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YKKは好調から一転、下期失速、1.7%の減益 期初見通しを大きく下回る 23年3月期

 YKKは、2023年3月期のファスナー事業が売上高が前年比8.7%減の3801億円、営業利益が同1.7%減の416億円、ファスナー販売数量は93.9億本(前年は102.9億本)になりそうだと発表した。売上高以外は期初の見通しを大きく下回った。上期は堅調に推移していたものの、下期に入ると米国市場が震源地となり、流通在庫の増加に伴うアパレル・小売側の急激な発注減により、アジア地域でのアパレル生産が急減した。YKKは巻き返しのため、4月から営業本部の一部機能をベトナムに移転するほか、世界各国のファスナー工場に各地域の状況に応じて開発したファスナー機械の供給を開始する。大谷裕明社長は「22年3月期からスタートした中期経営計画の中で、『より良いものを、より安く、より早く、よりサステナブルに』を掲げているが、中でも今は瞬発力の重要度がどんどん高まっている。大量のオーダーを瞬時に供給できる体制作りが急務。積極的に投資する」と語り、デジタルを活用した無停止・無人生産ラインの構築を柱としたスマートファクトリーの実現に向けて、本格的な研究開発をスタートした。

 ベトナムに移転するのは、営業本部の商品戦略部の一部機能で、東京からは約20人ほどが異動するほか、現地でもナショナルスタッフを雇用する。大谷社長は「コロナ禍を挟んで、世界のアパレル生産の構造が一変しつつある」と指摘。YKKが独自に集計したアパレルの加工貿易統計によると、2010年に51%だった中国のシェアは21年度に30%に減少する一方、ベトナムは10年8%→21年18%に、バングラデシュも10年6%→22年12%に拡大した。ベトナム、バングラデシュを合計するとすでに中国と匹敵する規模になり、22年以降もこの傾向はさらに加速する。「想定以上のスピードで世界情勢と事業環境が変化している。ベトナムもこれまではスポーツを中心とした縫製拠点だったものの、アイテムもカジュアルウエアやボトムスにも広がっている。中長期的なスパンで考えると、ベトナムの重要性はますます高まる」と大谷社長。

 コロナ禍の反動で22年3月期はファスナー販売が過去最高の102.9億本に達するなど、世界的なアパレル生産の増産景気で好調だった。23年3月期も9月までは堅調に推移したものの、「米国を筆頭にインフレが進み、限られた可処分所得の中で衣料品消費に急ブレーキがかかっている。定番アイテムのようにシーズン性がない物より、シーズンごとに新商品を出すようなアイテムの動きが特に悪く、流通在庫が積み上がり、発注にも急ブレーキがかかった」という。売上高こそ原燃料高騰で価格転嫁を行い、期初の計画比で7.8増になったものの、ファスナーの販売数量は前年比12.5%減、営業利益は17.1%減と大きく減少した。

 YKKはジーンズやスポーツウエア、高級バッグ・雑貨分野で高いシェアを有しており、世界のアパレル産業の先行指標の一つになっている。同社の22年度下期以降の業績下振れは、世界のアパレルの上半期の業績と連動しそうだ。

 23年度はサステナビリティへの対応も強化する。繊維部材を再生ポリエステル糸に切り替えた環境配慮型ファスナー「ナチュロン」は、22年度に全体の25%だったが、23年には44%、30年度には100%に拡大する。繊維部材は再生ポリエステル糸を使っているが、今後はエレメント(務歯=かみ合わせの部分)なども再生材化する。

 24年3月期の見通しは売上高3942億円、営業利益497億円、ファスナー販売数量は100.8億本を計画する。大谷社長は「有力な需要家の動向を踏まえると、23年上期までは不透明感が続くものの、下期からは回復に向かう」として、設備投資は448億円と、前年の378億円から大幅に積み増す。中国やASEANで240億円を投じて生産能力を引き上げるほか、日本でも黒部事業所へのDX投資などで118億円を投じる。

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