ファッション

スマホ世代が愛する「クレージュ」と服好きが服好きに捧げる「ドリス」の胸キュン【2023-24年秋冬パリコレ取材はどこまでも Vol.2】

 メンズ、ミラノに引き続き、パリコレクションにもセレブが一挙襲来!パパラッチして、取材して、展示会を回ってとドタバタしているとドーパミンが溢れ出します。さぁ、パリコレ日記Vol.2のスターチです!

11:00 「クレージュ」
スマホ世代が熱望⁉︎する
超絶今なブルゾン現る

 この日は「クレージュ(COURREGES)」からスタート。ニコラ・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)体制になってから、Y2Kブームにものって、若い世代を中心に支持を集め、頭角をメキメキとあらわしています。

 激しいスモークがたかれる中で現れたファーストルックは、まさに、そんな世代に支持される理由を物語っていました。モデルはスマホを両手に持って(フリック入力の日本では片手の人も多いけれど、アルファベットの国では大体両手持ち。そして、スマホと顔の距離は「めちゃ近」が基本ですw)ウォーキング。スマホが打ちやすいよう、腕は脇に入れた大きなスリットからスッと出して、ピコピコやっています(笑)。こういう時は猫背になりがちだから、アウターはちゃんと背面がボリュームシルエットです。わかっていますねぇ。冬のアウターって腕を曲げるのがちょっぴり大変な時があって、だからと言って洋服を肩掛けすると、何度も落ちちゃう。そんなちょっとした不便を解消するナイスアイデアのチェスターコートやレザーブルゾン、Gジャンからスタートしました。

 その後は、引き続きボディコンシャスな肌見せルック。今シーズンはデコルテ周りを中心に洋服の一部を円形に大きくえぐって、そこに鏡のようなパーツをあしらっているのが特徴です。円形の鏡は、ピタピタなサイハイブーツのヒールにも。今回のコレクションも、若い世代が颯爽と着こなすイメージがすぐに連想できました。

12:25 「ザ・ロウ」
「解釈の余白」たっぷりの
ミニマルウエアを自由奔放に

 お次は「ザ・ロウ(THE ROW)」。このブランドについては前回、「ミニマルだけじゃなくて、結構エモい」と書きましたが今回、「シンプルな洋服を自由奔放に着る」が改めて真骨頂なのだと気づきました。

 洋服は、オーバーサイズのチェスターコート、ボックスシルエットのジャケット、ピュアなホワイトシャツなど、リラックスシルエットが基調ですが、生地を贅沢にたっぷり使うからこその着こなしは本当に千差万別です。細いベルトでウエストマークしても良し、着流しても良し、手で生地を手繰り寄せてつかむだけでも良し。そんな「解釈の余白」みたいなものを、袖を胸元で結んでビスチェ風に着こなすワンピースや、左右のポケットがドローコードとスリットと異なるニットドレスなどでブランドの方から提案してくれます。所々で登場するのは、巨大なストールのような生地をとても丁寧にドレープして首元にボリュームを作ったポンチョやマントのスタイル。この計算し尽くした渾身のシルエットを日常生活で再現するのは難しそうですが、このくらい自由に、いろんな風に、自分らしく楽しんで欲しいという想いはしっかり受け取りました。

13:00 「デルヴォー」
カッチリバッグが
ソフト&ジェンダーレスに

 さぁ、再び左岸に戻って、「デルヴォー(DELVAUX)」です。ベルギー王室御用達のブランドですが、一方で遊び心あふれるジェンダーレスなバッグが増えています。今回のお気に入りは、ソフトなレザーのシリーズ。定番のカッチリバッグ“ブリヨン”も、ソフトレザーを使うと、あら不思議!サイズが大きくなっても威圧感は感じられず、いろんなシーンに使えそうです。レディのバッグ、というイメージも軽減されますね。大きなサイズは、男性にも良さそうです。

 会場には、90年代に一世を風靡したデザイナー、ジャン・コロナ(Jean Colonna)も!彼と「デルヴォー」が2019年にスタートしたコラボライン“レックス エックス エル(L’XXL)”も、柔らかなレザーにカモフラ柄をのせるなど、男性ファンの獲得に意欲的です。

