店舗を持たず、ネット通販と越境EC、低価格を武器に世界中で急速に売り上げを伸ばしている、と聞けば中国発の「シーイン(SHEIN)」を思い出す人も少なくないだろう。だが、いま同様のビジネスで急成長する企業が増えている。「サイダー(CIDER)」もその一つだ。
売り上げなどは未公表だが、リアル店舗を持たないアパレルのD2Cブランドとして、出資者にはウェブスリー(WEB3.0)でよく知られた名門ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(以下、a16z) を筆頭に有力VCが名を連ね、米調査会社のクランチベース(CRUNCHBASE)によると、累計の資金調達額はすでに1億4000万ドル(約187億円)を集め、設立2年目にしてすでにユニコーン(企業評価額が10億ドル以上の新興企業のこと)に達していた。日本の現地法人も昨年8月に設立し、日本での本格的なビジネスもスタートした。
ユー・オペル/サイダー共同創業者兼CMO
PROFILE:カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、ウーバーやサンフランシスコ発のアパレルD2Cブランド「ドールズキル(Dolls Kill)」のプロダクトマネージャー、セレクトショップ「トトカイヨ(Totokaelo)」の販売員を経て、20年8月にサイダーを設立。現在はシンガポールとLAの2拠点生活
「サイダー」は、顧客同様にまだかなり若いブランドだ。設立は2020年8月のコロナ禍の真っ最中で、カリフォルニア大学バークレー校を卒業後、ウーバーやサンフランシスコ発のアパレルD2Cブランド「ドールズキル(Dolls Kill)」でキャリアを積んだユー・オペル(Yu Oppel)共同創業者兼CMOが、コロンビア大学を経てブルーミングデールズなどで経験を積んだフェンコ・リン(Fenco Lin)とともに創業した。
「クローゼットのハッピーアワー」を掲げる同ブランドは、Z世代をターゲットにしていて、「ジョイ(JOY)」「ソーシャルファースト」「スマートファッション」の3つを柱にしている。価格帯は2ドル〜80ドルで、常時1万〜2万アイテム、毎週500点以上の新商品をリリースしている。「サイダー」の掲げる「スマートファッション」とは具体的に何を指しているのか?ユー・オペル=サイダー共同創業者兼CMOは「わかりやすく言えば、大量生産ではなく少量生産で、顧客の求める商品だけを作ること。データサイエンティストを社内に抱えており、顧客の声を迅速に商品開発や生産にフィードバックし、顧客一人ひとりに"パーソナライズ”しています」と答える。ただ、「パーソナライズ」とは、いわゆるサイトを顧客最適化して表示しているということではさそうだ。「いずれはそうなるかもしれないが、現時点ではそうではない。ただ、現時点でもリコメンド機能などはパーソナライズしていたり、他にもムードで選べたり、などサイトでは顧客に寄り添った商品開発とリコメンド、表示機能を搭載している。ローカライズも重視しており、国・地域によってサイトの見せ方は変えている」。
「サイダー」も130カ国に出荷しているが、「シーイン」と同じく米国発をうたっている。こちらは中華圏にルーツを持つ女性2人が起業しているものの、名実ともにLAが本拠地になる。a16zを筆頭に、DSTグローバル、IDGキャピタルら有力VCが出資し、確かに米国発のスタートアップ企業の色合いが強い。ただ、生産は中国とベトナムで、特に世界最大の繊維卸売り市場である広州が中心になっている。創業者の一人であるフェンコ・リン氏も中国とLAの2拠点生活となっている。システムを工場と直結しているあたりは、ライバルの「シーイン」と同様だ。「システムが工場側と直結していて密接なコミュニケーションができるようになっている。工場の数は公開していない」とオペルCMO。サイト内の価格表示は、基本は関税や消費税など加算していない無税表示であり、越境ECモデルだが、各地にディストリビューションセンター(DC倉庫)を有しており、一部のアイテムはローカル配送にするなど、出荷のスピードを重視している。
日本では昨年8月に現地法人である日本喜得を東京・杉並区に立ち上げた。「公式のインスタグラムアカウント(@shopcider_jp)を立ち上げ、多彩なインスタグラマーとコラボレーションしたキャンペーンもスタートしている。今後はデジタル広告もスタートする予定だし、今年中には東京や大阪でのポップアップイベントも実施したい」とオペルCMO。
「シーイン」と「サイダー」の台頭は、ITのSEO(情報最適化)技術と低価格、越境ECの組み合わせたビジネスモデルが、ファッション・ビジネスの次世代の勝ちパターンになりつつあることを示している。「サイダー」は、日本でも急成長を勝ち取ることができるか。