2023-24年秋冬ミラノコレクションの2日目は天気にも恵まれて順調な進行です。ショーから発信されるメッセージには「さあ、日常を取り戻して楽しもう!」と盛り上がる陽気さ8割、戦争への不安感2割が入り混じっています。トレンドに浮上しているのが “アウターの重ね着”という謎のスタイリング。「なぜ?」の答えを終了までに見つけたい!ちなみに、ミラノの街ではマスクをしている人は一日に3人くらいしか見かけません。
2月23日(木)
9:00「サントーニ」
メンズシューズの印象が強い「サントーニ(SANTONI)」がウィメンズの、しかもヒールシューズを本格強化。シグネチャーのダブル・バックルをアレンジしてデザインを広げています。ピカピカのレザーはパテントかと思いきや、独自のなめしの技術で艶を出しているそう。パテントではない分、柔らかくて履きやすいとか。厚底ローファーは今季の一大トレンドです。
9:30「マックスマーラ」
18世紀にフランスで活躍した科学者であり思想家の女性、エミリー・デュ・シャトレ(Emilie du Chatelet)侯爵夫人がインスピレーション。女性は「家の中」が当たり前だった時代に哲学者ヴォルテール(Voltaire)の恋人でもあった彼女は男たちとも議論を交わし、ウィットの富んだ発言で世論をリードしたとか。現代のSNS上で影響力を持つインフルエンサーのような存在ですね。彼女は周囲の男たち、公証人や士官、侯爵たちの服にインスピレーションを受けたファッションを好んだそうです。
オーバーサイズのメンズ服を自分サイズにアジャストしたようなパンツスタイルはまさに、そのイメージです。シャトレ侯爵夫人の存在は多くの人が知らないでしょうが、こういったショーをきっかけに知って調べて知る。それってとても楽しいこと。女性をエンパワメントし続けるブランドならではのアプローチです。それにしても、なんて触り心地が良さそうなコートやセーター!時差ぼけの頭には「あれに包まってうたたねしたい」という願望が湧いてきます。
10:30「ヴァレクストラ」
パンデミックによる自粛生活が長くなりすぎて「そう言えばお出かけバッグ持っていなかった」と気が付いたあなたへ、「ヴァレクストラ(VALEXTRA)」から女性の24時間をイメージした8つのシリーズが登場です。仕事にはかっちりバッグ、週末にはモコモコバッグなどカラフルにそろいます。
12:00「サ ス フィ」
元「ヴァレクストラ」 CEOのサラ・フェレロ(Sara Ferrero)がアパレルブランド「サ ス フィ(SA SU PHI)」を立ち上げたと聞き、閑静な住宅の一室での展示会へ。サラは世界で活躍してきたいわゆるスーパーなキャリな持ち主です。なぜ自身のブランドを?と聞くと「世界の人口の52%もいる女性は、ビジネスの世界ではある意味、最大のマイノリティ。女性による女性のためのスーパーパーソナルな表現をしたかった」とメード・イン・イタリーの桜色の服を手に熱く語ります。いろんな経験がここに凝縮されているのね。上質素材・仕立てのシンプルなデザインがそろいます。
12:30「「アンテプリマ」
今季のキーカラーのひとつは水色に決定かも、と思ったショーが「アンテプリマ(ANTEPRIMA)」です。軽やかなハイゲージニットや透ける素材のレイヤードがきれいで、中でもパフスリーブの水色ニットが印象的です。
14:00「プラダ」
ショーが始まると頭上から大量の百合の花がゆっくりと下がってきて、ショーが終わるころには百合の良い香りが会場を包んでいました。登場したのはミリタリーや看護師の制服をベースにした服。ロシアのウクライナ侵攻が続く中、ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)とラフ・シモンズ(Raf Simons)からの「武器より花を」のメッセージが静かに、クリアに伝わってきます。
肩章など軍服のディテールをたくさん使いながら、それらをラフ・シモンズらしい削ぎ落したシルエットに落とし込むことで、反戦のメッセージを静かに届けています。ナースの帽子を想起させる白い花がスカートや首元を飾り、軍服ゆえネクタイはシャツのボタンの間にしまうなどリアリティを細部で表現。ダッフルコートなどは背中にダウンを入れることで丸みを出しており、何かから「防護」するかのよう。手仕事が欠かせない、オートクチュールのような仕事です。静謐なだけに腹の底で唸る怒りと諦めない何かが伝わってくる、素晴らしいコレクションでした。
15:00「エムエム6 メゾン マルジェラ」
