ファッション

「ルブタン」の“赤”、知財高裁も請求棄却 レッドソールの保護は“公益性の例外”として認められず

 「クリスチャン ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN以下、ルブタン)」は、靴底に用いる“赤色”を日本でも「色彩のみからなる商標」として商標登録することを目指して審決取消訴訟を提起していたが、知財高裁も「ルブタン」の請求を棄却した。取材に対して「ルブタン」の代理人は「非常に残念だ。正当な結果を得るために、今後も取り得るアクションは全て取っていく。また、今回、色彩商標の登録が認められなかったからといって、模倣が許されるわけではなく、不正競争防止法を用いるなどして今後も模倣品の規制に取り組む」とコメントした。

 「ルブタン」は2015年、 “レッドソール”に使用しているアイコニックな赤い色(パントン社の18-1663TP)を「色彩のみからなる商標」として登録出願するも、19年に登録を拒絶された。同年に拒絶査定に対して不服審判を請求したが、特許庁は「色彩としてはありふれたもの」「広く認識されるに至っているとまでは認められない」として、22年に「ルブタン」の請求を退けた。これに対して「ルブタン」は、知財高裁に審決取消訴訟を申し立てるも、「公益性の例外として認められる程度の高度の自他商品識別力を獲得していると認めることができない」として、請求が棄却された。

 この知財高裁の判断に対して「ルブタン」の代理人は、「今回の判決で単色の色彩商標の登録に対するハードルが不合理なレベルまで上がってしまった」と話す。「ハイヒールの靴底の色を選択する自由が“公益”だというが、この点が過度に強調されている。知財高裁は“レッドソール=ルブタン”と認識されていることを認めており、保護することによって消費者の間で混同が起きないよう防止することも公益だ。この点について十分に考慮されておらず、不合理な判断だ」と述べた。

 「ルブタン」は、受賞歴や雑誌などの掲載実績、著名人の着用実績、広告宣伝促進活動、アンケート結果などを踏まえると、「ルブタン」のレッドソールはありふれたデザイン手法ではなく識別力を有し、「広く認識されるに至っている」と主張した。これに対して特許庁は“赤”という色について、「ファッション分野において(中略)極めて一般的に採択、使用されており、色彩としてはありふれたものである」と反論。また、「ルブタン」以外にも多数の事業者がレッドソールを製造・販売している実績があることを指摘し、「商品の美感を向上させる目的で取引上普通に採択、使用されているデザイン手法」であり、「独創性を欠くもの」と主張した。

 「ルブタン」は1月に、赤い靴底の婦人靴を販売するシューズブランド「エイゾー(EIZO)」などを運営するエイゾーコレクションとの裁判で敗訴している。

 今回一つの争点となったのが「ルブタン」が識別力の証明として提出した第三者機関によるアンケート結果だ。調査は「ルブタン」の店舗がある東京都、大阪府および愛知県に住む20~50歳の女性3149人に対して行われ、レッドソールを見た約50%が「ルブタン」と回答した。この数値について知財高裁は、「特定エリアでファッションアイテム等を購入する女性を調査対象としたにもかかわらず、本願商標の認知度は半数程度にとどまっており、全国の需要者層にまで調査対象を広げると、本願商標の認知度はこれよりも下回ることは容易に推認される」として、「認知度は限定的なものである」と判断した。

 これに対して「ルブタン」の代理人は、“50%”という数値だけでなく、アイテムの特性も考慮すべきだという。「たとえば『ヤクルト』の立体商標は約98%という高い認知率を獲得しているが、それは日用品であるという側面もある。『女性用のハイヒール靴』のような嗜好性の高いアイテムについての50%を日用品が獲得する高い認知率と同列に判断することは適切ではない。また、商標法ではなく不正競争防止法に関する事件ではあるが、過去には『リーバイス』のバックポケットに施される弓形のステッチを見て出所を答える調査で一般消費者を対象とした調査結果が20%弱という結果でも周知性が認められているケースもある。以上を踏まえると、約半数が『ルブタン』と回答したのであれば、それは高い周知性を有していると言えると考える」と話す。

 知財高裁は、ラグジュアリーブランドに関心のある一定層に対しては認識されていると認めるも、「構成態様は特異なものとはいえない」こと、「クリスチャン ルブタン」というロゴによって認識されていること、複数の事業者が赤い靴底のハイヒールを製造販売していること、アンケート結果の数値などを総合的に考慮して、「公益性の例外として認められる程度の高度の自他商品識別力を獲得していると認めることができない」と判断した。

 日本の「色彩のみからなる商標」は、15年の商標法改正で新たに認められた種類の商標で、これまでにセブンイレブンやチキンラーメンのパッケージに用いられる配色など、9件しか登録を認めていない。また、登録が認められたのはいずれも複数の色で構成されており、「ルブタン」のレッドソールのような単色での登録を認めたケースはいまだ前例がない。なお、ファッションブランドでは、「エルメス(HERMES)」が包装箱に使用するオレンジ色と茶色の組み合わせで色彩商標を登録出願しているが、登録を拒絶され、現在不服審判中だ。

 「ルブタン」によると、レッドソールは、オーストラリアやカナダ、フランス、EU、ロシア、シンガポール、英国、米国などを含む50カ国で商標登録されているという。

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