14:00 「アンダーカバー」
「フラグメント」コラボを
市松模様で表現したアティチュード

 「アンダーカバー(UNDERCOVER)」は事前に、トヨタ自動車の“アイゴクロス”との協業を発表。ところがランウエイではさらに、「フラグメント デザイン(FRAGMENT DESIGN)」とのコラボレーションまで現れました。市松模様のテキスタイルの中には、アルファベットのUにアンダーバー、そして稲妻という2つのロゴマークが刻まれ、オーバーサイズのテクニカルパーカやブランケットのような生地のボリュームコートなどに。黒と白、キャメルと白など、時には正反対の色で作ったチェック柄は、異なる個性を持つブランド同志の結託を表現しているのでしょう。完全に融合しなくても良い、その個性を残したまま同じ世界に身を置いてみたら?というアティチュードを感じます。インスピレーションソースの1つになったレコードのジャケット、ドイツ・ベルリン出身のミュージシャン、マニュエル・ゲッチング(Manuel Göttsching)が1984年にリリースした「E2-E4」を調べてみると、テクノとハウス、それにイージーリスニングやアンビエントなどを融合した名盤ながら、リリース当時は酷評されたそうです。周りの意見に左右されず、自分が信じた道を突き進む。そして、信じているからこそ、全く違う個性を持つもの同志の掛け合わ背はさらなる魅力を放つと信じている、そんな心意気を感じます。キーワードは「LOVE YOURSELF」ですが、「フラグメント」とのコラボウエアでは「YOURSELF」が「OURSELVES」に変わっていました。トヨタの“アイゴクロス”とのコラボレーションでも、「フラグメント デザイン」とのコラボでも、自分たちらしくあろうとする人たちとの輪を広げていこうという思いが伺えます。

 個人的には、前半のテッズパートがお気に入りです。玉虫のように輝く深いレッドなどのコンパクトなセットアップに厚底ローファー。その背面にはバラをつかもうとする手のイラストなど、ロックとダークなファンタジーがわかりやすく同居していました。

15:30 「ドリス ヴァン ノッテン」
洋服好きに捧げる時間と空間
素材&ディテールのオンパレード

 「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のショー会場はコンサートホール。舞台中央にはドラムセットがあって、観客はそこから十数列に渡り会場を埋め尽くしました。最後尾の人たちは、何も見えないんじゃないかな?大丈夫?

 そんな風に思っていると、ショーがスタート。するとモデルは、客席の最後尾から現れました。そして、そのウォーキングは、ドラマーの後ろにある巨大な鏡に映り、ホールはたちまち幻想的な雰囲気に包まれます。「ドリス」は本当に、こうした洋服を一際よく見せる演出、大掛かりな仕掛けではなくショーをドラマチックに見せる工夫が上手ですね。

 幻想的なムードを掻き立てたのは、ゴールドです。今シーズンは、ゴールドを効果的に使って、光と戯れるスタイルを生み出しました。ゴールドの使い方は多種多彩です。ウールの上にグラデーションするように箔プリントを施せば、前から見ればゴージャズなウールコートが完成。ジャケットのウエスト周りに錦糸でコルセットを描くように刺しゅうすれば、女性の曲線的なウエストラインを優雅に強調します。ラメ混のピンストライプのセットアップや、ゴールドのトリミングのチェスターコートは、鮮やかに輝きつつも控えめな印象です。

 ゴールドの使い方同様、コレクションはバリエーションに富んでいます。まず素材は、洗ったシルクを筆頭とするレトロテイストから、チュール、テクニカルメッシュまで。シルエットは、力強いショルダーラインで始まる細長いシルエットもあれば、一方で上述のコルセット刺しゅうのジャケットは柔らかな曲線的なカーブ。そして、シミまで再現したようなビンテージムードたっぷりのフローラルプリントのボンバーズは、より球形のシルエットに近づいて、彫刻的なプラットフォームブーツとコントラストを描きます。

 翌日の展示会では、さらに洋服の裏側への刺しゅうや、リバーシブルなど、着る人にしかわからないディテールも満載なことを教えていただきました。モデルが、洋服の胸元を手で掴んで、その裏側を見せないように歩いていたショーの場面が思い浮かびました。着る人にしかわからない喜びだから、内側のディテールは私だけのものーー。そんな思いを表現したポージングだったんですね。複雑に見えないのに複雑な洋服は、着るたびに新しい発見をもたらしてくれるのかもしれません。服好きの、服好きによる、服好きのためのコレクション。服好きの私は、たちまち恋に落ちました(笑)。

16:50 「セシリー バンセン」
ボリュームチュールの匠は
一体どこまで進化する?

