1年を通して同じテーマを探求する「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)」は、半年前の2023年春夏に続き、今シーズンも竹かごやその周りの文化からインスピレーションを得た。黒河内真衣子デザイナーが大きな影響を受けたのは今回も飯塚琅玕斎の作品だが、前回とはアプローチが全く異なる。23年春夏は竹かごが中国から伝わった時に生まれた「束編み」などの緻密な細工の作品がベースになっていたのに対し、今季は⽵かご⽂化が⽇本において独⾃の視点で遂げた発展に目を向けた。
その発展について、黒河内デザイナーは「(今季の着想源である作品は、)実はオーセンティックな細かい編みでかごを作っていたのとほぼ同時代に作られたもの。作家たちは、まず“竹”という存在に大きなリスペクトがある。そして、竹という存在の精神世界に魅了され、竹本来の美しさに立ち返るようなものを生み出していたところが面白いと思う」と説明。「形状も、渡来してすぐは中国の青銅器を模していたところから農具などの日用品をアップデートするようになり、ハイレベルな技術と日用品を融合したものが生まれていったのが日本独特のカルチャー。そのマインドには、自分たちがしている仕事とのシンパシーを感じた」と続ける。
結果、琅玕斎をはじめとする作家の大胆な造形表現をデザインに取り入れた。シグネチャーの有機的なラインを生かしたミニマルなテーラリングやリバーシブルコート、ミリタリーを感じるユーティリティーウエアからスタートしたコレクションは、次第に黒河内自身が竹の形状とかごの陰影からヒントを得て描いたグラフィカルなパターンで彩られていく。
今季も、モノづくりの背景には意外性とクラフトへのこだわりが詰まっている。例えば、シアリングのようなコートやベストは、ウールの原毛を綿の状態のまま編んでいく「スライバーニット」の技法で作られたもの。日本で一社しか持たない特殊な編み機で、モコモコした質感とボリュームを生み出したという。また、職人が一枚ずつ折り畳んだ後に部分的に染料を落として染める「折り紙染め」を活用したアルパカウールのニットや、ダイナミックな竹の編みから着想したテープ状のニットやトーションレースが複雑に交差するデザインは、どこかプリミティブな雰囲気を醸し出す。何よりトーションレースは、普段はハム用の網を作っている工場と協力して作ったというから驚きだ。一方、仕上がった服から受け取る印象は、軽やかかつしなやか。そこには、まっすぐ育つのに中は空洞で風になびく竹そのものの魅力や、「創作の中の余白を探している」という彼女自身の今のマインドが反映されている。
制作過程には、もちろんさまざまな試行錯誤があったという。しかし、「元になるインスピレーションからどんなものにしていくかという旅が、制作の中で一番楽しいこと。職人さんたちと意見を交わしながら、自分が描いた竹かごの世界をどういう風にファブリックや縫製技術、パターンでアップデートしていくかに挑戦した」と黒河内デザイナーは本当に楽しそうにモノづくりについて話す。昨年インタビューした際にも「トッズと協業した時にデザイナーと職人が一緒に働く会社としての在り方に非常に刺激を受けた」と話していたが、その姿勢は、確かに自国のモノづくりに誇りを持つイタリアブランドのデザイナーにも通じると感じる。現代的な服を通して、モノづくりの伝統や技術を守り、未来へつないでいこうとする彼女のようなファッションデザイナーが日本にもいることは、頼もしい。