ファッション

ビームスのディレクターが語る「ジャパンレザーの可能性」【革製品のサステナビリティを考える Vol.2】

 メード・イン・ジャパンのレザーは、各地に高品質のなめし革を作る産地が残る。その一つが兵庫だ。ビームスの佐藤幸子ディレクターが手がける“コーリング ビームス クラフツ イン ザ メーキング(以下、コーリング)”は、日本の伝統技術を後世に残すためのプロジェクト。今回はジャパンレザーの持つポテンシャルをセレクトショップならではの経験や発想で引き出し、次代へつなぐビームスの取り組みを紹介する。

伝統技術を後世に残すため
商品作りを“お手伝い”

WWDJAPAN(以下、WWD):“コーリング"のプロジェクトについて教えてください。

佐藤幸子ビームスディレクター(以下、佐藤):2018年の秋に福岡の工芸展で、久留米絣(がすり)という織物に出合いました。そのとき、ご年配の方や若い職人さんに聞いた久留米絣の成り立ちやストーリーがとにかく不思議で面白くて。それがきっかけで20年春に久留米絣を使った「カスリ」というブランドを立ち上げ、その頃から日本の伝統技術を後世に残すために何ができるのかを意識し始めました。その後、佐賀からは「有田焼や伊万里焼など肥前地区を代表する焼き物を後世に残したい」という依頼を受け、“宝石のように焼き物を纏う”をコンセプトに「ヒゼンジュエリー」というジュエリープランドを、兵皮連さん(兵庫県皮革産業協同組合連合会)からの依頼では兵庫エリアにあるタンナー(革をなめす業者)の革を使った“ひょうごレザー”の商品開発をしました。これらのプロジェクトをまとめてコーリング"と名付け、21年12月にスタートしました。

WWD:"コーリングの由来は?

佐藤:“天職”と“呼ばれる”のダブルミーニングです。売るための自発的な商品作りや買い付けではなく、呼ばれてお手伝いしたり、素材と向き合って何かを生み出したり、地域や産業に呼ばれて商品を作ったり。ファッションの中から生まれたアイデアで、日本の素晴らしいモノ作りを形にしたいと思っています。

ファッションならではのフィルターで
新しいクリエイティブを生み出す

WWD:ブランドや製品を作る上で大切にしていることは?

佐藤:まずは、その文化の中心にいる人たちがどうしたいのかをとことん本音で話して、聞くことです。例えば、元々素材としての革はものすごく好きだけど、今はサステナビリティやSDGsを背景に革がネガティブに捉えられることも増えています。これからの時代、どうなっていくんだろう?と思うこともあったけど、実際にお話を聞いたら、革は畜産副産物(畜産動物を食肉とする過程で出る皮を利用する素材)ですし、なめしも1400年の歴史があるといいます。私が出会った人を幸せにすることが、私ができる一番サステナブルなアクション。職人さんが代々受け継いで営んできたものを、間違った知識で絶やすことはしたくない。とにかく、産地の人たちはプライドを持って革を作っている。私はそこにすごく感銘を受けたので、自分の経験でできることを形にしたいと思っています。

WWD:"ひょうごレザー”はどのような特長を生かして、どんなプロダクトに落とし込んだ?

佐藤:まず、“ひょうごレザー”を作る方々にも同じように「何が特長ですか?」と質問をしました。すると「なんでも作れるんだよね」とおっしゃられて。兵庫エリアには、本当に多くのタンナーがあり、本当に“なんでも作れるんです。その強みを素直に生かして、ファーストコレクションは財布と洋服、靴、バッグをラインアップ。それぞれの商品に合う革を作り分けて、ユニセックスでエイジレスな、はやり廃りのないものを作りました。ビジュアルも“地場産”感をできるだけ出さず、当社のフィルターを通して、「パリの古びた街で失「恋した女の子」をイメージして撮影しました。

志は高く「世界へ」
まずは地元からこつこつと

WWD:プロジェクトを通しての学びは?

佐藤:私も20年以上、革小物の商品企画に携わってきましたが、タンナーの方々と顔を合わせることすらありませんでした。会ってみると職人さんたちは目の前の皮をなめすだけで、完成品を知ることがない方ばかり。「ファッション」の世界を知らないんです。だからこそ、一緒にモノを作りましょうと歩み寄って、「こういう革は靴のリボンに使いましょう」とか「SNSはこうやるんですよ」とか、自分の経験を基に役立つことを伝えています。

WWD:今後の展望は?

佐藤:ポップアップストアを地元で開きたいですね。職人さんとはお酒を酌み交わしながら「海外のラグジュアリーブランドに革を卸しましょうよ」みたいな夢を語り合うこともあります。しかしそもそも兵庫の人ですら、兵庫が革の産地であることを知らない人が多いんです。まずは国内、まずは地元での認知度を高めていくことから、こつこつとやらないといけないと思っています。透明性の観点からしても、革はどこで、誰がなめしているのか、縫っているのかまで消費者に伝えるべき。これまでは私たち売り手がそこを疎かにしていた部分もあるでしょう。地元の人はやはり東京開催を希望されます。ただ地元で開くことでこそ、なじみのタンナーさんがお店にいらしてくれたり、自分が作ったモノが売れていく様子が見えたりと、収穫は多いはずなんです。私たちにとっても職人と対話しながら、その人たちが作ったモノを売る経験はとても貴重です。売り手として、産地のストーリーや、革のもつ魅力を消費者にきちんと伝えていきたいと思っています。

革にまつわる4つの“誤解”
解消へ向け取り組みを加速

 革のタンナーや革製品の製造、卸業などでつくる日本皮革産業連合会は、皮革や革製品のサステナビリティを発信するステートメント「Thinking Leather Action」を策定した。事業の座長を務める川善商店社長の川北芳弘氏は、皮革と革製商品に関しては近年、4つの“誤解”が生まれているとする。「皮革/革製品のために動物を殺しているという誤解」「革製品を作るのをやめれば、畜産でのCO2が減るという誤解」「天然皮革は石油素材に比べて環境負荷が高いという誤解」「革の代替素材は天然皮革よりサステナブルであるという誤解」を挙げる。「革製品に使われる皮は食肉副産物。たとえ革製品を作らなくなっても皮は出続け、廃棄する皮が増えることになる」と川北氏。正しい理解促進のため、企業や学生向けの出張講演などに取り組む。

TEXT:YUKI KOIKE
問い合わせ先
日本皮革産業連合会
03 -3847-1451