毎週発行している「WWDJAPAN」は、ファッション&ビューティの潮流やムーブメントの分析、ニュースの深堀りなどを通じて、業界の面白さ・奥深さを提供しています。巻頭特集では特に注目のキーワードやカテゴリー、市場をテーマに、業界活性化を図るべく熱いメッセージを発信。ここでは、そんな特集を担当記者がざっくばらんに振り返ります。(この記事は「WWDJAPAN」2023年3月20日号からの抜粋です)
村上:今季のパリコレは、「パワーショルダーを基調としたテーラード」「オープンバックのミニマルなドレス」「ピンヒール」など、脱ストリートが鮮明ですね。本当にロゴやグラフィティを前面に押し出した、キャッチーなインスタ映えスタイルが減りました。こうした変化の源泉は、どこにあるんでしょう?
藪野:先のメンズ・コレクションでも見え始めていましたが、デザイナーのマインドは、SNSでのバズやトレンドを作るよりも、服作りの本質に向き合い、改めて美しいものを生み出すというところに変化しているように感じました。原点や歩みを振り返るブランドも多かったですね。一方で、ショーに来場するセレブ合戦は加熱していましたが、これはデザイナーの意向ではなく、ブランドの戦略というところが大きそうです。
村上:以前、有名なデザイナーと交際していた方から、「常々デザイナーは社会を鑑みてコレクションを生み出しているのに、マーケティングになると刹那的なコラボなどが前面に押し出されて陳腐化してしまう。デザイナーは、ずっと悩んでいた」という言葉を思い出すシーズンでした。確かに裾野を広げるという意味においては、セレブ戦略も必要だと思います。でも、刹那的に消費されるだけの事象としてしか語られなくなってしまうのは、危惧すべきこと。改めて業界全体が団結し、本質的な魅力を発信すべきタイミングだと感じますね。
藪野:まさに!そういう意味で、今シーズンは服と着る人の関係に着目して“服への愛”を表現した「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」や、6歳の頃にテーラーでパンツを仕立てたという原体験や服の本質を見つめ直したデムナの「バレンシアガ(BALENCIAGA)」が、とても輝いて見えました。
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村上:メンズ同様に世界観を見せつけた「サンローラン(SAINT LAURENT)」、スーツ作りに定評のある「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER MCQUEEN)」含めて、ライバルのLVMHに比べて服作りに重きを置いている印象のケリングブランドはいずれも魅力的でしたね。個人的なベストは「ヴァレンティノ(VALENTINO)」。値段はともかく、普遍的なスタイルをストリートにスタイリングして若い世代に継承するという、最近のメゾンの方向性がとても明快でした。
藪野:やはり服好きとしては、丁寧に作られた美しい服が心に響きますね。改めて“何を伝えるか”を考えさせられたシーズンでもありました。