三井不動産が東京駅八重洲口東側エリアで再開発を進めてきた「東京ミッドタウン八重洲」が3月10日、グランドオープンする。施設コンセプトは「ジャパン・プレゼンテーション・フィールド〜日本の夢が集う街。世界の夢に育つ街〜」。日本ブランドにこだわって集積した商業ゾーンには、京都西陣織の老舗、HOSOOが展開するオリジナルブランド「HOSOO(ホソオ)」が東京初出店する。開発の狙いや見所について、東京ミッドタウン八重洲の開発担当者である三井不動産の安田嵩央・商業施設本部アーバン事業部事業推進グループ主事と、HOSOOの細尾真孝社長に聞いた。
ジャパンバリューを発信する
WWD:東京ミッドタウンのコンセプトと、3施設目が八重洲になった理由は。
安田嵩央・商業施設本部アーバン事業部事業推進グループ主事(以下、安田):東京ミッドタウンのコンセプトは、「『ジャパンバリュー』を世界に発信し続ける街」だ。2007年に最初に開業した東京ミッドタウン(六本木)では上質な日常を提供し、東京ミッドタウン日比谷(18年開業)では新しい感動体験を提供できるエンタメの街を作った。では、なぜ3施設目が八重洲かというと、日本の玄関口であり、交通量もエネルギーも抜きん出た場所だからだ。ジャパンバリューとは、いろんな才能の掛け算で出てきたものを発信する意味でもあり、コラボレーションで価値を作って多くの人に届けられる情報発信力が高いエリアが八重洲だった。多様な人が参画するプラットフォームとして、類を見ない多彩な要素で構成するミクストユース(複合)型の再開発事業となっている。
WWD:八重洲はビジネスエリアのイメージが強い。
安田:東京駅周辺では2000年代に丸の内、10年代に京橋と銀座で開発が進んだが、20年代に最も大きな変貌を遂げるのが八重洲だ。28年までに東京駅八重洲口駅前3街区が誕生する。これまで交通の結節点というイメージが強かった八重洲が、東京ミッドタウン八重洲をきっかけに“滞在する街”へと変わるわけだ。小学校やブルガリホテルも入居し、街への参画者は多様になるだろう。今回商業ゾーンに出店する57店舗は、八重洲のエリア価値を高めてくれるパートナーで、それぞれがどう交流できるかも重要になる。
WWD:日本ブランドを集積した商業ゾーンのコンセプトと狙いは?
安田:八重洲の強みは、情報発信力の高さとトラフィックの多さのほかにも、多様な人々が街作りに参画でき、才能の掛け算がしやすく、コラボレーションの可能性があるところだ。世界中から人、モノ、コトが集まり、新しい体験価値ができる街。それが八重洲の新しい個性にもなる。地下1〜地上3階の商業ゾーンも、日本のいいものを集め、交わらせ、未来志向の新たな価値を世界に発信していくのがコンセプト。八重洲からの発信がいい磁力になると思う。
日本の玄関口で、
日本の工芸の現状を変える
きっかけを作りたい
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WWD:では、大変貌を遂げようとする八重洲エリアに「HOSOO」の出店を決断した経緯と理由は?
細尾真孝社長(以下、細尾):4年前、八重洲の街をどんなふうに変えていくべきかというコンセプト構想に関する相談を安田さんから受けた。八重洲はオフィス街の印象しかなかったが、江戸時代は職人の街で、人が集まり、文化が行き交うハブだった。日本の美意識を展開するうえでは、いい意味で色がついていないので最適な場所なのではと考えた。
安田:工芸は自分とは縁遠いものだと思っていたが、実は日常に根付いているものが多く、実際に西陣織や朝日焼の職人の技を直に見せていただいてすごい熱量を感じた。クラフトマンシップは、体感するとものすごい感動体験がある。
細尾:出店の話がある前に、館全体のエントランスゲートについての相談があり、当社が初めて開発した外壁技術が採用されることになった。最初は驚いたが、過去の素晴らしい価値観が現代的にブラッシュアップされていく時代に突入するという感覚があったので、これまでに培ったものでチャレンジしようと決断した。その後、施設のコンセプト構想やエントランスゲートだけでなくHOSOOとして「HOSOO TOKYO」の名前を冠して出店することになったのだが、出店にあたっては、この場でないと絶対できないものを作っていこうと思った。日本文化の中には素晴らしいものが脈々と根付いているが、まだ最大化できていない。日本の玄関口である八重洲で多くの方にメッセージを発信し続けることで、そんな状況を変えるきっかけになるのではと。1社でやるよりも同じ思いを持った三井不動産と連合してやることでより強い力になると思った。
安田:東京ミッドタウンブランドらしいラグジュアリー感は、八重洲でも大事にしたいと考えている。ラグジュアリーという言葉には、ものの本質に触れたり、丁寧に生きることを通して心の豊かさを上げてくれる体験といった意味合いもあると思う。それをここで掘り起こしていくわけだが、同じ船に乗って同じ方向性でフィロソフィーを共有し、具現化していける方々と成長していくことが大事だと思う。
過去を振り返り、
現代的な形で未来につなげていく、
「HOSOO」のものづくり
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WWD:「HOSOO TOKYO」のコンセプトとラインアップは?
