ファッション

「フェラガモ」「ドルチェ&ガッバーナ」で“セクシー”再考、これぞモード!な「ボッテガ・ヴェネタ」【2023-24年秋冬ミラノコレ取材24時Vol.5】

 2023-24年秋冬ミラノコレクション4日目は最高気温が7度まで突然下がって冬に逆戻り。なんでこんなに詰め込むのだ、とボヤきたくなる分刻みのショー&イベントのスケジュールを見て気が付きました、今日は土曜日。週末だからパーティーがこんなに多いのですね!おいしいものとおしゃべりと、音楽とアートに彩られた豊かな人生を楽しむイタリア流には逆らわず、プロセッコを片手に頑張ります。イタリアにいると常に考えされるのが“フェミニニティ”や“セクシー”といった言葉。その定義が転換期にあることを痛感した一日となりました。

9:30 「フェラーリ」

 高級車「フェラーリ(FERRARI)」が、“ブランド多様化プロジェクト”の一環としてファッションショーを本格的に開くようになって3年目。会場周辺に顧客のファラーリ集結!を期待するも、そうではなく粛々とショーが開かれました(そうならいいのに!)。クリエイティブ・ディレクターのロッコ・イアンノーネ(Rocco Iannone)がフォーカスしたのは“動きの中の美”とのことで、シャープなカッティングやスピードを感じさせる赤の色使いなどが取り入れられています。

 リサイクルタイヤから作られた厚手のサテン使いなどサステナビリティにも配慮。コンセプトは明快ですが、硬質な工業デザインである車と、軟質なファッションデザインの美の融合はなかなか難しそう、というのが正直な感想です。

10:30「エルマンノ・シェルビーノ」

 今季は多くのブランドがランジェリースタイルなどを通してセンシュアリティー、女性の官能的な一面を表現していますが、これは「エルマンノ シェルヴィーノ(ERMANNO SCERVINO)」の得意分野と言えるでしょう。創設以来コンセプトに据えている“スポーツクチュール”は、まさにトレンドと合致し新鮮に映ります。煌びやかなドレスで目に付いたのは、動きを制限することのないよう計算された裾の部分。モデルのウォーキングに合わせて足元まで美しく輝きを放ちます。華やかなドレスを日常的に着る女性を思って作られた気配りが伝わってきます。

11:30「フェラガモ」

 ミラノコレ取材歴15年以上のベテラン記者は「フェラガモ(FERRAGAMO)」のショーを見終わって正直戸惑いました。「これがフェラガモなの?」。27歳の英国人デザイナー、マクシミリアン・デイヴィス(Maximilian Davis)による2シーズン目の今季は、ひと言で言えばシャープで若々しい。上質感は伝わりますが、その上質はリボン“ヴァラ(VARA)”に象徴するクラシックからで、安心感のあるこれまでの「フェラガモ」とは異なります。今季は創業者サルヴァトーレ・ フェラガモが1950年代を通じて仕事をした、ハリウッドスターたちのワードローブから着想を得たとのことですが、銀幕スターのグラマラスがかなり現代的に解釈されています。

 フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)を「セリーヌ(CELINE)」に抜てきするなど、クリエイターの目利きであるマルコ・ゴベッティ(Marco Gobbetti)CEOが選んだ逸材とのことで期待をしていたけれど、簡単には消化できません。と、前置きしつつ恐縮ですが、この話はとても長くなるので、後日別記事でしっかり掘り下げたいと思います。結論を少しだけお伝えすると、ショーを見て感じた違和感は展示会で商品を見てすっかり解消し、好印象となりました。ポイントは“Z世代にとってのフェミニニティ”です。ここには未来がありそうです。

12:30「ジミー チュウ」

 「フェラガモ」のショーの後は、「ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」の展示会に駆け込みました。“ボン ボン バケット”のシリーズは、スタッズ付きのベルトが巻かれていたり、エンジニアブーツのトーの部分にもスタッズが散りばめられていたりして、こちらもパンクなムードでした。

13:00「ドルチェ&ガッバーナ」

 会場にはキム・カーダシアン(Kim Kardashian)が姿を見せてカオスに。われわれも追いかけましたが、ガードが固くて半径2メートル以内に近づくことができませんでした。そしてショーに登場したのは、まさにキムがすべてお買い上げしそうな、カーヴィなドレスやパンツスーツです。レース、サテン、シフォン、ゴールド、黒、白、コルセット、レースアップ、タキシード。以上!実に潔いです。

 肌を露出し、女性の体のラインを誇張するスタイルのオンパレードで、ジェンダーレスなぞどこ吹く風。女性であること、女性らしい体を持つ自分自身を誇らしく見せつけます。キムというミューズを得たことで、「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」は本来の強さを取り戻した、そんな風に見えます。「ドルチェ&ガッバーナ」はこれでいいし、これがいい。ランウエイの入り口で逆光の中に浮かび上がった、モデルの体と服が一体になったシルエットがとても美しかったです。

