「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」の2023-24年秋冬コレクションのショー会場は、おなじみのオテル・ドゥ・ヴィル(パリ市庁舎)。山本耀司自身が歌うレナード・コーエン(Leonard Cohen)の「I’m your man」からショーがスタートした。
序盤に登場したのは、シワシワの端切れ風パッチとダーツや切り替えを駆使した複雑なパターンが印象的なドレスや、いくつもの裁断されたようなパーツを紐でぶら下げたウールコート。そこには、「ヨウジ」ならではの不完全な美を感じる。その後も中心となるのは、アシンメトリーなシルエット。プリーツやドレープ、絡み合うようなベルト状の装飾を取り入れながら、巧みな生地使いで動きを生み出していく。
そんな黒を主軸にしたコレクションにアクセントとして挿したのは、鮮やかな赤と深みのある紺。ギターを弾く山本の姿を描いた刺しゅうからは糸が垂れ下がり、ジャラジャラと下がるチェーンや安全ピンはパンキッシュなイメージを醸し出す。
中盤に流れたのは、イエロー・マジック・オーケストラ(Yellow Magic Orchestra、通称 YMO)の名曲「ライディーン」のエレクトリックギターと弦楽器でのアレンジ。これは山本と親交が深く、今年1月に亡くなったメンバーの高橋幸宏を思っての選曲だろう。ランウエイに登場したシャツコートの背中には、山本自身が描いたスーツをまとう男性のようなデッサンがのせられていた。関係はないというが、そこに高橋やYMOの姿を重ねずにはいられなかった。
そして、山本が1991年に発表したCDアルバムの収録曲「心のそばの胃のあたり」の哀愁感漂うしっとりとした歌声が響く終盤に向かって、装飾的な要素は削ぎ落とされていく。印象的なのは、胸元や袖口に飾りボタンやブローチをつけるかのように幾何学的なビーズモチーフや刺しゅうだけあしらった、すっきりとした黒のロングドレス。ラストには、その装飾さえ廃し、巧みな仕立ての技術を際立たせたドレスをまとう二人のモデルが裸足でランウエイに登場。シンプル&ピュアでありながらも「ヨウジ」らしさを感じさせるスタイルでショーを締めくくった。