時計では「アイス ウォッチ(ICE-WATCH)」や「オリビアバートン(OLIVIA BURTON)」の日本国内における代理店を務めるビヨンクールが今春、「カルバン・クライン ウォッチ(CALVIN KLEIN WATCH)」の国内販売を開始した。だが時計に詳しい方なら「あれ?」と思う人も多いはず。なぜなら「カルバン・クライン」の時計にはそれなりの歴史があったのに2020年、日本から突如姿を消したからだ。この間、一体何が起きていたのか?
ラフ・シモンズ体制失敗後の
変革期に時計事業も見直し
「カルバン・クライン」の腕時計は1997年から、「オメガ(OMEGA)」を中心に「スウォッチ(SWATCH)」や「ティソ(TISSOT)「ハミルトン(HAMILTON)」「ブレゲ(BREGUET)」「ブランパン(BLANCPAIN)」など、多数の時計ブランドを手掛ける世界最大の時計コングロマリットであるスウォッチ グループが、「カルバン・クライン」ブランドを保有するPVH社とライセンス契約を締結して盛り上げてきた。以来スウォッチ グループは「カルバン・クライン」と、よりカジュアルな「シーケー・カルバン・クライン(ck CALVIN KLEIN)」という2つのライセンスブランドを製造・販売。04年にはカジュアルなジュエリー・コレクションもスタートした。
だが19年10月、両社は22年に及ぶライセンス契約の終了を発表。これに伴い「カルバン・クライン」ブランドの時計は、いきなり店頭から姿を消したのだ。世界60カ国で販売されていたブランドの「突然の終了」は異例のこと。1990年代から時計を取材してきた筆者も当惑し、「一体どういうことなのか?」と思った記憶がある。当時、日本では「なぜ終了するのか」については、ほとんど情報がなかった。改めて海外報道をチェックしても、このライセンス契約の終了は両社の合意に基づくもので、特にトラブルがあったわけではない。ただスウォッチ ・グループ側が、PVH社側の事業体制の激変をきっかけに契約を再考したということのようだ。
当時の「カルバン・クライン」は、結局失敗に終わったラフ・シモンズ(Raf Simons)体制のクリエイションを改め、コレクションラインの継続を断念。ウエアからアンダーウエアまで、包括的なリブランディングの真っ最中だった。見直しは、時計にも及んだのだろう。特に終盤はラフ・シモンズ色が強かった「カルバン・クライン ウォッチ」について、PVH社はスウォッチに代わるパートナーを探していたという。
スウォッチ グループから
モバード・グループへ
今回の「時計ブランドとしての復活」は、2020年8月に決まった。ブランドのオーナーであるPVH社は、スイスの独立系時計ブランドグループ企業であるモバード・グループ(MOVADO GROUP)をパートナーに選び、「カルバン・クライン」ブランドの腕時計事業に関する5年間のライセンス契約を締結した。
そしてモバード・グループはこの契約に基づいて22年3月、「カルバン・クライン」ブランドの腕時計とジュエリーの開発・製造・販売をスタートしている。モバード・グループは、PVH社が擁するもう1つのビッグブランド「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」でもライセンス契約を結び、時計ビジネスを展開している。今回のライセンス契約は、この実績を踏まえてのことなのだ。
モバード・グループは1881 年に創業。デザインウオッチの定番ブランド「モバード」ばかりでなく、「コンコルド(CONCORD)」「エベル(EBEL)」などの本格時計ブランド、オリジナルブランド、「コーチ(COACH)」「ボス(BOSS)」「ラコステ(LACOSTE)」の時計をライセンス契約に基づいて開発・製造・販売するスイス時計業界の中堅グループだ。アメリカ市場をメーンに世界12カ国で事業を展開し、約1300人を雇用。2022年度の通期売上高は7億3240万ドル(約996億円)だった。
時計の開発・製造では長い歴史と実績を誇るモバード・グループの製品なので、再上陸した新しい「カルバン・クライン」ブランドの腕時計も、その機能や品質は保証付き。デザインもかつての「カルバン・クライン」のクールでスタイリッシュなテイストを継承したものに仕上がっている。
今回発売されるメンズ8モデル、レディース10モデルはどれも、ルックスも機能もシンプル。「マルチファンクション」と名付けた多機能メンズモデルでも機能的にはクロノグラフに留まっている。価格は2万〜3万円前後で、機能的にはクロノグラフが最上級というのはスウォッチ時代と変わらない。モバード・グループの実力を考えると、今後はデイト付きなどのモデルも展開されるのではないか。まずはその復活・再上陸を喜びたい。