齋藤薫のビューティ業界へのオピニオン　ダサい日本よ、さようなら！日本もいよいよデザイン優先の国へ？

　「WWDJAPAN」には美容ジャーナリストの齋藤薫さんによる連載「ビューティ業界へオピニオン」がある。長年ビューティ業界に携わり化粧品メーカーからも絶大な信頼を得る美容ジャーナリストの齋藤さんがビューティ業界をさらに盛り立てるべく、さまざまな視点からの思いや提案が込められた内容は必見だ。（この記事はWWDジャパン2022年12月26日号からの抜粋です）

　「芸大の卒業生は半分以上が行方不明……」少し前に、そんな話題が注目を浴びた。超難関大学なのに、就職率が極めて低いことから出たうわさ。実際には、芸術家を目指す彼らにとって「就職は敗北」に他ならず、才能の生かし方を模索している卒業生が多いからだといわれるが、もったいない話である。日本は、デザインがあまりお金にならない国、といわれる。それも、あらゆる業種においてデザインの優先順位が低く、なぜか歴史的に重要視されてこなかったからとされるのだ。実際にデザイナーを取り巻く境遇も、欧米に比べて過酷。労働時間の長さに収入が伴わない。今や、デザイナーに限らない話だが、日本の産業が感性にまつわる仕事を重視してこなかったことは確かなのである。芸大の例に限らず、才能はあふれているというのに。

　化粧品のパッケージは象徴的で、海外コスメはオシャレで、国産コスメはダサい……何となくそう決めつけながらも、中身が良ければいいのと思っていた時代がある。でも21世紀に入り、流れが変わった。日本のコスメがにわかに洗練を宿す。美しいアイデンティティーを持ち始めたのだ。それまで長い間、欧米スタイルこそが主流で日本製は追随者のイメージを覆せずにいた。そこに初めてかもしれない日本オリジナルの洗練が生まれたのは、「スック」や「スリー」あたりから。やがてオーガニックのカテゴリーにも日本発信のブランドが増え、一気にフェーズが変わる。日本人が日本がつくるものに誇りを感じ始め、サステナブルな価値も加わり、日本的なシンプルラグジュアリーが確立するのだ。かつての「和」とは違う、新しいスタイルが。

　そしてこの数年、日本のデザインが何か特別な力を持ってきた気がしている。くしくも、アートディレクターがフラワークリエイターとともに作ったブランド「ペダル アンド センツァ」や、デザイン会社の経営者が各界のプロの視点を融合させて作った「セイル」など、デザイン主体のブランドが次々生まれている。つまりエシカルな意識を、そのまま佇まいや放つ気配の洗練につなげることに成功しているブランド、そういうものにこそ共感が生まれる時代なのだ。言い換えれば、成分や美容理論からではない、デザインに納得して買い物する人が劇的に増えている。洗練度が、化粧品の偏差値や志の高さを語ると考える、デザイン優先の波！

　化粧品にとって、容器とは何か？実は今まであまり深く考えたことがなかった。美しいに越したことはないが、何かそれ以上のものではない気がしていた。でも今、容器は単なるデザインではない、価値そのもの。能力そのもの。今さらだけれど、あのアップルも、デザインの革命が歴史的成功の鍵となったように、デザインはただの形ではない。全く無言で人をねじ伏せる魔法なのだ。うがった見方をすれば、今や中身で劇的に差をつけるのは難しく、だからデザインなのだろう。人間がどこまで精魂込めたかの物差しとして。

　ただ厄介なのは、化粧品だけに最後は効き目が勝つこと。見た目でごまかすのはやめてと思っている。まねや既視感、今風にしとけばいいよね的なやっつけ仕事に対しても、人は厳しい。ロングセラーはダサくてもかまわないから、変わらないで……などなど、こと化粧品にはとりわけシビアになるのは、外見にだまされてはいけないという警戒心が、本能的に働くからなのである。