2023-24年秋冬のニューヨーク・ファッション・ウイークはベテランの復活に沸いたが、個性豊かな若手の活躍にも注目したい。まず、移民の国アメリカではアメリカン・コリアンをはじめ、韓国人の勢いが増しており、ファッションにおいても同じことが言える。「アシュリン(ASHLYNN)」のアシュリン・パーク(Ashlynn Park)や「ナヨン(NAYON)」のナヨン・キム(Nayon Kim)など、ソリッドなデザインを提案する韓国系の若手は要注目だ。また、クリエイションとしては両極を走るが、今シーズン初めてファッションショーを行った「メルケ(MELKE)」や「サム フィンガー(SAM FINGER)」など、アップサイクルやリサイクル素材を使った古着のような風合いのコレクションを発表する若手も目立った。ファッションへの価値観が変わってきている今、時代を超えて着ることができる“タイムレス”な服がキーワードとなっている。
注目の若手、「アシュリン」の
アシュリン・パークにインタビュー
アシュリン・パークは「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」や「カルバン・クライン(CALVIN KLEIN)」でパターンメーカーとしての経験を持つ、韓国出身の実力派若手デザイナーだ。2022年度の「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」のファイナリストにも選ばれ、緻密なパターンと構築的かつ女性らしいシルエットに定評がある。23-24年秋冬コレクションは観客の目の前で布を裁断し、スカートを構築していくというプレゼンテーションを見せた。現在はニューヨークを拠点に活動をするアシュリン・パークに今シーズンのコレクションについて聞いた。
WWDJAPAN(以下、WWD):今回のコレクションは、16世紀の生活と歴史に目を向けたが、なぜこのテーマを?
アシュリン・パーク(以下、アシュリン):今シーズンのテーマ「サブライム・ビューティ」は、16世紀の生活と歴史に基づいています。私は、宮廷の服装や生活、遊び、時には戦闘シーンにおける、王子の美学やアイデンティティに興味を持ちました。物事の二律背反を探求し、歴史と関わりながら、異質な要素から意味のあるデザインを生み出すことに挑戦しました。
WWD:王子の美意識とアイデンティティに関心を持ち、それをウィメンズに落とし込もうと思った?
アシュリン:すべてのデザインにおいてボリュームとシェイプで遊び、マスキュリンとフェミニンをミックスしています。16世紀のチューダー様式やエリザベス様式、宮廷服や軍服など、時間、空間、性別の垣根を越えて、洗練されたロマンチックなコレクションを作り上げました。
WWD:近年、ジェンダーレス化が進んでいるが、今回のコレクションでも意識した?
アシュリン:そうですね、ジェンダーレスな服をコレクションに取り入れることは、以前からずっと考えていたことです。
WWD:「女性らしさ」や「男性らしさ」という言葉や表現がある中で、ジェンダーレスなファッションが進むことは何を意味している?
アシュリン:意図的にジェンダーレスなものをデザインしているわけではありませんが、「男性らしさ」と「女性らしさ」を掛け合わせたデザインを楽しんでデザインしています。今までメンズとウィメンズのデザインに携わってきました。2つの要素が自然に混ざり合って、デザインに表れているのだと思います。男性用、女性用と分けてデザインする必要はありませんが、機能面を考慮する必要はあると感じています。
WWD:実際に布を裁断し、シェイプを作っていくというプレゼンテーションを選んだのはなぜ?
アシュリン:服をデザインすることの背景にあるリアリティを紹介し、そのプロセスを見せたかったのです。私たちのチームは、常に細心の注意を払いながら一着一着を作り上げています。それがプレゼンテーションで伝わったと思います。
WWD:今回のコレクションで一番見てほしいポイントは?
アシュリン:大胆で遊び心のあるエレガントな洋服と、マスキュリンとフェミニンのコントラストの美しさです。また、素材やプロポーションを試しながら、歴史的なコンセプトや要素を自分のデザイン言語や現在のコアバリューとミックスしたあたりにも注目してほしいです。
他にも要チェックの若手はコチラ
「メルケ」
デザイナー:エマ・ゲージ(Emma Gage)
ニューヨーク・ファッション・ウイークでの初のランウエイショーを発表。小説家ロアルド・ダール(Roald Dahl)の名作「ジャイアントピーチ」などからインスピレーションを得た今シーズン、モデルのジャケットやドレスに桃のアプリケを施し、ニットやボトムスにもネズミのアプリケ。ダークな一面と遊び心のあるアイテムが溢れた。職人の手仕事に焦点を当てて不揃いであることを受け入れたというだけあり、刺しゅうやニットワークなどのクラフト感は色濃い。サステナビリティにフォーカスした素材を多用している。シューズは「ドクターマーチン(DR.MARTENS)」とのコラボレーション。
「サム フィンガー」
デザイナー:サム・フィンガー(Sam Finger)
デザイナーの思いがこもった14体でデビューした。アップサイクルなピースをクチュール的に昇華させたというコレクションは、一点モノと既製服が交差し、日常服へと落とし込まれている。リサイクルデニムと引っ越しで使う緩衝材を使ったトレンチコートなど、サステナビリティな方法で生産した素材やデッドストックを用いる。一点モノさながらの個性的なアイテムが多く、素材そのままの風合いがいい雰囲気を出している。ニューヨーク出身のデザイナーらしく、ニューヨークを取り巻く環境や文化、コミュニティーがコレクションに表れている。
「ナヨン」
デザイナー:ナヨン・キム
K-POPスターのスタイリングを手がけていた韓国出身のスタイリスト、ナヨン・キムが2022年にスタートしたブランドで、今シーズンが初のお披露目となる。ジェンダーニュートラルに焦点を当てたコレクションは、ハンサムな印象を抱くテーラードアイテムが中心だ。無骨な建築のスタイルでもあるブルータリズムにインスパイアされたというコレクションは打ちっぱなしのコンクリートを思わせるグレーに統一。鎧のように身体を包むコートやドレスには留め具がなく、鎖だけで縛られている。ジェンダーレスでハンサム、性別にとらわれない無骨なコレクションだ。