急浮上しているトレンド、“レイヤード”を決定付けたのがこちら「エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 MAISON MARGIELA)」。リリースからそのまま引用すると「ネイビーの薄い裏地がついたシャツには、分厚いレザーの袖が付いています。テーラードウールのブレザーは、前身頃に箔押し加工が施され、ラペルの上に折り重なるリブのタンクトップのディテールを除くと、従来のテーラードジャケットのラインに沿ったシルエットになっています。キャメルのウールオーバーコートの襟から見えるフードは、実は、取り外し可能なスカーフで、 ストレートレッグのブルージーンズからのぞくボクサーショーツのウエストバンドは、ジーンズに内蔵されており、ドローストリングで締めることができます」。
はい、ありがとうございます。見ただけでは分かりません!もはやパズルです。あれやこれや、着ることを存分に楽しむことができそうですが、オンラインではどうやって説明するのかな?バックステージでの着用風景を動画で紹介するのが一番分かりやすそうです。
16:00「エンポリオ アルマーニ」
着る人のために服をデザインする、は「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」の一貫した姿勢です。ショーで見せる服と言っても、話題喚起や演出ではなく、主役はあくまで着る人。プレタポルテメーカーとしてのポリシーが明確なのです。それを象徴していたのは、会場に飾られていた大きな笑顔の女性の写真です。ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)さんは女性にこうあってほしいのでしょう。メンズウエアをアレンジしたミニドレスや絵画をそのまままとったようなカクテル、ジョッパーズスタイルはまさに日常のための服です。
17:30「フルラ」
今回のミラノコレ担当は二人ともサステナビリティ担当でもあります。「フルラ(FURLA)」が生分解性のレザーを使った限定バッグを発表と聞いて駆けつけました。「レザーってそもそも生分解するでしょ」と突っ込んでくれた読者のみなさま、おっしゃる通り。化学薬品を使って染色をすると、革自体が土に還ったとしても染料は残りますからね。われわれもその言葉の意味が知りたく、生産に関わったタンナーの方に根ほり葉ほり聞きました。一言で言えば、古来の製法にヒントを得て、化学薬品に頼らないなめし・染色を採用しているということ。そのための研究を重ねたそうです。サステナビリティと技術革新はやはり切っても切れない関係です。詳細は後日リポートしますね。
18:30「ミラ・ショーン」
「ミラ・ショーン(MILA SCHON)」がフランス人デザイナー、マルク・オーディベ(Marc Audibet)を迎えてコレクションラインを再出発。カトリック教会の荘厳な雰囲気の中、仕立てのいい服が並びました。1955年生まれのマルクは、「エルメス」など数々のブランドで経験を積んだ知る人ぞ知るデザイナーで、どこか高田賢三さんを想起させます。会場では物腰柔らかに来場者に挨拶をして回っていました。
19:00「モスキーノ」
「モスキーノ(MOSCHINO)」で壁をぶち抜いたような入り口から出てきたのは、インパクト大なモヒカンヘアのモデルたち。パンキッシュなムードと大ぶりなビジューをちりばめた豪華なドレスの組み合わせは、亡きヴィヴィアン•ウエストウッド(Vivienne Westwood)のあだ名だった「パンクの女王」という言葉が浮かびます。ヴィヴィアンへのオマージュかと思いましたが、そうではなく、サルバドール・ダリ(Salvador Dali)の作品が着想源。歪んだハウンドトゥース柄のセットアップや大きなスパイクが突き出たドレスなど、シュールレアリスムとパンクを融合させました。
20:00「GCDS」
セクシーな肌見せスタイルは「ディーゼル」でお腹いっぱいと思っていましたが、「GCDS」の来場者も負けずおとらず、きらびやかなパーティースタイルのヤングたちが集結していました。会場には、「不思議の国のアリス」に出てくるチシャ猫のような、ちょっと不気味な雰囲気の巨大猫が出現。デザイナーのジュリアーノ・カルツ(Giuliano Calza)が実際に飼っている猫がモチーフだそうで、今季は家の中にいる自然体な自分と向き合って生まれたコレクションとのこと。キャッチーな猫の顔型のバッグも登場しました。