ワコールホールディングス(HD)および中核会社ワコールの社長交代が発表された。24日に京都本社で行われた会見で、ワコールHDの次期社長に就く矢島昌明氏は「グループ創立以来の危機」と表現し、聖域なき改革を宣言した。1949年の創業以来、女性下着の最大手として市場をリードしてきた同社だが、市場の変化に遅れをとり、2023年3月期の連結業績は初の最終赤字になる見通し。両トップは山積する課題を立ち向かうことになる。
ワコールHD次期社長の矢島氏(6月28日就任予定)、中核会社で日本事業を担うワコール次期社長の川西啓介氏(4月1日就任予定)は、海外での実務経験が豊富な国際派だ。矢島氏は香港と中国法人のトップ、川西氏は米国法人のトップを歴任してきた。成長戦略だけでなく、赤字事業の立て直しや事業撤退の実績もあり、胆力のあるリーダーとして白羽の矢がたった。
ワコールHDおよびワコールは内憂外患の状態にある。国内事業のワコールは長引く販売不振を受けて、昨年11月に250人程度の早期退職の募集を発表し、今年1月に155人が応募した。低迷の責任をとって伊東知康社長は辞任に追い込まれた。海外では米国法人が19年に買収したインティメーツ・オンライン社の業績不振によって、約101億円の減損損失を計上するため、23年3月期は70年以上の歴史で初の最終赤字に沈む。ゼロコロナ政策が続いた中国市場の回復も遅れている。
よって両トップの最初の仕事は、不採算事業の事業の整理・縮小に軸足が置かれる。矢島氏は「黒字化が見通せず、利益貢献が期待できない事業は徹底する。聖域はない」と言い切る。リストラの具体的な対象は明らかにしていないものの、複数の店舗や事業が対象になる。
ワコールは百貨店などで手厚い接客を行う販売員「ビューティアドバイザー(BA)」を強みに顧客を獲得してきた。しかし付加価値の高い商品が売れなければ、人件費が重くのしかかることになる。体形や購買履歴などのデータを最大限に活用するデジタルトランスフォーメーション(DX)とともに、顧客体験を高めるサービスの向上が喫緊の課題になる。欧米に比較して低いEC(ネット通販)比率も上げる必要がある。川西氏も「デジタルはまだ5合目に過ぎない」と話す。
企業風土の刷新についても矢島、川西両氏は問題意識を共有する。矢島氏は業績低迷が長期化したため「リスクを取ることを従業員が恐れるようになり、活発な議論が不足している」、川西氏は「従業員と大いに議論し、ワコールらしさを失うことなく、邁進していきたい」と述べた。
ブラジャーやショーツなど女性下着の代名詞的存在だったワコールだが、英調査会社のユーロモニターの調査によると、2020年の国内市場シェアは「ユニクロ」のファーストリテイリングが22%で1位、ワコールHDは20%で2位と逆転を許した。後発の「ユニクロ」が低価格で着心地が楽なカジュアル下着によって、若い世代のシェアを拡大する中、専業メーカーのワコールHDはこの数年は防戦を余儀なくされてきた。
ワコールHDの社長を退くことになった安原弘展氏(71)は、来月発表される執行役員人事を含めて「経営体制は2世代若返る。大きく変わる」と説明した。ワコールHDの矢島次期社長が62歳、ワコールの川西次期社長が51歳。新体制には収益性を改善する構造改革とともに、革新的なアイデアでヒット商品を生み出す企業風土を取り戻すことが求めれる。