「ニナ リッチ(NINA RICCI)」は3月3日、ハリス・リード(Harris Reed)新クリエイティブ・ディレクターによるデビューショーを開催した。ロンドン芸術大学セントラル・セントマーチンズ校で学んだ弱冠26歳のアメリカ系イギリス人デザイナーのリードは、昨年9月に就任。自身のブランドを手掛ける傍ら、1932年創業の老舗メゾンに新たな息吹をもたらす準備を進め、ドラマチックなシルエットと強い色使いで新章の幕開けを飾った。
ファーストルックは、黒人プラスサイズモデルのプレシャス・リー(Precious Lee)がまとう、背中に巨大なリボンを配した黒地に黒い水玉模様のフレアミニドレス。その後も体型やジェンダー、セクシュアリティーにとらわれないキャスティングで、多様性を訴えているのが印象的だ。リボンはキーデザインの一つで、そのままバンドゥトップにしたり、装飾として胸元や肩にあしらったり。ドレスやコートは、大胆に広がるフレアラインやカーブを描く袖など、誇張されたシルエットが特徴になる。一方、スーツは太い下襟とぎゅっと絞ったウエストが特徴のジャケットとベルボトムのセット。レースで仕立てたり、首元に花のようなラッフルアクセサリーをつけたりして、ジェンダーフルイドなテーラードスタイルを打ち出している。
ケープのように大きな襟やコクーンシルエットのケープ、メゾンを代表する香水“レールデュタン(L'AIR DU TEMPS)”の瓶の蓋にあしらわれた2羽のハトのモチーフなど、アーカイブデザインからの引用も見られるが、それ以上にマーメイドシルエットやベルボトム、極端にツバの広いハットなどデザイナー自身が得意とするスタイルが色濃く表れていたように感じた。
しかし、リードは「私にとって、重要なのはアーカイブ。クリエイティブ・ディレクターに就任した時、『どんな要素をブランドに持ち込むか?』と聞かれたけれど、『何もない。だって、すでに全てがそろっているから。ただ、20年間触れられていないだけ』と答えた。『ニナ リッチ』には、ポエティックで柔らかなイメージを抱く人が多いと思う。でも、私にとってはカラフルな色使いやワクワクする要素を持ったブランドであり、(創業者の)ニナの大胆さが忘れられていると思う」とコメント。そして、アーカイブのシルエットやテクスチャー、色に着目して「フェミニニティー」にフォーカスしたとし、「この言葉は使い古されているけれど、実際に心臓に突きつけるかのようにパリのフェミニニティーを描き直したいと思った。みんな同じような服を着ていて、同じように見えるからね。体型や人種、ジェンダー、セクシャリティーのインクルーシビティーを大事にしている私にとっての『フェミニニティー』は、自分の内面をたたえるためのキーワードのようなもの」と説明する。そんな大胆なフェミニニティーの表現に創業者との共通点を見出したようだ。
デビューショーに先駆けて、リードによる「ニナ リッチ」はミュージシャンのハリー・スタイルズ(Harry Styles)やアデル(Adele)、女優のフローレンス・ピュー(Florence Pugh)にカスタムメードの衣装を提供していたが、今回披露したコレクションもやはりコスチュームが強く、レッドカーペットのための服という印象はいなめなかった。 自身の名を冠したクチュールのようなブランドは小さなコミュニティーに支持されるものでいいかもしれないが、「ニナ リッチ」のような小売や卸を行うプレタポルテブランドでは話が変わる。リアリティーとかけ離れたショーピースからは正直、これからのビジネスモデルを想像し難かった。プレ・コレクションやコマーシャルアイテムでどのようなアイテムを提案するのかが気になるところだ。
ビジネスという点では昨年5月、「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」でグローバル・コマーシャル・ディレクターを務めていたエドウィン・ボドソン(Edwin Bodson)がマネジング・ディレクターに就任している。フレッシュな2人がタッグを組む新体制で、どのように老舗メゾンを盛り上げていくかに期待したい。