ファッション

メンズが激アツ!の「シモーン ロシャ」から、“余分”や“無駄”に価値を見出す「トーガ」まで 2023-24年秋冬ロンドンコレで心ときめいたブランド4選

 2023-24年秋冬ロンドン・ファッション・ウイークが、2月17〜21日に開催された。ダニエル・リー(Daniel Lee)による新生「バーバリー(BUUBERRY)」や、1万人を動員した「モンクレール ジーニアス(MONCLER GENIUS)」の新作発表イベント、15周年を祝う「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」のショーもさることながら、5年ぶりに現地取材した記者の心に刺さった4ブランドのコレクションを紹介する。

SIMONE ROCHA

 「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」の会場は、ロンドンを象徴する建造物であるウェストミンスター宮殿(英国国会議事堂)やウェストミンスター寺院のすぐ近くにある、セントラルホール・ウェストミンスター。中に入ると、3700本以上のパイプを備えた巨大なパイプオルガンが鎮座するドーム型の荘厳な空間が広がる。そこに登場したのは、アイルランドの4人組フォークバンド、ランクム(Lankum)。ケルト音楽に使われるイリアンパイプ(バグパイプの一種)を交えた演奏でショーは幕を開けた。
 
 出発点は、故郷のアイルランドで夏至と秋分の間である8月初めに行われる 「ルーナサ(Lughnassadh)」という収穫祭。秋や翌年の豊穣を祈るという儀式的な伝統祭事につながる要素を、ロマンチックなウエアに落とし込んだ。序盤に登場したのは、ゴールドのふくれ織り素材を用いたドレスやコート。そのきらめきは、太陽の光が降り注ぐ小麦畑を想起させる。より直接的な表現としては、藁のような素材を編んだり、チュールのパフスリーブとパニエスカートの中に入れたり。ドレスに素朴なクラフト的タッチを加えた提案が今季のポイントになる。

 装飾のカギとなった真っ赤な蝶結びのリボンやクリスタルを飾ったシアーなスリップドレスもあるが、そこに漂うのはセンシュアリティーというよりも少女性。レースやチュールといった繊細な素材やクラシックなフラワープリント、ふんわりとしたシルエットで描く世界観は、安定感抜群だ。

 そして、23年春夏にスタートしたメンズのクリエイションは、昨シーズンに増して冴えている。メンズウエアの定番的なアイテムをシグネチャーディテールやウィメンズと共通する素材使いでアレンジするというアプローチは引き続き。総レースのシャツやパフスリーブ、プリーツスカートなどを取り入れたスタイルが中心になるが、テーラリングやストリート感のあるシルエットとミックスすることで、甘くフェミニンになりすぎない絶妙なバランスに仕上げている。ピーコートやジャンプスーツの上に重ねたパールやクリスタルビーズのスカーフのようなアクセサリーは、スタンダードアイテムを一気に「シモーン ロシャ」らしくできるアイデア。男女共にスーツの上に大きめのスカーフを重ねるスタイルも登場し、セーラーのような雰囲気を醸し出す。

ERDEM

 「アーデム(ERDEM)」の舞台は、フィラメント電球がいくつも吊り下げられた暗い空間。ショーが始まると、電球がぐっと下がり、天井が低くなったような感覚を覚える。どうやら、これは親密な雰囲気を醸し出すための演出のようだ。

 というのも、今季の出発点となったのは、デザイナーのアーデム・モラリオグル(Erdem Moralioglu)が2年前に引っ越したジョージアン様式のタウンハウス。調べてみると、その家は隣家とつながっており、1860年代から20世紀初頭まで「堕落した女性が立ち直るための希望の家」として、数多くの孤独な女性たちが暮らしていたという。バックステージに置かれたムードボードには、改装前の家に残された痕跡や歴史、当時の女性たちの装いを示す写真やイラストがたくさん。そこからイメージをふくらませ、ヴィクトリアンスタイルをベースにダークでロマンチックなエレガンスを描いた。

 チェス奏者セバスティアン・プレイノ(Sebastian Plano)の楽曲「FORTANACH」の悲しげな音色が響く中、スポットライトに照らされながら歩くモデルは、“希望の家”で暮らした女性の姿を映し出すかのようにどこか憂いを帯び、反骨的なムードをまとっている。提案の中心となるのはドレス。黒やダークトーンから鮮やかな黄色、緑、パープル、そして水彩画のようなフラワープリントを施したものまでタフタを多用し、アシンメトリーなデザインとボリュームのコントラストでドラマチックに仕上げているのが特徴だ。そこに合わせるオペラグローブも、ジゴスリーブのようにはき口が大きくふくらんでいる。

