2023-24年秋冬シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」が13日に開幕した。トップバッターは、小林祐と安倍悠治によるメンズブランド「イレニサ(IRENISA)」だ。東京都と日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)が共催するファッションコンペ「東京ファッションアワード (TOKYO FASHION AWARD以下、TFA)」の第8回受賞者に選出され、1月のパリ・メンズ・ファッション・ウイークでの展示会を経て、ブランド初のショーを行った。
異なるキャリアの実力派デュオ
同ブランドは2020-21年秋冬シーズンにデビューした。クラシカルなテーラードを軸に、素材と色、縫製、テクニックをアレンジした服を作る。小林デザイナーは「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」でパタンナーを、安倍デザイナーは「サポートサーフェス(SUPPORT SURFACE)」で企画・生産からデザインまでを担当し、共に10年以上の経験がある。デザインも生産背景も全く異なるため、意見がぶつかることもあるが、共通する美意識もある。「パッと見は普通かもしれないけど、普通じゃない服。2人ともこれを作りたくて」(安倍デザイナー)。
現在の取り扱いアカウントは約20。「TFA」に応募したのは、ブランドの飛躍と海外への挑戦のためだった。「立ち上げ当初から海外で勝負することを意識していた。3年が経ち、国内はアカウントが徐々に広がり、コレクションのボリュームも増えた。ようやくショーの準備が整った」と安倍デザイナー。注目を浴びるトップバッターを自ら志願し、「どうせやるなら、トップバッターとして記憶に残るショーにしたかった」と小林デザイナーは語る。
自然と人の手の融合
唯一無二の色と柄
今シーズンのテーマは“HAZY MOON(おぼろ月)”。月に照らされた木や川など、ブランドが大事にしてきた“自然”の色や質感を、テーラードを軸としたクラシックなウエアに落とし込んだ。柔らかなイエローとグレーのタイダイ風セットアップは、京都・友禅の刷毛(ハケ)染めによるもの。凹凸のあるコーデュロイ生地を一つ一つ手染めし、深くにじんだり、表面だけ染みたりして、独特な色彩が生まれている。かすれた風合いのストライプ柄は、台に染料を塗って版画のように職人が染め上げたもの。ブランド定番のカーキやブラウンといった優しいアースカラーは継続させつつ、ショーを意識した強い柄も採用し、コレクションの幅が広がった印象だった。
同ブランドらしいパターンワークやシルエットへのこだわりも見られた。アウターの多くには“モディファイドスリーブ”と名付けた独自のパターンを採用。肩線を通常より内側にし、袖側の生地分量を増やして、体形を選ばず肩のラインをきれいに見せる。テーラードジャケットやブルゾンなど、王道のメンズ服だからこそ、攻めのパターンが際立った。決して派手さはないが、どこか新鮮で、実際に触れてみたくなる――そんな同ブランドらしい強みを感じるショーだった。
会場は渋谷ヒカリエのイベントスペースで、椅子を川面のような流線形に配置し、スポットライトでランウエイを照らした。音楽は人の足音と鳥の鳴き声、風の音と電子音などで構成し、人と自然が共存するコンセプトを強調した。
1月に行ったパリでの展示会では、ビジネスには結びつかなかったものの、ブランドの強みである素材と色へのこだわりを評価されたという。初のショーを経て、これからどんな進化を続けていくか、今から楽しみだ。