ファッション

“リーバイス ビンテージ クロージング”デザイナー × ベルベルジン 藤原裕 “501”の現在と未来

 リーバイ・ストラウス(Levi Strauss)の「リーバイス(LEVI’S)」は、今から150年前にジーンズの原点を作り出した。当時の労働者のために作ったワークウエアは長い時を経て、現代を生きる老若男女のスタイルを支えるデイリーウエアに変移している。今回は「リーバイス」の膨大な歴史的知識を持ち、新しい価値を作り続けているポール・オニール(Paul O’Neill)=“リーバイス ビンテージ クロージング(LEVI'S VINTAGE CLOTHING以下、LVC)”ヘッドデザイナーと、ビンテージショップベルベルジン(BerBerjin)の藤原裕ディレクターの2人が対談し、ブランドのクリエイティビティーや象徴的な“501”の魅力、未来について語り合った。

世界のジーンズのはじまり
“501”の誕生

 「リーバイス」は、世界で初めてワークパンツを補強する銅製リベットの特許を1873年5月20日に取得した。これが今年150年を迎える“501”の歴史の幕開けであり、祖である“ジーンズ”の誕生だ。旧知の仲である2人にとって“501”とは?

ポール・オニール(以下、オニール):“501”は、私にとって「リーバイス」のプロダクトの最も純粋な様式です。今日までに小さな変更はあれど、その本質は決して変わらないものという意味でとても不変的。しかし、実際には同じ“501”でもアプローチによって個々に違いが表れていて、常に変化を打ち出していることから、使い手自らが魅力を探求できる存在でもあります。

藤原裕(以下、藤原):よく使わせてもらう言葉ですが、僕にとって“501”は原点にして頂点です。最初に作られたジーンズであり、世界中の誰もが知るジーンズ。それが“501”です。

オニール:裕さんが言う通り、まさに原点です。150周年の節目では、“LVC”を通じて原点である“501”の歴史を改めて振り返るつもりです。5月20日に迎える“501”のバースデーに向けてさまざまな見せ方を考えていて、2月に発売した1937年モデルのパッチやリベット、タブをカタカナ表記にした限定復刻アイテムもその一つです。

 1937年モデルに次いで、初めてベルトループがついた1922年モデル、バックポケットが1つから2つに変更となった1901年モデル、商品にロットナンバー“501”をつけた1890年モデル、というように、時代をさかのぼるかたちでエポックメイキングな“501”を発売していきます。そして、5月20日にバースデージーンズとして1873年当時のディテールを復刻したモデルを販売します。

藤原:さすが、特別感がありますね。今回のプロダクトにはコーンミルズ(CONE MILLS現コーンデニム)社のホワイトオーク工場のデットストック生地を使ったモデルもあると聞いて、それもテンションが上がりました。何本作る予定ですか?

オニール:ほとんどのモデルは510本、バースデージーンズは150本で、メタル製のタイムカプセルに入れて特許番号も刻印します。

歴史を忠実に再現
不変の美と、不完全の美学

オニール:「リーバイス」のあらゆるプロダクトはストーリーに基づいて構築しています。特に“LVC”においてはシーズンごとにアーカイブから復刻するアイテムを選び、テーマを決め、時代背景やストーリーをくみ取りながらコレクションを完成させていきます。そこでも“501”はコレクションの基礎になります。また、「1970年代のイギリス」や「1980年代のアメリカ」など、どの年代にフォーカスしても必ず“501”のストーリーを見つけることができます。
 
 ストーリーを描いた後は、ルックブックの撮影や編集を行って、さらに世界観を作っていきます。撮影では、時代の空気感を再現するためにアナログな手法をたびたび取り入れており、ティンタイプ(鉄板写真)の技法で撮った写真を使ったこともあります。モデルはプロモデルを起用せず、ローカルにいる人たちをキャスティングします。以前、“LVC”でアルバート・アインシュタイン(Albert Einstein)が愛用していたメンロコサックジャケットを復刻し、そのルックブックでは彼にそっくりな人をロサンゼルスで見つけてキャスティングしました(笑)。

藤原:このルックブック、再現性がすごいですよね。ポールさんが話していたように、“501”は時代によって少しずつ形状が異なる点が非常に魅力的なジーンズです。誕生当時からのディテールであるサスペンダーボタンやシンチバックはベルトループにかわり、現代に近づくにつれて要素は徐々にそぎ落とされていきます。

