ケリング(KERING)の2022年12月通期決算は、売上高が前期比15.3%増の203億5100万ユーロ(約2兆9508億円)、営業利益は同11.4%増の55億8900万ユーロ(約8104億円)、純利益は同13.8%増の36億1400万ユーロ(約5240億円)だった。
地域別の売上高は、アメリカ人観光客が増加した西欧が同37.6%増の55億6600万ユーロ(約8070億円)、北米は同18.4%増の55億4700万ユーロ(約8043億円)、日本は同22.8%増の12億4400万ユーロ(約1803億円)といずれも2ケタ成長となった。しかし、コロナ禍による厳しい外出規制措置が取られた中国を抱えるアジア太平洋地域(日本を除く)は同1.9%減の65億6800万ユーロ(約9523億円)だった。
ブランド別の売上高では、主力の「グッチ(GUCCI)」が同7.8%増の104億8700万ユーロ(約1兆5206億円)だった。しかし、同ブランドは中国市場への依存度が比較的高いことから、22年10~12月期(第4四半期)はコロナ禍による混乱のため前年同期比11.0%減となった。
同ブランドは現在、転換期にある。22年11月に退任したアレッサンドロ・ミケーレ(Alessandro Michele)前クリエイティブ・ディレクターの後任として、23年1月28日に「ヴァレンティノ(VALENTINO)」出身のサバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)を任命。ほぼ無名の同氏によるデビューショーは、23年9月のミラノ・ウィメンズ・ファッション・ウイークになる予定だ。
フランソワ・アンリ・ピノー(Francois-Henri Pinault)=ケリング会長兼最高経営責任者(CEO)によれば、後任の選定に当たり、候補者には課題として「グッチ」の未来に関するビジョンを一から作り上げた提案書と、同じく「グッチ」のアーカイブをベースにした提案書の作成を求めた。後者はブランドのヘリテージと現代性を融合する力量を見るためのものだが、デ・サルノ新クリエイティブ・ディレクターは、ブランドの現代的な解釈と時代に左右されないタイムレスな魅力の両方の表現に優れていたという。
また、「グッチ」は富裕層向けのプライベートブティック、“サロン(Salon)”を新たにオープンする。オーダーメードのスーツケースやトランク、エキゾチックレザー製のグッズ、家具、ハイジュエリーなど、4万~300万ユーロ(約580万~4億3500万円)の商品を中心に取り扱う。4月にまずロサンゼルス・メルローズにオープンし、将来的には旗艦店のワンフロアを“サロン”として使用する可能性もあるようだ。
ほかの主なブランドとして、「サンローラン(SAINT LAURENT)」の売上高は前期比30.9%増の33億ユーロ(約4785億円)、「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」は同15.8%増の17億4000万ユーロ(約2523億円)といずれも好調だった。
なお、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」が属するその他のメゾン部門の売上高は、同17.9%増の38億7400万ユーロ(約5617億円)だった。一方で、第4四半期は前年同期比2.8%減となっている。これは主に「バレンシアガ」のホリデーキャンペーンが児童虐待に当たるとしてSNSなどで厳しく批判されたことの影響だと見られている。
本件に関して降格や解雇処分がなかったことについて、ピノー会長兼CEOはプレス向けの決算説明会で、「誰しも間違いはある」と説明。「デムナ(Demna)=クリエイティブ・ディレクターの才能と、セドリック・シャルビ(Cedric Charbit)CEOのリーダーシップにより、この難しい問題を乗り越えられるものと確信している」と語った。また、ジャン・フランソワ・パル(Jean-Francois Palus)=ケリング マネジング・ディレクターは、再発防止策としてマーケティングコンテンツを監督するエージェンシーを採用したほか、グループレベルで各ブランドの安全性を管理するポジションの新設も検討していると述べた。同氏はまた、「本件の影響は薄れつつある。23年4~6月期には終わるだろう」とコメントした。
こうした複数の要因により、ケリングの22年第4四半期の売上高は同2.3%減(現地通貨ベースでは7%減)の52億8400万ユーロ(約7661億円)だった。ピノー会長兼CEOは、アナリスト向けの決算説明会で、「第4四半期の結果には満足していない。(『グッチ』と『バレンシアガ』には)大きなポテンシャルがあるし、大きな期待を抱いている」と語った。