2023-24年秋冬ミラノコレクション初日の後半は、注目ブランドが目白押しでアドレナリン放出が止まらず。あらゆる角度から情報収集をするため、ショー前はセレブリティの撮影に全力、ショーが始まったらメモ取りに集中、フィナーレではSNS用に動画撮影に徹しています。切り替えの速さは、われながら職人の域です。ちなみにミラノはスリが急増中。もしiPhoneを紛失したら取材が終わってしまう!から、常時首から下げています。日本にいるSNSチームと連携してインスタグラムやツイッター、TikTokをタイムリーに更新していますので、そちらと合わせてご覧ください!
2月22日(水)
14:00 「フェンディ」
さあ、待望の「フェンディ(FENDI)」です。キム・ジョーンズ(Kim Jones)のアートディレクター的きゅう覚、時代を捉える観察眼に注目しています。今回のショーではきれいなブルーとラップディテールを取り入れたトラウザーが印象的ですが、それはフェンディ家の4代目、1987年生まれのデルフィナ・デレトレス・フェンディ(Delfina Delettrez)が「フェンディ」に入社した日に着ていた服からヒントを得たそうです。しかもそれは「フェンディ」の服ではなく、ローマで修道女のための服を販売している店で買ったとか。彼女はその自由な発想で、母であるシルヴィア・フェンディ(Silvia Fendi)から借りた服とミックスして楽しんだのですね。
キムによる「フェンディ」のベースには“働く女性”へのリスペクトがあると思います。推測ですが、キムはアーカイブ研究と同じくらい、「フェンディ」で働いてきた人、働いている人たちをしっかり観察しているのではないでしょうか。ファッションデザイナーとしてユニークなアプローチですが、結果的にリアリティのある服が誕生しており、今後世界中の働く女性から支持を得ていくことになると思います。もう一点、カール・ラガーフェルド時代のムードもあるな、と思ったら1981年と1996年のコレクションも着想源になっているそうです。
16:30 「マルニ」展示会
2月に東京でショーを行った「マルニ(MARNI)」の展示会へ。カラフルでそれ一着を着るだけで何者かになれる服がズラリと並んでおります。全ルックを近くで見て気が付いたのは「MARNI」というロゴ使いのバリエーションの多さ。多くのブランドは、ロゴのフォントなどを徹底的に統一することでイメージ統一を図りますが、「そんなの関係ない~」とばかりに超小さかったり、くにゃくにゃ曲がっていたりと自由奔放です。実にフランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)らしい。小さくて大きい発見ができたから展示会に駆け込んでよかった!
18:00 「ヌメロ ヴェントゥーノ」
ショーの始まりを待つ間、隣に座ったAMIAYAと「ヌメロ ヴェントゥーノ(N21)」について、さらには「ハイヒールが女性にもたらすものは何か?」についてディスカッション。そして彼女たちから聞いたキーワード「危うい色気、絶妙な色合わせ」を体現する今シーズンのショーとなりました。透ける素材使いなど肌の露出は多いものの、だからといって異性に媚を売っているのとは違う。思わず触れたくなる柔らかいニットが多数登場するのですが、背中を見たら大きなサソリ(に見えた)のブローチが飾ってあり「安易に触れるな、危険」のメッセージを無言で発しています。平田かのんさんが着て歩いた緑と茶とベビーピンクなど絶妙な色合わせもどこか挑発的。いずれも自分自身をしっかり持っている女性ゆえの色気、です。目指したいですね。
19:00 「ディエチ コルソ コモ」×「ジョルジオ アルマーニ」
セレクトショップ「ディエチコルソコソモ(10 Corso Como)」と「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」の2度目のコラボレーションはちょっと想定外でした。いかにもアルマーニ、な端正なジャケットやコートがデニム仕様でフレッシュ。白シャツに合わせるネクタイは390ユーロで約5万6000円。3月に限られた店舗で発売するそうで、旅先で選ぶプレゼントにもよさそう。
20:00 「エトロ」
ミラノは歴史が長いブランドが多く、1968年創業の「エトロ(ETRO)」もその一つ。昨年CEOとデザイナーが交代し、新体制となっています。新デザイナーのマルコ・デ・ヴィンチェンツォ(Marco De Vincenzo)にとっては、十分に準備の時間があったこの2シーズン目こそ勝負。何を見せてくれるのか、会場にはその真価を問おうとする緊張感と期待が混じった空気がありました。
結果は、ブラボー!でした。会場は17世紀に建てられた屋敷パラッツォの回廊で、ひんやりとした夜の空気が気持ち良い。客席には一人ひとつ、柔らかくて大きなブランケットが用意され、テキスタイルメーカーとして創業し、今もイタリア製の生地にこわだる「エトロ」の強みをさっそく体感です。
先週、東京でマルコにインタビューした際、彼は「僕の頭の中にはイタリアの生地メーカー、それぞれの強みが全部入っていて、花柄だったらあのメーカー、シルクならあちら、のようにアイデアがすぐに出てくる」と話していました。次々に登場する、花柄やタータンチェックなどの服を見てその言葉に納得。「エトロ」といえば、のペイズリー柄もフレッシュな表現となって登場です。各ルックの奥にそれぞれの産地の職人のプライドを見た気がしました。マルコが背負っているのは「エトロ」ファミリーだけじゃない、イタリアのファッション産業そのものなんですよね。
流れるようなシルエットやデフォルメしたジャケットなど、今季は形への挑戦も目を引きます。イタリアファッションのもう一つの強み、仕立ての技術が今季は生かされる、ともマルコが話していたことを思い出しました。
21:00 「オニツカタイガー」
日本のブランド「オニツカタイガー(ONITSUKA TIGER)」ですが、会場の雰囲気は完全にインターナショナル。特に韓国やシンガポール、インドネシア、マレーシアなどなど、アジアからのインフルエンサーが大集合で、アジア各国に直営店を多数出店している「オニツカタイガー」のビジネスの背景が反映されていました。こんな風にグローバル展開している日本のブランドは稀有です。
イタリア人デザイナー、アンドレア・ポンポリオ(Andrea Pompilio)は、彼なりの日本解釈を必ずコレクションに注いでおり、今回はそれがレイヤードの作り方に反映されていました。重ね着は今季のミラノの一大トレンドですが、その手法はさまざまで「どう重ねるか」にブランドの個性が反映されていて面白い。アンドレアは着物からヒントを得たそうで、ゆったりとしたフォームの中で、軽やかな素材のアイテムをレイヤードしています。前から見るとテーラード、後ろから見ると透ける生地のキルティングなど、前後で異なるデザインも特徴的です。
オーバーサイズのダウンは日本の「ザンター(ZANTER)」とのコラボ。「ザンター」は1956年の第一次南極観測隊から長年、日本の遠征チームにダウンウエアを提供してきた日本初のダウンウエアブランドで、その第1次チームに防寒靴を提供していたのが「オニツカタイガー」。つまりは、志を共にするパートナーなのです。私ごとですが、自分の父は60年代の南極観測隊のチームメンバーだったので、その話を聞き、なぜ今も父がダウンをこよなく愛するのかピンときて、密かに涙腺がゆるみました。本気で作られた物は手にした人の物語と重なり、袖を通す機会が減ったとしてもその魅力が色あせることはないですよね。