「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は2月14日、新たなメンズ・クリエイティブ・ディレクターに、ミュージシャンで起業家のファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)を任命した。2021年11月にがんで急逝したヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)の後任として、6月のパリ・メンズ・ファッション・ウイークで初のコレクションを披露する予定だ。ここでは、世界最大のラグジュアリーブランドのメンズ部門を率いることとなったファレルのこれまでの功績をまとめ、「ルイ・ヴィトン」がこの大胆にも思える人事に至った背景などを考察した。(この記事は「WWDJAPAN」2023年2月20日号からの抜粋です)
ファレルは、音楽やアート、ファッションなど多彩なフィールドで活躍するとともに、クリエイティブな世界のさまざまな境界を打ち破り、グローバルなカルチャーアイコンとなった人物だ。そのマルチな経歴は、「ルイ・ヴィトン」と自身のブランド「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH以下、オフ-ホワイト)」での仕事と並行して、DJとして活動したり、アートや家具などのプロジェクトを手掛けたりしてきたヴァージルと重なる。そうした視点で見ると、今回の人事はそこまで突拍子もないものではないのかもしれないが、やはり驚きを持って受け止めた人が多いのではないだろうか。
業界筋によれば、ファレルの起用に当たっては、LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)を親会社とする「ルイ・ヴィトン」で、経営トップの入れ替えがあったことも寄与しているのではないかという。LVMHは1月11日に、約10年にわたって「ルイ・ヴィトン」を率いていたマイケル・バーク(Michael Burke)会長兼最高経営責任者(CEO)の退任を発表。後任には、やはりLVMHが擁するクリスチャン ディオール クチュール(CHRISTIAN DIOR COUTURE)のピエトロ・ベッカーリ(Pietro Beccari)会長兼CEOが任命された。いずれも2月1日付で退任および就任している。
ファレルの起用は、ベッカーリ=ルイ・ヴィトン会長兼CEOにとって初めての大きな決断となったが、前任者のバーク前会長兼CEOは、ヴァージルの後任について「時間をかけて成長していく人物を起用したい」と発言していた。こうしたことから、自身のメンズブランドを持つ若手デザイナーのマーティン・ローズ(Martine Rose)、グレース・ウェールズ・ボナー(Grace Wales Bonner)、サミュエル・ロス(Samuel Ross)らの名前を候補として挙げる業界人も多かった。また、「ルイ・ヴィトン」23-24年秋冬メンズ・コレクションでは、米ストリートウエア「キッドスーパー(KIDSUPER)」のコルム・ディレイン(Colm Dillane)とタッグを組み、ショーは「オフ-ホワイト」のイブラヒム・カマラ(Ibrahim Kamara)=アート&イメージディレクターと、映画監督のミシェル・ゴンドリー(Michel Gondry)によるクリエイティブチームが手掛けている。このため、ディレインも後任候補として有力視されていたが、前述のように経営トップが交代したため、風向きが変わったのではないかと見る関係者もいるようだ。
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