細尾:一つは工芸建築だ。さまざまな技術を持った職人の協業で店舗を作る方法を採用した。床は京都の左官職人が独特の技法で作っていて、4mの柱のアートウォールは京都の表具師が数カ月かけて工房で作った。ここがかなり挑戦的なところだ。店舗でショッピングされる方だけでなく、前を通行される方にもインスピレーションや豊かさを与えられるよう、できる限りの力を結集した。商品は、「HOSOO」のテキスタイルを使ったコレクションとアクセサリーに加え、今回オープンに合わせて作った寝具とパジャマも販売する。開発に5年かけた着心地のいいシルクで、平安時代の染色技法で染めた。ニホンムラサキという絶滅危惧種の植物の根で染めるのだが、出雲の農家が伊勢神宮の式年遷宮用に栽培されているのみで数が不足している。そこで、HOSOOは古代染色研究所を立ち上げ、ニホンムラサキを自家栽培するための植物農園を京都の丹波に開設し、栽培に成功した。農園の隣には古代染色工房を設け、手染めしている。「HOSOO TOKYO」には、このニホンムラサキを使った染めたてのパジャマが並ぶ。自然染色の生地はほぼ触れる機会がないので、商品として販売することでいいものを長く使い続けることの大切さも伝えていきたい。店内の接客では、パジャマの染め直しのサービスも提供していく。また、テキスタイルセラーに展示した200種類の「HOSOO」コレクションから選べるアートピースのオーダーも可能。素材の良さを最大限引き出しながらお客さまに合わせて提案していきたい。
WWD:ターゲット層に向けてのメッセージは。
細尾:時代が大きく変わるタイミングなので、より本質的な価値を伝えていきたい。過去を振り返った分だけ未来のことも考えられる。何千年もの歴史がある工芸品には、振り返られる振り幅がある。だから、その中からいいものを引っ張り出し、現代的な形で未来に展開していく。サステナブルな観点からも、お直しして価値を高めながら受け継いでいく考え方を伝えていきたいし、そういう仲間も増やしたい。
安田:「HOSOO」の強みは、工芸や西陣織を常にアップデートし続けている点だと思う。古代染色についても、過去を研究して残していくべき技術を使い、協業先とのコラボで新たにプロダクト化されている。そこが、東京ミッドタウンのコンセプトであるジャパンバリューの発信とも共通する。商業施設は、リアルでモノや空間に触れて感じることができるので、リアル価値を上げてくれる存在だ。東京ミッドタウン八重洲に来れば、知らなかったものにも出合えるし、体験もできる。
日本初進出の「ブルガリホテル」や
小学校の新校舎、バスターミナルも入る
大規模複合ビル
JR東京駅と直結する、地上45階建ての「東京ミッドタウン八重洲」は、オフィスフロア(7〜38階)と商業ゾーンに加え、日本初進出の「ブルガリホテル 東京」(40〜45階)(2023年4月開業予定)や国内最大級の高速バスターミナル「バスターミナル東京八重洲」(地下2階)(2022年9月開業済み)があるほか、再開発区内にあった小学校の新校舎(1〜4階)やビジネス交流施設(4・5階)など多彩な要素で構成される大規模複合ビルだ。地下1〜地上3階の商業ゾーンには、「HOSOO」「CFCL」「TOKYO UNITE」など初出店6店舗、東京初出店11店舗を含む注目のジャパンブランド57店舗が集結。2階の公共スペース「ヤエスパブリック」は、立ち飲みスポットと物販・休憩エリア、裏路地からなり、八重洲を行き交う全ての人がふらりと立ち寄れる場所を目指している。
三井不動産 広報部
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