大丸札幌店は今期(2024年2月期)を「再成長に向かう年」(林研一店長)と位置付けて、積極策に打って出る。コロナの前から渦中において実施した改装やサービス強化を軌道に乗せ、19年2月期に記録した過去最高売上高669億円の更新を目指す。
大丸札幌店はJR札幌駅南口の再開発によって03年に誕生し、今月で20周年を迎えた。10年2月期には売上高で丸井今井札幌本店を抜き去り、以後、北海道エリアの一番店の座を保持してきた。ターミナル直結の地の利を生かし、回遊しやすい動線に衣食住をバランスよくそろえる。同じJRタワー内のファッションビル「ステラプレイス」と多くのフロアで連結するため、若い世代の回遊も多い。
同店が近年、力を入れるのがラグジュアリーブランドや時計・宝飾品などの高額品、それらの利用頻度の高い外商事業だ。開業当初は後発だったことと、トラフィック(通行量)が多いターミナル立地を勘案して、ファッションはモデレート(中の上)のMDを厚くした。高額品は手薄だった。外商事業も開業時はわずか3人のスタッフだった。札幌最大の繁華街である大通り地区で古くから営業する丸井今井札幌本店や札幌三越が富裕層を抑えていた。
しかし百貨店として実績を積み重ねたことで、高額品のブランドを誘致しやすくなった。開業時はラグジュアリーブランドが入る特選ブティックは1階に4ブランドしかなかった。徐々に扱いが増え、20年には2階にも特選ブティックを増床したため、現在は「エルメス」「シャネル」「グッチ」「ボッテガ・ヴェネタ」「ロエベ」「サンローラン」「フェンディ」「セリーヌ」「ディオール」「バレンシアガ」「プラダ」など充実した顔ぶれになった。17年は時計売り場も増床している。
同時に外商事業のサービスも強化。21年には上顧客向けの休憩室「D’sラウンジ」を新設した。ラグジュアリーブランドなどの販売イベントを開くだけでなく、音楽ライブや相続相談などのセミナーを企画し、富裕層のニーズに応える。
同店の商圏は非常に広い。道内では過去20年間で百貨店の閉店が相次いだため、富裕層の期待に応えられる品ぞろえとサービスは札幌の百貨店にしかない。高田唯一郎・営業推進部長は「マーケティングを重ねていくと、札幌から離れた地方都市に富裕層のお客さまが少なくないことが分かった」と話す。09年には外商事業の開拓チームを組織し、道内全域で開業医や自営業者などの顧客獲得を始めた。自宅訪問型のセールスは難しいため、旭川、帯広、函館などのホテルで、外商客向けの催事を定期的に開いている。
取り組みの成果で外商事業の売上高はコロナ前に比べて3割ほど増えた。
林店長は「訪日客のお客さまがいなくなったコロナ禍の3年間、北海道のお客さまの期待に応えるべく積極的な投資を行ってきた。それが今期、一気に花開くことになるだろう」と話す。15日に発表された23年2月期の売上高は前期比21.6%のため、実績から単純計算すると600億円前後まで戻したもようだ。行動制限がなくなった今も回復が遅れている年配の顧客や、コロナ前まで最大ボリュームだった中国の訪日客の復活を見据え、受け入れ態勢を整える。
高田部長は「この20年間、商品やサービスの充実に努め、おかげさまで支持を得ることができた」と言いつつ、「歴史が長い丸井今井は地元で親しみを込めて『丸井さん』と呼ばれているが、我々はなかなか『さん』をつけてもらえず、そこまでの関係性を築けていない。北海道の産品をキュレーションし、全国に発信するなど、もっと地元に密着していく。北海道の百貨店として認められるよう頑張りたい」と話す。