じて全社的に取り組む下地を作っていた、と?

田村:そうです。それだけ、新規顧客の獲得に関しては優先度が高いんです。これは当社に限った話でなく、有力なアパレル企業ならどこも同じような悩みを抱えていると思います。

遠矢:導入後の効果はいかがでした?

田村:これは予想通りというか計画通りだったのですが、「ゾゾモ」経由で来店するお客さまの多くが新規で、店舗に初めて来たという人も思ったより多かった。「取り置き」をしている時点でかなり購入意欲が高いわけで、さらに当社のように店舗が強いと、リアル接客でセット買いや、ついで買いも期待できるし、リピーターにもなりやすく、それは数字面でも裏付けられている。さらに、取り置きまでしなくても、在庫表示だけ見て来る人がいることを考えると、実際にはこちらが把握している数字以上の効果があるかもしれない。新規顧客の獲得という意味で、手応えを感じている。

遠矢:Z世代の獲得という面はいかがでしょう?

田村:「ラグアジェム(LAGUA GEM)」のようなZ世代に強いブランドからは、店舗でも効果を実感しているという声もある。導入費用はほぼゼロなので、当社からすると「ゾゾモ」による店舗への波及効果は「純増」になるため、その面でもメリットは大きい。

ECのキーパーソン2人が考える「OMO」の今後は?

WWD:となると今後にかなり期待している? 

田村:そうです。今後「ゾゾタウン」ユーザーに積極的な「ゾゾモ」プロモーションをかけて、もっともっと送客してほしい(笑)。

遠矢:ありがとうございます。他の導入企業からもそういった声を多くいただいていて、大変ありがたく思っています。今後もバロックジャパンリミテッドさんをはじめとする導入企業さまと密に連携しながら、考えうるリスクや影響などを精緻にシミュレーションし、対策もきっちり講じた上で、期待にしっかり応えていきたいです。

田村:真面目ですね。でもそこがZOZOさんのいいところ。それに「ゾゾタウン」のような強力な集客力のあるモール型ECプラットフォームによるOMOは、今後も含めてかなり可能性があると思っているし、ZOZOにとってもそこは大きな強みにもなると思います。

WWD:OMOの今後については?

田村:当社の課題感を一言にするなら「いかに顧客を増やしていけるか」。店舗を利用する人にECも使ってもらう、逆にECを見た人を店舗に送るといったことから、店頭の販売員と顧客のコミュニケーションをどうするかまで、やるべきこと、やらなきゃいけないことはものすごく多い。でも難しく考える必要はなくて、例えば店頭でのコミュニケーションなら、これまで当社は顧客とのワントゥーワンコミュニケーションは「電話」のみというルールだったのですが、現在はLINEでも対応を始めています。

WWD:最後にZOZOへの期待を一言。

田村:当社自体がZOZOさんとは長い付き合いですし、現場だけでなく両社の経営層レベルでも交流がある。非常に親しい関係です。やっぱり、お互いに「ファッション好き」「もっとファッションを盛り上げたい」という部分で一致していることが大きいのかな、と。「ゾゾモ」のような新サービスや新ツールは、やってみないと分からないことも多い。なのでそういった部分からどんどん一緒に取り組みたいと思っています。環境がものすごいスピードで変わる中で、「まずはやってみようよ」という関係を今後はさらに発展させていきたいですね。

遠矢:ありがとうございます。コロナ禍がようやく収束に向かっているとはいえ、まだ店頭に人が戻っていない部分もあります。当社は「ゾゾモ」を筆頭に新たなサービスやツールでブランドの実店舗支援を全社一丸となって取り組みたいと考えており、今後も新ツールやサービスがあればお声がけさせていただきます!

PHOTO:KENTO SHINADA
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「ゾゾモ」担当窓口