ファッション

「ギャルソン」で「グレイト・リセット」という神の啓示 「マックイーン」が頂上決戦に参戦【2023-24年秋冬パリコレ取材はどこまでもVol.5】

 本日は、“ギャルソンデー”。朝イチは「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」、お昼は「ノワール ケイ ニノミヤ(NOIR KEI NINOMIYA)」、そして夕方は「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」と濃密なコレクションが続きます。早速「ジュンヤ ワタナベ」から参りましょう!

10:00 「ジュンヤ ワタナベ」
レッド・ツェッペリンで
ぶっ飛ばす漆黒のバイカーズ

 朝イチの「ジュンヤ ワタナベ」は、レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)の名曲「カシミール」にインスパイアされて、荒野をバイクでぶっ飛ばすようなタフネスウーマンを黒が主役の脱構築的なバイカーズスタイルで描きました。

 この歌は、荒野を駆け抜け、まるで空を飛んでいるように時間と空間を超越した感覚を覚えた若者の歌です。漆黒のバイカーズスタイルからは、まさにそんな疾走感と、予期せぬ未来に立ち向かう逞しさを感じます。アウターは、バッグやライダースなどを解体・再構築して生み出したもの。強いスタイルではありますが、ブルゾンには曲線のシルエットや大きなフリル、パフスリーブ、トレーンを引くスタイルも。朝からバキバキの元気をもらいました!

10:45 「JWアンダーソン」
「シモーン ロシャ」
「モリー ゴダード」

 次のショーの前に、ロンドンブランドのショールームをチェック。「JWアンダーソン(JW ANDERSON)」「シモーン ロシャ(SIMONE ROCHA)」と「モリー ゴダード(MOLLY GODDARD)」のショールームを訪れました。

12:30 「ノワール ケイ ニノミヤ」
なぜか人々を魅了する
有機的なモレキュール

 「ノワール ケイ ニノミヤ」は、今シーズンも神々しい!同じ現場にいた栗野宏文ユナイテッドアローズ上級顧問は、「後光が差していましたね(笑)」とおっしゃり、私は「新しい生命体が誕生した!」ようなムードを覚えました。そのくらい“何かにみなぎっていた”コレクションです。

 冒頭の赤やピンク、紫の花々に加えてシルバーの花までピョンピョンと飛び出し咲き誇ったコクーンシルエットのピースに代表されるよう、今シーズンは「百花繚乱」な“モレキュール・スタイル”です。二宮さんの作品は、モレキュール(分子)のように小さなパーツを無数に規則的に組み合わせるからこそ、有機的なシルエットを生み出して人々を魅了します。だからこそ、人々は「後光」とか「生命体」とか、そこに生命力のようなパワーを感じるのです。その後も、棘のように見えるモールを絡ませたPVCのドレスから可憐な花々を咲かせてみたり、反対に満開の花々をトゲトゲネットの中に押し込めて今にもはち切れんばかりの躍動感を表現してみたり。後半は、花々の代わりにリボンがハーネスウエアを彩ります。

 翌日の展示会で気づいたのは、こうした作品は、引きで見れば圧倒されるけれど、寄りで見ても実に美しいということ。分子構造に魅了されてしまう科学者がいるように、人間って連続性には弱いですよね(笑)。モレキュール・スタイルには、外見から構造まで、さまざまな人を魅了する可能性があることを再認識しました。

 足元については、こちらの記事をどうぞ!

13:30 「アンドレアス・クロンターラー フォー ヴィヴィアン・ウエストウッド」
ヴィヴィアンの遺産を
「何にも変える必要はない」

 創業デザイナーが亡くなった「アンドレアス・クロンターラー フォー ヴィヴィアン・ウエストウッド(ANDREAS KRONTHALER FOR VIVIENNE WESTWOOD)」は、エモくって、思わずウルッときちゃいました。

 ファーストルックは、ヴィヴィアンの顔をプリントしたベストにチュールのレイヤード、そこにクラシックなファブリックのラップスカートとタイツ、それにスーパー厚底のヒール付きブーツです。以降のコレクションは、ヴィクトリアン調の貴族から、相対するペザントルック(農夫のスタイル)、時にはパイレーツスタイルなど、ロックやパンクと双璧をなすヴィヴィアンの代表的な、退廃的でヒストリカルなスタイルがメーンです。

