「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」のロンドンでのショーは比較的小規模な会場で行われることが多いが、2023-24年秋冬の舞台はカムデン地区にあるコンサートホールのラウンドハウス(THE ROUND HOUSE)。円形の会場の中央には、スコットランド出身のダンサーで振付師のマイケル・クラーク(Michael Clark)が率いるダンスカンパニーによる公演のポスターが巨大な箱型のオブジェとなって飾られている。クラーク自身も会場で見守る中、ショーは彼の故郷を想起させるバグパイプの演奏からスタートした。
実は、クラークはジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)が学生だった頃からのヒーロー的存在の一人。アンダーソンは「彼は革命的で、ジェンダーや身体の考え方について影響を受けた」と話し、長年コラボレーションすることを夢見ていたという。今季は、そんなクラークの作品を象徴するビジュアルや衣装のアーカイブを、15周年を迎えた自身のブランドのアーカイブと掛け合わせた。
「マイケルのアーカイブを見ているうちに、自分のアーカイブを振り返らずに他人のアーカイブを見ることはできないと思った。そのおかげで、自分自身の強いこだわりを突き止めることができた。そして、過去15年間にデザインした全てのコレクションから要素をピックアップし、2つの異なるアーカイブを融合することに決めた」とアンダーソン。彼は1月の2023-24年秋冬メンズでちょうど10年前に提案したフリル付きのキュロットを改めて打ち出していたが、今回のウィメンズでも、これまでに手掛けてきた象徴的なデザインを随所に散りばめた。
例えば、胸元に配したポケットに手を突っ込むベアトップや、片腕を拘束するバンドがついたトップスとミニスカートのルックは、2013-14年秋冬に見られたアイデア。ラペルを極端に拡大したコートは2020-21年秋冬、首元や袖口にチューブを配したニットは17年春夏、タイヤ跡のように凹凸のあるジグザグを施したトップスは14年春夏をほうふつとさせる。それだけでなく、2014年春夏を想起させるノースリーブトップスと21-22年秋冬のメンズ&プレに出てきたサイドが角張って飛び出したグラフィカルなパンツという異なるシーズンを合わせたり、14-15年秋冬のフレアスカートはドレスに変えたりと、取り入れ方はさまざま。どれも素材や色を変えたり、シルエットをアレンジしたりすることで、より洗練されたものへとブラッシュアップされている。
一方、会場装飾にも使われたマイケル・クラーク・カンパニーのポスターデザインは、クラフトペーパーのような風合いのレザーにのせてTシャツやクラッチバッグに。スマイルマークのTシャツを逆さまにしたようなサロペットや、英大衆向けスーパーマーケット「テスコ(TESCO)」のビニール袋のデザインを落とし込んだドレスなどは、クラークの衣装から引用したものだ。
今季は正直、アンダーソンのクリエイションに期待してしまいがちな、あっと驚くような目新しさはなかった。しかし、ロゴを大々的に打ち出さなくとも「ジェイ ダブリュー アンダーソン」を特徴付けるデザインが豊富にあり、それが色褪せない魅力を持っていることを証明した。また、バリエーション豊富に提案したバッグやシューズを含め、彼の商業的な視点も光っている。
「あまり頻繁に過去を振り返ることはないが、時には前に進むために必要だと感じることもある。過去は、未来に焦点を合わせるためのレンズとなり得る」。そう語り、15年という節目に自身の過去を振り返りながら、新たなコレクションを生み出したアンダーソンは、次にどこへ向かうのか?やはり、これからも彼からは目が離せない。