 お次は「セシリー バンセン(CECILIE BAHNSEN)」。凹凸で表情豊かなシフォンやチュール、オーガンジーを使ったベビードールドレスで、女性たちの「カワイイ!」という叫び声にも似た感情の発露を喚起しているブランドです。とはいえ私は、「繊細な生地を使った、白基調で、ボリュームたっぷりのベビードールドレスだけでは、正直この先キツいんじゃない?」とも思ってきましたが、彼女は毎回、そんな杞憂を軽やかに裏切ってくれます。今回も、オジさんの心配は、結果“余計なお世話”でした。

 今回はデニムを中心に布帛と繊細な生地を組み合わせたり、ハイゲージのニットでチュール同様の透け感を表現したり、箔プリントやオーロラコーティングの生地をパッチワークしてみたり、イエローのグラデーションやピンク&赤のブロッキングなどカラーバリエーションを拡充してみたり、いろんなアイデアが出るわ出るわ。

 個人的には、ドレスとシンクロする「アシックス(ASICS)」とのコラボスニーカーのかわいらしさも気になります。シューズやバッグもイケそうな気がしますねぇ。ベビードールドレスにはこだわるけれど、まだまだ伸び代ばかり。そんな印象を残してくれました。

18:00 「パコ ラバンヌ」
マキシ丈に果敢に挑戦
肌見せには安定感

 「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」も「クレージュ」同様、最近のY2Kブームで人気を取り戻しつつあるブランドでしょう。一方で創業者のパコ・ラバンヌ氏は一カ月ほど前にお亡くなりになっています。今回のファッションショーは、フランス人デザイナーのジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)による、創業者へのオマージュ・コレクションです。

 オマージュは、大別すると2種類でしょう。まず一つ目は、パコ・ラバンヌ同様にスペインを代表する奇才、サルバトール・ダリ(Salvador Dali)の絵画を用いたドレスです。ダリのシュールなイラストをなるべく大きく、なるべくそのまま使いたかったのでしょう。マキシ丈のシンプルなドレスには、海辺にトラ、砂漠にバラ、そして溶けていくオブジェなどがのせられます。ここでのデザインは、上半身のわずかな切り込み程度です。そして後半は、カットアウトしたレザーやプレキシガラスの装飾、そしてメタルメッシュのドレスのシリーズでした。装飾があまりに多いから、歩くたびにワッシャワッシャと大きな音が鳴り響きます(笑)。

 いずれもレッドカーペット向きではありますが、これまでのクリエイションに比べるとちょっと共感は難しかったでしょうか?加えて、本当のフィナーレに登場した創業者のオリジナルドレスにはやっぱり敵わず。ジュリアンのミッションは、「パコ ラバンヌ」らしさをどうやって次世代に継承していくのか?にあることをあらためて感じるコレクションでした。

19:30 「アクネ ストゥディオズ」
サイケデリックな森に
スキャンダラスな妖精登場

 「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」の会場は、クリスタルがピカピカ光るサイケデリックな森の中。クリエイティブ・ディレクターを務めるジョニー・ヨハンソン(Jonny Johanson)の記憶にある、故郷スウェーデンのどこまでも続く森のイメージを膨らませたそうです。

 そんな神秘の森に現れたのは、ちょっぴりスキャンダラスな妖精でした。ファーストルックは、体に葉っぱをまとったような、そして足にはツタが絡まっているようなドレス&ブーツのモデル。その後も木の幹を転写したようなモチーフ使いや、土に還っていくようなダメージ加工、木の枝のように体に巻きつくシフォンなど、自然由来のアイデアをグルービーに表現します。

 とはいえ、ボロボロ、グルグル、スケスケばかりの「アクネ ストゥディオズ」のファッションショーは、そろそろ方向転換しても良いのでは?と思っています。実際店頭に並ぶ洋服はとっても可愛らしくて魅力的なんだから、ここまでコンセプチュアル一辺倒にならなくても良いのでは?と思うのです。「アミ パリス(AMI PARIS)」のように、気の利いた洋服で構成するファッションショーという方向性もアリなのではないか?ファッションショーを開けばオシャレな若者がたくさん集まるというイメージ発信に重きを置いている印象を受けますが、そんな若者の購買意欲を掻き立てる工夫があってもいいのかな?なんて思います。

21:00 「バルマン」
ロックからレトロクチュールに?
だんだん日本から遠ざかっているよう

 さぁ、本日のラストは「バルマン(BALMAIN)」です。今回は、どうしたのでしょう?ロックマインド漂う豪華絢爛なデニムやバイカーズ、そこに合わせる迫力満点のチェスターコートやPコートの面影はなく、パールとパテントを駆使した1960〜70年代のオートクチュールのようでした。会場に集っている富裕層の皆さんには、お好みのテイストだったのでしょうか?パールで作る鎧のようなミニドレスには“らしさ”も感じましたが、正直どんどん「バルマン」が日本から遠くなっている。そんな印象は否めませんでした。

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