 親交のあった友人はモデルを務め、フィナーレには純白のウエディング姿の孫娘のコーラ・コーレ(Cora Corre)が登場。アンドレアスは彼女と共に、涙を堪えながらランウエイ一周しました。次回からは、いよいよ一人立ちです。アンドレアスは、「何も変える必要はないんだ」と語ったと言います。

15:00 「エルメス」
ボディコンシャスなウエアにも
最高峰のクラフツマンシップ

 「エルメス(HERMES)」は、引き続き自然と戯れます。前シーズンが砂漠なら、今シーズンは森の中。茶色の木々が林立する空間に木漏れ日が差し込むイメージです。

 森は、秋冬らしい深い色のみならず、シルクニットやケーブルニットなどで描く樹皮のような波模様で表現しました。「エルメス」や「シャネル(CHANEL)」は近年、若い世代の獲得を視野にプレタポルテでも若々しいスタイルを積極的に打ち出していますが、今回もニットの多くはボディコンシャス。時にコート縫い付けられていたり、時にセパレートだったりのストールのような生地を首元で交差させるなど、スタイリングも攻めています。キルティングで作るコートは、斜めがけしたバッグを裾に取り付けると寝袋になるそう!いや、実際は寝袋としては使わないと思うけれど(笑)、そんな遊び心こそ若々しさの秘訣です。

 とは言え、そこにクラフツマンシップもしっかり詰まっているのが「エルメス」らしさ。例えばプリーツスカートには、スカーフのモチーフが織り込まれているし、上述のケーブルニットには2種の異なるレザーが編み込まれています。

 バッグでは、ハーネスをつけた“バーキン”が登場!これは顧客の皆様の購買意欲を掻き立てること間違いなしですね!

16:15 「パコ ラバンヌ」

 お次は「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」の展示会へ。ランウエイには登場しなかったバッグや、コマーシャルピースを拝見です。全面メタルや総装飾のドレスは難しいけれど、デニムのウエスト周りやTシャツの袖口などへのワンポイントが可愛らしかったです。

17:25 「コム デ ギャルソン」
原点回帰のコレクションで
悟った「グレイト・リセット」

 「コム デ ギャルソン」は、2人1組のモデルがランウエイをゆっくり歩くことを12回繰り返すプレゼンテーションでした。毎回唐突に終了するBGMには正直、関連性なんて存在しないように思えます。今シーズンは、12の異なるクリエイションの集合体と考えるのが良いのかもしれません。

 ここまでの流れを見て感じ、「ギャルソン」で確信に変わったのは「グレイト・リセット」というキーワードです。

 今回のコレクションについて「ギャルソン」は、「原点に戻ること」、そして「コットンやサテンなどの普通の素材で、自由なパターンを作ること」の価値に向き合ったと言います。確かにコレクションは、「ギャルソン」らしい奇想天外な形ではありますが、布を一つ一つピン留めしたようだったり、それを丁寧に折りたたんで縫い付けたりなど、先日の「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」同様に一枚の布に向き合い、丁寧作り上げた印象があります。そして、そもそも既成概念を超越するのは「ギャルソン」の原点。つまり今回のコレクションは、服作りの原点の立ち返り、ブランドの原点の価値を再確認する意味合いが大きかったのでしょう。そしてこの後は、また新たなフェーズへ。そんな予感も抱かせました。次に向かうための原点回帰だから「グレイト・リセット」なのです。

 そして振り返れば、ここまでのパリコレでは、いずれも「グレイト・リセット」なブランドに心を動かされています。上述の「ヴィヴィアン・ウエストウッド」しかり、洋服好きの洋服好きによる洋服好きのためのコレクションを贈ってくれた「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」や、創業者の確固たるスタイルを現代に甦らせ続ける「サンローラン(SAINT LAURENT)」、そして本質に立ち返るために余分なディテールを排除した「ロエベ(LOEWE)」。

 15周年とは言えまだまだ短い歴史を振り返り毎年のアイコンを復刻させた「JW アンダーソン(JW ANDERSON)」など、リバイバルが多いのも「グレイト・リセット」な今シーズンのムードが影響しているのかもしれません。

