日本の縫製工場を支えてきた「技能実習制度」が大きな岐路を迎えている。法務省は昨年12月から、制度の見直しに向けた「有識者会議」を招集し、すでに3回を終えた。「技能実習制度」は、もともと1993年に始まった「外国人研修制度(以下、研修制度)」を、2010年に見直して「技能実習制度」としてスタートしたもの。政府は建前としては「技術移転」などを掲げているものの、実質的には人手不足に悩む日本の中小・零細企業の労働力になってきた一方で、不当労働や人権侵害などの多くの問題を抱えてきた。「メード・イン・ジャパン」を支える光と影とも言える「技能実習制度」の現状と今後を、3人の識者に聞いた。
岩橋誠/NPO法人POSSEスタッフ、北海道大学公共政策学研究センター研究員
岩橋誠(いわはし・まこと):1989年、愛知県出身。中高7年間を米国で過ごし、帰国後に「年越し派遣村」に衝撃を受け、労働相談ボランティアとしてPOSSEに関わる。2019年4月に「外国人労働サポートセンター」を発足。著書に「外国人労働相談最前線」(2022、岩波ブックレット)
WWD:技能実習制度の何が問題なのか。
岩橋誠NPO法人POSSEスタッフ(以下、岩橋):問題しかない。私の所属しているPOSSEは、労働問題に取り組むべく大学生のボランティアが中心となって2006年に発足、「ブラック企業」「ブラックバイト」といった労働問題に取り組んできた。2019年に「外国人労働サポートセンター」を立ち上げると、初年度に50件だった相談件数は、2020年度にはコロナ禍もあって500件近い相談が寄せられた。その中身は、「本人の意志に反して空港に連れて行かれ強制帰国させられそうになった」「パスポートを奪われて強制的に働かせられる」といった深刻な人権侵害に関するものも多い。日本でのこうした労働・人権問題に加え、そもそも来日時に70万〜100万円もの負債を抱えさせられている。月給2〜3万円の彼ら/彼女たちにとってはかなり大きい金額だ。海外の調査機関やNGOは、技能実習制度や技能実習生を「現代の奴隷制度」「債務奴隷」とも指摘している。つまり、グローバルスタンダードからはかけ離れた実態なのだ。
WWD:「メード・イン・ジャパン」と言えば、高品質でクリーンというイメージがあるが。
岩橋:我々が相談を受けて、現在取り組んでいる事例の一つに山梨県のある縫製工場がある。その縫製工場は、ベトナム人の技能実習生をエアコンもヒーターもない狭い一軒家に11人で住まわせ、彼女たちが改善を求めると社長や監理団体が威圧的な態度で、有給を取らせなかったり、賃金の未払いといったことも行っている。にもかかわらずその縫製工場は「エシカル」や「サステナビリティ」をうたい、自社ブランドとして実にワンピースを1着3万〜5万円で販売している。これが「メード・イン・ジャパン」の実態なのだ。
WWD:問題の本質は?
岩橋:アパレル産業に引き寄せて言えば、高品質をうたう「メード・イン・ジャパン」は、まさにこうした環境に置かれた技能実習生たちに支えられている。スエットショップ(搾取工場)というとバングラデッシュのような海外の話だと思う人もいるかもしれないが、実際にこの日本で数十年間続き、今も起こり続けている問題なのだ。決して他人事ではない。
WWD:外国人労働者の現状は?
岩橋:コンビニやスーパー、レストランに行けば、常に外国人のアルバイトを目にすることも多いはず。日本で働く外国人はこの数年で急増しており、2010年に65万人だった外国人労働者は、コロナ禍で入国制限された21年ですら前年度と比較して0.2%増と過去最高を更新し、173万人に達している。増加を支えているのは、留学生と技能実習生だ。11年に13万人だった技能実習生は21年には35万2000人に増えている。
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