ファッション

三原康裕デザイナーが語る、革の過去・現在・未来【革製品のサステナビリティを考える Vol.3】

 「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO」の三原康裕デザイナーは、ブランドの代表的なプロダクトである革靴をはじめとして、レザーという素材が持つ可能性を探求し、クリエイションに情熱を注いできた人物だ。その長年のキャリアの中で日本の皮革産業と真摯に向き合い、存続について思いを強くしてきた。皮革産業のサステナブルな未来のためには、原料の調達から加工、デザインから販売に至るまで、すべてのプロセスを見直し、一から作り直すことが必要だと語る。

革製品のモノ作り、届け方を
根本から見直すべき

WWDJAPAN(以下、WWD):サステナビリティ全般に対する考えを教えてほしい。

三原康裕「メゾン ミハラヤスヒロ」デザイナー(以下、三原):作り手は責任を負うべきだし、僕も当然、環境汚染や大量廃棄、労働搾取などには反対だ。だが「リメイク商品を買いましょう」「もったいないから長く使いましょう」という言葉だけでは経済が回らない。結果的に持続可能(サステナブル)ではなくなってしまう。サステナビリティは大きく、環境、社会、経済の3つの軸で、それぞれにおける課題を考える必要がある。生産者、消費者の両方の視点で、僕らが追ってきた産業の中でモノ作りのあり方を、もう一度見直さなければならない。

WWD:革製品に対するネガティブな意見もある。

三原:革靴を作る僕も、これまでに海外の一部ジャーナリストやデザイナーからは「レザーを辞めないのか」とさんざん言われてきた。皮革産業は「動物を革のために育てている」「製品を使うと牛のゲップが増える」などの誤解を受けているが、革は畜産副産物であり、革のなめしは人間の歴史の中で古くから行われてきた。本来、捨てられるような皮を靴などに生まれ変わらせてきた。同時に、彼ら(ジャーナリスト)の言い分にも分かる部分はある。お互いが信念を持ってやっているからこそ、歩み寄ることも必要だと思う。そうすることによって皮革産業もこれからますます進化していくだろう。例えば、ESG対応として、世界的にレザーワーキンググループ(製造工程などにおける安全性や環境配慮などを審査する国際団体)の認証を取得する動きがあることは、業界にとっては明るい話だ。こういった流れが今後、皮革産業における世界基準になっていくのではないだろうか。

良質な原皮が手に入らない中で
日本の職人はなめし技術を高めてきた

WWD:ジャパンレザーに対しての思いは?

三原:日本の皮の輸入量は1970年代後半をピークに減少し、僕がこの仕事を始めた20数年前はEU諸国に比べて質の高い原皮が入りにくくなっていた。それを日本人は頑張って工夫して、他に負けないようないい革にしようと努力してきた。だからこそ、日本の職人たちは知識が豊富で、皮革業界全体のレベルも高い。

WWD:ブランドとして、これまでも日本製の靴作りにこだわってきた。

三原:僕が20年ほど前に考えた革靴は、アッパーを縫い終わったあとに水に浸けて、ギュッと縮ませて絞ることで完成した。革問屋に大量に余っていた傷が多いバッファローレザーを使った。買い手がつかず、大量に余っていた。これをどうしたものかと考えた結果、わざと悪くする方法を思いついた。靴は“革が化ける”と書くと職人からよく聞いたものだけど“、悪く化かす”のもかっこいいんじゃないか、と。その発想がヒットし、在庫を全て使い切った。一方、そういう靴がはやったことで、綺麗な革を扱っていた問屋や靴屋に打撃を与えてしまったと思っている。産業のためによかれと思ってやったことが、ある世界では真逆に働き、すごくショックだった。だからこそ、サステナビリティは“危険性”もはらむ。リメイクやリユースを推奨すれば、一次流通が上手くいかなくなり、二次流通が大きくなる。はやるものがあれば廃れるものもあるのが、ファッションの特性なのだけど。

皮革産業は変革期
商売には“正直さ”が必要

WWD:皮革産業のサステナブルの未来を作るには?

三原:僕はこの先もデザイナーとしてモノ作りを続けたい。僕がこの業界に入った22、23歳のとき、職人の世界は、30〜40代の人はおろか、もっと年上の人ばかりだった。職人の世界は閉鎖的なものだから、若い人をなかなか受け入れない。今もその状況を変えよう、靴業界を盛り上げようと、率先してインタビューにも応えてきた。それでもなかなか苦労している。僕ら世代が、若い人に向けて皮革産業の未来を一方的語っているから「、先生と生徒」みたいな感じの構図になりつつある。これからは、全てのステークホルダーを巻き込みながら、根本的にサステナブルな仕組みを一から作り直さなくちゃならない。

WWD:モノ作りにおける今後のビジョンは?

三原:今、皮革業界は変革期だ。この20年間は特に、安くて、質のいい海外製のものが増えてきた。日本が唯一、巻き返せる方法があるとしたら、仕事に向き合う上で“正直さ”を忘れないことだ。かつて靴業界の先輩に「商売は正直じゃないとダメだ」と言われた。本当に正直に商売と向き合ったら、皮革業界は生まれ変わることができるはずだ。例えば革靴は長く履けば履くほど足になじむのが魅力だし、僕はそういう靴を作ることに信念を持っている。真面目に革と向き合って商品を作れば、その熱意は必ず消費者にも伝わる。皮革産業ももう一度元気を取り戻し、新しい時代が来る。僕はそう信じている。


TEXT:YUKI KOIKE
問い合わせ先
日本皮革産業連合会
03-3847-1451