 実は今日、「リーバイス」の長い歴史の中ではこういうことがあるから面白いと思う品を持ってきました。“LVC”の年代別でいくと、本来は1937年に分類されるモデルなのに、実はディテールから1942年製というのが判明したジーンズなんです。ちなみにこのモデルのデッドストックを所有している方がいて、そのフラッシャーには“1942年”のコピーライトがあるのでそこからも証明できます。

オニール:全てのパーツが必ずしも厳密に作られていたわけではないため、私たちも推測するほかありません。ただ、「リーバイス」のジーンズに長く携わっていてもこうした新しい出合いがあるのがなにより面白く感じます。この1942年製も節目のジーンズになることでしょう。

藤原:それは良かった。ところで、“LVC”におけるプロダクトの再現度はとても高いですよね。実際、オリジナルを忠実に再現するのは非常に困難なことではないのですか?素材が入手できなかったり、縫製する工場も違ったりしますから。

オニール:その通りです。当時と全く同じものを作るのは、貴重なアーカイブを保有して研究を続ける私たちでも不可能に近いこと。それがビンテージか復刻か、私たちが見れば2mほど離れた距離からでも気づきます。かつてのデニムを再現しようとすれば、均整の取れていないスラブまでを意図的に再現することになりますし、ステッチの数から使う糸の太さ、ボタンホールのデザインなど、本当にさまざまな検証を行って再現を試みるので、苦労は絶えません。当然、復刻する際は魅力を損なわないように最善を尽くします。その一方で、現代は全てのものがあまりにも完全なので、“不完全な存在”を新しく作ることも必要な気はしています。

ビンテージ市場から見る
“501”の価値

藤原:ベルベルジンが2月に創業25周年を迎えた機会に、2年ほどかけてさまざまな方法で集めてきたビンテージアイテムを販売したんです。その中に1947年製の“501”のデッドストックがありましたが、500万円で売買されました。7~8年前は200万円だったので、倍以上の価格です。

オニール:私も、ベルベルジンの25周年イベントは気になっていたので友人と見に行きましたが、想像以上に素晴らしいものでした。もしアメリカで行っていたら警備員を立たせて厳重に警戒するような素晴らしいコレクションで、鳥肌が立ったほどです。日本では若者の間でビンテージ熱は高まっていますか? というのも、アメリカでは若者がビンテージを購入する流れが強まっていて、特に「リーバイス」は人気があり価格が高騰している要因の一つになっています。

藤原:ビンテージ熱は感じますが、僕が接客している限りで、日本の若い子たちは同じビンテージのカテゴリーでもロックTシャツやムービーTシャツ、アート系Tシャツなどジーンズ以外の市場を入り口にしていることが多いように感じます。ただ、ビンテージTシャツも高騰していて、以前なら2〜3万円で取引されていたものが50万円近くしたりします。僕は20万円するジーンズは買えても、20万円を超えるTシャツを買おうとは思いません。一概には言えませんが、僕とはビンテージの入り方はもちろん、価値観も異なるのだと思います。

オニール:確かに、アメリカのローズボール・フリーマーケットも以前はジーンズ中心でしたが今はビンテージTシャツやスエットシャツが人気ですね。

藤原:正直なところ、ビンテージの“501”でも特に貴重なものはもはや手の届かないところにきている感覚があります。そういった価格の高騰もまた、若い子たちが憧れる要素になっているのではないでしょうか。

継承した歴史は次世代へ
ジーンズに込める最高の物語

藤原:今の若い子たちはきっと“LVC”の商品を見て、「この腰の後ろについているベルトはなんだろう?」「なぜウエストにボタンがついているのか」など、多くの疑問を抱くと思います。それが過去に必要とされていたデザインであることを、年代ごとにしっかりと伝えていける強さが“LVC”にあります。ビンテージを生業とする人間として、“501”の遺伝子を継承し続けてもらえるのは喜ばしいことです。それに、ベルベルジンはビンテージ、「リーバイス」は新品で、扱う商品こそ違えど通じている感性もたくさんあります。実際、うちと「リーバイス」の原宿フラッグシップストアを行き来するお客さまもいるくらいですから。

オニール:これから30年後や40年後、“501”はハードなジーンズの象徴としてさらにクラシックなスタイルを求められるようになるのではないかと考えています。私は仕事でビンテージのジーンズを探すとき、ヒゲやアタリが出ているものを選びますが、それは着用していた人の人生がそこに表れているからです。「リーバイス」のクリエイションはモノだけではなく、ストーリーが不可欠です。あらゆる人に、ブランドへの愛に基づいて商品を購入してもらい、そこに喜びを感じてもらいたいです。

EDIT&TEXT KEISUKE HONDA
問い合わせ先
リーバイ・ストラウス ジャパン
0120-099-501