 なぜ皆、「グレイト・リセット」なのか?一度リセットして、次は一体どこに向かうのか?はまだ見えてきませんが、以降はこのキーワードを胸に取材を続けたいと思います。

19:00 「アレキサンダー・マックイーン」
それ自体は主張しないスーツで
着る人の個性を主張する

 濃密な時間は、さらに続きます。久しぶりの「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」です。

 先程話した「グレイト・リセット」、洋服の本質や原点に立ち返るという意味においては、ベストブランドの1つですね。期待通り、最高のコレクションを見せてくれました。

 クリエイティブ・ディレクターのサラ・バートン(Sarah Burton)は、「テーラードの匿名性」に注目したと言います。キーワードだけ聞くと、「多様性の時代なのに?」と思うでしょうか?実際、サラの想いはその真逆で、この場合の「匿名性」とは、「洋服自体が主張しない」という意味。「普遍的なテーラードだからこそ、それ自体が主張しないスーツだからこそ、着る人の個性が際立つ」という考え方です。最近だと「ヴァレンティノ(VALENTINO)」も同様のアプローチですね。

 ランウエイに現れたのは、メンズもウィメンズも端正なスーツ。力強いショルダーラインと、曇りのないホワイトシャツ、そしてレザーのブラックタイというスタイルです。「ザ・王道」のエレガンスは、時にスーツ地がピンストライプに変わったり、ジャケット&パンツがビスチエタイプのドレスに変身したりしますが、いずれも圧倒的な美しさ。巨大な蘭のモチーフが美しさに、まさに花を添えます。漆黒のトレンチコートに真っ白なランを描いたトレンチは、ウエストマークから急速に広がるAラインを描いてドレスのようです。

 もう1つの特徴は、骨格を描いたようにボディコンシャスなドレスです。骨格描いたのは、洋服の“芯”や“核”を表現しようとするサラの想いの現れ。と同時にそれは、人間にとっても土台である骨に焦点を当てることで、やはり個々人の美しさを描こうとしているようにも思えます。

 「マックイーン」のショーは何度か見てきましたが、フィナーレでサラが自信満々にランウエイを駆け抜けた姿を見たのは初めてでした。きっと自信があったのでしょう。そう言えば上述した「エルメス」のナデージュ・ヴァンヘ・シビュルスキー(Nadege Vanhee-Cybulski)クリエイティブ・ディレクターも、今回は珍しくランウエイを闊歩していたっけ。「グレイト・リセット」して美しい洋服を完成させたデザイナーの自信を感じ、多くのデザイナーが、この方向性に向かって歩みを進めていることを感じました。

20:45 「アン ドゥムルメステール」
「ピュア」「ナイーブ」ではなく
「官能」のための繊細な生地使い

 本日最後のショーは、「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」。ルドヴィック・デ・サン・サーナン(Ludovic de Saint Sernin)新クリエイティブ・ディレクターによる新たな一歩のお披露目です。

 みなさん、ルドヴィックはご存知ですか?知らない人は、ぜひこちらをご覧ください。度肝を抜かれると思います(笑)。彼は今も続ける自身のブランドでは、ちょっぴり露出過多なきらいがあるほど、官能的なスタイルを得意としています。そんな彼が、どんな「アン」を作るのか?楽しみです。

 ちなみにこのブランドは現在、イタリアのセレクトショップのアントニオーリ(ANTONIOLI)がオーナー。だからこそ最近は、「アン」独特の気難しさは解消したものの、“売れる”平均点のブランドにシフトしていました。再びデザイナーズブランドとしての個性を期待したいところです。

 コレクションは、「アン」に通じる繊細な生地使いはあったものの、「繊細」や「ピュア」「ナイーブ」な人間像を描くためではなく、やはりルドヴィックらしく「官能的」なムードを携えるためのチョイスだったように思います。そして、インナーがほとんどない(笑)。もちろんコマーシャルピースでは用意していると思いますが、私の中の「アン」のイメージは、繊細な洋服を重ねて作る退廃的でポエティックなムードです。もちろん、今はそんな時代じゃないかもしれませんが、どこまでオリジンに近づいてくれるのか?自身のブランドとの差別化のためにも、1990〜2000年代の「アン」のレファレンスがもう少し顕著でも良いのかな?と思います。

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