15:00「MSGM」

 「ミラノ」には、色やプリントに特徴があるブランドがたくさんありますが、「MSGM」もそのひとつ。アイコニックな柄やマークを持つことなく、色の組み合わせや扱い方だけで「MSGMっぽい」となるところがデザイナーのマッシモ・ジョルジェッティ(Massimo Giorgetti)の才能です。そしてフロントローに座るインフルエンサーたちがその色を実に自由に、楽し気に着こなしており、ショー空間はデザイナーとインフルエンサーの対話の場のようでした。

 今季のキーワード“「幻影”。ルックを順番に見ると分かるのですが、深い黒に始まり、石のようなグレー、雪のような白、エメラルドグリーン、パープル、ピンク、イエロー、そしてオレンジと。夜に始まり、朝、夕方へと時間を進めるような展開です。モコモコのフェイクファー、ゆるいカーゴパンツ、スリットドレスなどがキーアイテムに。

16:00「バリー」

 「バリー(BALLY)」は、ルイージ・ビラセノール(Rhuigi Villasenor)=クリエイティブ・ディレクターによる2シーズン目のコレクションを発表しました。会場はレオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci)の自宅のガーデンハウス。ここで「最後の晩餐」が描かれたそうです。ショーはマイク・ディーン(Mike Dean)のDJパフォーマンスをBGMに、真っ赤なレザーのロングコートとサイハイブーツでスタート。首元にスカーフを巻くスタイリングが特徴的です。胸元が大きく開いたミニドレスや総レースのキャミソールドレスなど、ビラセノールのセンシュアルにはどこか反骨精神を感じます。大きなボストンバッグもトレンドの予感。

17:00「ミッソーニ」

 フィリッポ・グラツィオーリ(Filippo Grazioli)=クリエイティブ・ディレクターが手掛ける「ミッソーニ(MISSONI)」は、これが2シーズン目。デビューコレは単色使いのボディコンシャスルックを連打してジグザグ柄やマルチカラーを愛する「ミッソーニ」ファンをがっかりさせましたが、今季はそこを軌道修正。ボヘミアン&ロックなスタイルの中に、多色使いのニットを取り入れ「ミッソーニ」らしさを取り戻しました。ボディコンシャスなシルエットは引き続き。そこにオーバーサイズのジャケットなどメンズライクなアイテムを合わせます。

20:00「ボッテガ・ヴェネタ」

 その才能の豊かさはすでに知られたところですが、実際に「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」のショーを見て、クリエイティブ・ディレクターのマチュー・ブレイジーは実にスケールの大きなデザイナーだと実感しました。

 ランウエイは、起源前のものだという貴重な芸術作品を囲むように作られました。まずは歩いてくるモデルのキャラクターがバラバラであることに圧倒されます。今シーズン、マチューの心をとらえたのはパレードという設定です。「イタリアのパレードというアイデアがとても気に入りました。行列や摩訶不思議なカーニバル。どこからともなくたくさんの人たちがやって来て、どういうわけかみなその場に収まり、同じ方向へと向かっていくのです。階級に関係なく、誰もが参加できる場所に人々が集まるのはなぜなのか、見つめたいと思いました」とマチュー。面白い視点です。パレードを歩く人は「司祭とプレイボーイ、夢遊病者と街角の娼婦、銀幕の美女とギリシャ神話の海のセイレーン」とありますから年齢も職業も、性格もバラバラ。おとぎの国の住人も含まれています。そんな多様な個性を「ボッテガ・ヴェネタ」が包み込み、圧巻のパレードを展開しました。

 服に個性を与えるのは、素材のクラフトと独特なカッティングです。イントレチャートはじめとするレザー使いはもちろんのこと、複雑なニットやエンボス加工による柄出しはまさにメード・イン・イタリアの手仕事によるもの。19世紀の芸術家、ウンベルト・ボッチョーニ(Umberto Boccioni)の影響を受けたマチューは、随所にボッチョーニのブロンズ像に見られる丸みを帯びたフォームを取り入れています。デビューコレクションで話題になった「デニムにしか見えない、デニム風レザー」は今季も継続。「織物にしか見えないトレンチコート」などレザー加工の技術も顕在です。

 ジャケットのレイヤード、ランジェリールックなどトレンドも満載。アクセサリーは“カリメロ”や“サーディン”など引き続きのバッグがサイズを変えて登場。生まれたアイデアを1シーズンで終わらせない、継続して発展させてゆくスタイルがいいですね。展示会場を出た後、「WWDJAPAN」のZ世代の記者が一言、「これがモードか!」。はい、そう思います。これが時代を動かすモード、です。

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