 要素としてはビーズとクリスタルの刺しゅうやバッスル、チュールのヴェールといった古典的なエレガンスの要素を取り入れつつも、クラッシュサテンのシワ感や裾のほつれで不完全さを加えたり、かっちりとしたテーラリングと合わせたりして、現代的なスタイルに落とし込んでいる。大胆なクロップ丈のタキシードシャツをボレロのようにドレスの上に重ねるなど、新鮮な提案も見られた。

S.S. DALEY

 2022年に「LVMHプライズ(LVMH PRIZE)」でグランプリを受賞した「エス エス デイリー(S.S.DALEY)」は、着実な成長を遂げている。ストーリー性のあるコレクションや演劇のようなショーが持ち味のスティーブン・ストーキー・デイリー(Steven Stokey-Daley)は今季、ケイト・ブッシュ(Kate Bush)による物語のような楽曲群「THE NINTH WAVE」を出発点に、果てしなく広がる海とそこで生きる人々に目を向けた。それは、海軍に属していた曽祖父へのオマージュでもあるという。背景に波打つ水面の映像が映し出されたランウエイにまず登場したのは、ピーコートにスカーフや水兵帽を合わせた英国人俳優のイアン・マッケラン(Ian McKellen) 。ベテラン俳優による感情の込もった朗読からショーがスタートした。

 今季のベースとなるのは、水兵のユニフォームやワークウエアの要素。ショーに先駆けてハリー・スタイルズ(Harry Styles)が音楽の祭典「ブリット・アワード(BRIT AWARD)」の授賞式で着用したスーツのジャケットは、セーラー襟がポイントになっている。そのほか、紺と白の色使いやデッキシューズ、三角旗のようなニットアクセサリー、水面のきらめきを想起させるスパンコールからカーゴパンツやアノラックパーカまでを、伝統的なハウンドトゥースやストライプのテーラリング、袴のようなタック入りワイドパンツ、手編みのニットなどで表現する独自のプレッピーな世界観とミックスした。

 キーアイテムは白いシャツで、ジャケットやニット、ドレスの下にラフに着せるスタイリングが効いている。切り裂かれた3枚のシャツをはぎ合わせたアイテムにニットのケープレット(短いケープ)とスパンコールをびっしりとあしらったブリーフを合わせたルックは、座礁した船の乗組員をイメージしたもの。今季はほつれなど粗いディテールを取り入れることで、程よいエッジを加えているのが印象的だ。メンズからスタートしたブランドとあって、これまではウィメンズもメンズの延長線上あるいは中性的な提案が多かったが、フレアのマキシスカートやバルーンドレスなど、ウィメンズならではのアイテムも増えている。

 そんな「エス エス デイリー」の世界観を表現する上で欠かせないのは、懐かしさを感じさせるイラストやモチーフ。愛らしいカモやオレンジだけでなく、ボディービルダーのような男性のヌードも大胆にドレスやシャツにのせ、クィアの文脈を加えている。また、今回に限ったことではないが、男女共にボディー・ポジティブなマインドを感じるキャスティングで、それが無理なく素敵に見えるのも好感。生でショーを見るのは初めてだったが、コレクションの構成にも見せ方にも高いポテンシャルを感じる。

TOGA

 会場は、もともとエースホテル(ACE HOTEL)があった場所にオープンした新たなホテル、ワン ハンドレッド ショーディッチ(ONE HUNDRED SHOREDITCH)。イギリスの冬らしいグレーの空と街が見渡せる最上階のイベントスペースで、プレゼンテーションを行った。

 今季のテーマは、“REVEAL, INSIDE, LIBERATION”。古田泰子デザイナーは、内側(INSIDE)にあるものをあえて見せる(REVEAL)ことで、「窮屈な状況から気持ちを解放する(LIBERATION)」という思いをコレクションに込めた。それを象徴するのは、テーラードジャケットとトレンチやモッズコートなどのアウター。引き伸ばすように長めにとったフロントを折り返して大きく開くことで、ロゴタグや内ポケットがあらわになり、それをデザインとして見せる。

 もう一つのポイントは、必要なくなったものや無駄なものへの着目。例えば、かつてコートの内側に付けられていた雑誌を入れるための大きな“マガジン・ポケット”は、メタリックなシルバーやフェイクファーで作ることで、存在感を際立たせる。一方、ドレスはクシャクシャに丸めて捨てられた紙を広げたかのようにシワシワ。ストライプシャツの襟の下には共布で作ったもう一つの襟が広がり、盛り上がった袖山が印象的なダブルブレストジャケットには同素材のパーツを巻き付けてペプラムを作る。さらに、トレンチコートのエポーレットやベルトループにはスカーフを結んで垂らすなど、スタイリングでも“余分”や“無駄”に価値を見出している。

 また、「トーガ(TOGA)」にしては珍しく、大きなロゴをあしらったデザインも提案。23年春夏に刷新したという新たなロゴを、ドレスやトートバッグに大胆にのせた。


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