トム・ブラウン(Thom Browne)がアメリカファッション協議会(CFDA)の会長に就任してから初となるコレクションを2月14日(ニューヨーク現地時間)に開催した。会場は、まるでどこか別の惑星。会場中央には墜落した飛行機、足元には砂が敷かれ、見上げるとそこには無数の星といくつかの惑星が瞬いている。ショー当日は、バレンタインデー。客席には小さな箱が置いてあり、中には「Happy Valentine’s Day」と書かれた紙とハート型のチョコレートが2つ入っていた。トム・ブラウンならではの粋な計らいだ。
時計の針の音がカチカチと流れる中、ショーはスタートした。冒頭には2人のモデルが惑星に迷い込んだようにキョロキョロとしながら登場。一人はキルティングで仕立てられたパイロットのようなボリューム感のあるスーツをまとい、もう一人はブランドのシグネチャーとも言えるオーバーサイズのグレーのジャケットにゴールドのカーリーヘア。まぎれもない「星の王子さま」への賛辞のコレクションだ。パイロットとリトルプリンスに続くのは、長い爪をゆらゆらと揺らしながらゆっくりと歩く7人の宇宙人風のモデル。ワイングラスや王冠などを刺しゅうしたシルクのドレスに身を包んでいるが、どうやらみんな別々の惑星から来たようだ。
コレクションは、トム・ブランドの視点を通して「星の王子様」の物語を忠実に再現している。子供であるリトルプリンスは大人の視点よりも鋭く、多くのものを見ているというメッセージがコレクションの中で表現されていく。前半に現れるのは、大人たちのグループ。大きく張り出したパワーショルダーのコートとジャケットはツイードで仕立てられ、スリーピースにカチッとタイドアップしたビジネスマンのようなモデルがランウエイを闊歩する。続いてゾウのバックを持ったモデルはシフォンのツイードドレスにペイズリーのリボンを施したスカート、バラのバッグを持ったモデルはペイズリーのフルレングスドレスにシルバーとゴールドの刺しゅうをあしらったトップスとスカートで現れた。
続くのは子どもたちのパート。ジャケットやシャツは解体され、ねじって結んだり、肩パッドがあらわになったり、残りの部分を再構築してスカートにしたり、ジャケットをコルセットにしたりなど自由な発想が際立つ。ところどころに刺しゅうした星や月、惑星は、アクセント。解体され、再構築された型にはまらない自由な発想のスタイルは、リトルプリンスが見る何にも縛られないピュアな視点の表現だ。
フィナーレはモデルたちがペアとなり、手を繋ぎながら惑星を歩いてきた。商業的ではなく、クリエイションと世界観にフォーカスしたトム・ブラウンが描くファンタジーは、孤独ではない、心温まるエンディングだ。ショーの最後に現れたトム・ブラウンは手にハートのバレンタインギフトを持ち、小走りでパートナーのアンドリュー・ボルトン( Andrew Bolton)の元へ駆け寄っていった。通常よりも長いファッションショーは、壮大な物語で真摯な視点で物事を見ることの必要性を教えてくれた。