ファッション
連載 進化する幸せ産業

コーヒーの“フォースウェーブ”を予測 最新マシンから「豆と音」まで新たな潮流【ウィズコロナで進化する幸せ産業】

“フォースウェーブ”はすぐそこに
自宅でサイフォンコーヒーの再現も可能な時代

 自宅で過ごす時間が増えた今、コーヒーの味わい方も変化し、サードウェーブからさらに変化した、“第4の波(フォースウェーブ)”が訪れるかもしれない。インスタントコーヒーの普及で家庭に広がった1970年代のファーストウェーブ、スターバックスなどシアトル系コーヒーチェーンが巻き起こしたセカンドウェーブを経て、豆の質や焙煎にこだわったスペシャルティコーヒーに代表されるサードウェーブをわれわれは体験した。これからは、質の高い豆を自宅で丁寧に抽出するトレンドが“フォースウェーブ”になると予測する人もいる。

 2月に発売したタイガー魔法瓶製の「サイフォニスタ(SIPHONYSTA)」は、それを体現したようなコーヒーマシンだ。時間と技術を要するサイフォンによる抽出を、炊飯器や電気ケトルで培った技術を生かし、自動で、しかも自分好みの抽出方法や温度で仕上げることを可能にした。同じ豆でも風味で3段階、濃さで3段階と、9通りの風味を試せることになる。上質なスペシャルティコーヒーの豆本来の風味を引き出し、自宅で気軽に味わえる。

 マシン自体も、コンパクトで洗練されたデザインで、シリンダーの上下パーツを食洗器で洗えるメンテナンスの楽さも家庭用としてふさわしい。自宅で本格的なエスプレッソやカフェラテを作るマシンは浸透したが、スペシャルティコーヒーの一番おいしい飲み方を再現できるコーヒーメーカーは思い浮かばなかった。一部のマニアだけでなく、ちょっとしたコーヒー好きにも扱いやすい設計なのだ。

カフェや焙煎所から発信する
アンバサダープログラムを導入

 販売方法も画期的だ。公式サイトでの訴求に加え、カフェやロースタリーなどコーヒーのプロがアンバサダーとして「サイフォニスタ」の魅力や機能を伝え、販路を広げる戦略だ。アンバサダーは、店舗でマシンを展示することで消費者に体験や試飲の機会を提供し、タイガー魔法瓶は彼らにコミッションを支払う。このアンバサダープログラムによって、豆を販売する各店舗はより消費者との絆を深められるだろう。スペシャルティコーヒーの入門者としては、「この豆にはこの風味、濃さのボタンで抽出せよ」「これくらいの温度がおすすめ」などの具体的なサジェスチョンがあるとうれしい。優秀なコンシェルジュがいれば、豆の力を最大限に生かせるだろう。

 もともと海外市場を視野に入れた製品ではあるが、アメリカでクラウドファンディングによる先行市場導入を試みたところ、開始4日間で目標金額を達成し、最終的には目標の271%の金額が集まったという。欧米では、すでにフォースウェーブがそこまで来ているのだ。

コーヒーを科学する「虎へび珈琲」が
渋谷パルコに常設オープン

 コーヒー好きに朗報も。焙煎場を新潟に構え、COFFEE & SCIENCEをテーマとする「虎へび珈琲」のフラッグシップストアが3月21日、渋谷パルコ3階(アウトサイド)にオープンする。主軸は、元科学者にして焙煎士である今井惇人。渋みやタンニンを科学的にコントロールし、研究を重ねた科学的データをもとに、豆の旨味を最大限に生かすオルタナティブコーヒービーンズブランドだ。コーヒーのおいしさは、お湯の温度や蒸らす時間、豆の挽き方、そして淹れる人の技術に左右されることも多く、渋みやえぐみの成分となるタンニンをコントロールすることは難しい。だが「虎へび珈琲」では、生豆の状態から意識的にタンニンを抜く“ディタンニング”の技術を取り入れることで、誰が淹れても上質な味わいになる豆を実現した。

 独自の科学製法と焙煎技術を武器に、豆の持ち味を引き出す。雑味がなく、ドイツの研究機関に“99.9%カビのないコーヒー”として認定されるほどだ。化学薬品や添加物は一切使わず、水や超音波などによって安全なコーヒーを提供している。有機栽培したスーパーフードであるビーツの栄養素を取り入れたオリジナルの豆など、研究に余念がない。

 コーヒー通の間ではすでに注目されていた「虎へび珈琲」だが、ファッションブランド「サスクワァッチファブリックス(SASQUATCHFABRIX.)」とのコラボレーションなど、独自の世界観を築いてきたことでも注目されている。これまでも、「ロールス・ロイス(ROLLS ROYCE)」や、同じく新潟県を拠点とするアウトドアブランド「スノーピーク(SNOW PEAK)」など、各分野のエキスパートとのコラボレーションで世間を驚かせてきた。

 今回オープンする渋谷店では、アパレルや陶芸など、さまざまなアーティストとコラボレーションしたアイテムも販売予定だ。第1弾は、サカナクションの山口一郎氏率いる新ブランド「YI(YAMAICHI)」とコラボレーションした “YAMAICHI BLEND”ドリップバッグ。同時に、山口氏自身が愛飲するアイスコーヒーのレシピを再現するなど、フラッグシップストアならではの体験を提供する。他にも、「サスクワァッチファブリックス」とアーティスト上田走氏とのトリプルコラボレーションのフーディーとスエットシャツも限定発売。ファッションブランド「ベータポスト(BETA POST)」とは、レザーで珈琲豆をイメージしたコインケースネックレスを販売する。よりボーダレスなアプローチでコーヒーともにある世界を広げていく。

虎へび珈琲がオープンする渋谷パルコ
スぺシャルティコーヒー×音楽の相乗効果を狙うプロジェクト

 他にも、豆と音楽を組み合わせ、その相乗効果を提案する「豆と音」なる試みにも注目だ。プロジェクトを立ち上げたのはFMラジオ局のディレクターの池田雄一。同プロジェクトの実店舗はないものの、六本木のイベント「ジャズ ハウス アルフィー(JAZZ HOUSE Alfie)」など、ライブイベントでコーヒーと音楽を提供している。池田さん自身がDJとして選曲することもあり、“音”は楽曲だけでなく、“山道を歩いたときの小鳥のさえずり”など、“山道を歩いたときの小鳥のさえずり”など、各地で収録した音源や生活音などの効果音もミックスし、コーヒーの産地の空気を伝える。焙煎した豆はネット販売以外にも、「ザ ベイク ハウス(THE BAKE HOUSE)」や「フラットコーヒー(FLAT COFFEE)」といった店舗やオフィスへの納品など、主にBtoBに販路を広げている。

 味覚だけでなく、音にまで五感を広げることで、自分と向き合う時間はさらに豊かになる。「バリスタがステージに立つミュージシャンだとすると、豆の知識を伝える焙煎士は演出家のような存在」と、「豆と音」の池田さんは語る。きたるフォースウェーブにはそんな味方を見つけることが、鍵となりそうだ。

 プライベートを充実させる付加価値への対価を惜しまない層が増えている。自動サイフォンを可能にするコーヒーメーカーや、目利きが選び焙煎した豆が、日常を上質にしてくれる。コロナ禍で、それぞれが自身のライフスタイルに向き合うことになり、コーヒーはよりパーソナルなものに進化している。

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